より価値ある商品を提供するため、花王はヤフーのデータソリューション「DS.INSIGHT」を活用し、顧客理解の深化に取り組んでいる。従来からデータ分析に積極的だった同社は何を課題と感じ、「DS.INSIGHT」で何を実現したのか。DX戦略推進チームと事業部の視点から、その足跡を語る。
協力/ヤフー
従来の手法では、顧客の“今”をつかめない
人々の快適な暮らしに欠かせない健康や美、衛生をさまざまな製品やサービスで支える花王。同社は以前から積極的にデータ分析による顧客理解に取り組んできた。
「データを基にした定量的な気づき、お客さまの声を直接伺うことによる定性的な発見。その両方をとても大切にしてきました」
そう話すのは、花王をデータドリブンな組織にするというミッションを担って2021年に設置された、DX戦略推進センターのカスタマーサクセス部 カスタマーアナリティクス室でECビジネスやデータを活用した事業支援を行う稲葉里実氏だ。また、同部署でデータ分析を手がける有地拓也氏も、「保有している大量の購買データ、口コミのレビューデータを分析し、顧客理解に努めてきました」とその取り組みを説明する。
そうして顧客理解を深めれば深めるほど、欠けている部分もはっきりしてきた、と両氏は語る。
「時代の変化が激しく、お客さまのインサイトも目まぐるしく変化し、従来の手法ではお客さまの“今”を捉えにくくなりました」(稲葉氏)
「購買後のデータが集まれば集まるほど、購入に至る前の認知や興味、検討におけるデータが不足していて、0次分析に物足りなさを感じるようになりました」(有地氏)
より深い顧客理解が、お客さまから選ばれる商品を生む
花王 コンシューマープロダクツ事業部門のヘアケア事業部でリーゼブランドのヘアカラーを担当する上村健祐氏も、より早い段階から、データに基づく深い顧客理解が必要だと感じていたという。
「さまざまな製品のレベルが全体的に上がってきていて、差別化は難しくなっています。そうした中でお客さまの心の琴線に触れ、価値を感じていただくには、お客さまがどんな方なのか、どんなことを考えていらっしゃるのかをしっかり理解する必要があります」(上村氏)
そこで花王ではより深い顧客理解のために、ヤフーが提供する「DS.INSIGHT」を2021年9月に導入した。「DS.INSIGHT」は、ヤフーが保有する検索データや位置情報データなどのビッグデータをブラウザー上で調査・分析できるツールだ。
ヤフー データソリューション事業本部 カスタマーサクセス部 カスタマーリレーション リーダーの辻井潤一氏は「DS.INSIGHT」について、「日本をデータドリブンにしていくというビジョンに基づいて展開している事業です。データの活用を通じてさまざまな企業や自治体などの課題を解決し、最終的には良い商品やサービスなどをお届けすることで、データの価値を社会に還元していくことを目標としています」と説明する。
花王は「DS.INSIGHT」を用いて、どのように顧客理解を深めたのだろうか。
データが仮説を裏付ける
ヘアカラー担当の上村氏は、以前からSNSなどで口コミ分析を行っていた。
「髪を染める場合、美容院で染めるのと、自宅で染めるセルフカラーの2つの選択肢があります。そのうちセルフカラーを選ばれている方が、リーゼブランドの商品をどのように捉えられているのかについては、かなり分析をしてきました。しかし、それだけでは見えてこない部分もあります。その代表的なものが、セルフカラーに興味を持つきっかけが何であったかです」(上村氏)
きっかけについてはユーザーインタビューでもたびたび尋ねてきたが、ユーザー自身がなかなか言語化できないこともあり、その把握に苦労していたという。
そこで上村氏は「DS.INSIGHT」を用いて、顧客がセルフカラーやその周辺情報について検索する前後に、何を調べているのかを探った。すると、以前から持っていた仮説が裏付けられたという。
「白髪染めのように課題から入るセルフカラーもありますが、私が主に担当している黒髪用ヘアカラーはおしゃれの一環として捉えられています。ゆえに、ファッションやメイクと組み合わせた髪色の提案が有効なのではないか。こうした仮説は以前から持っていましたが、裏付けとなるデータに乏しく、確信にまでは至っていませんでした。しかし、『DS.INSIGHT』での分析で『仮説は間違っていなかったな』と確認できました」(上村氏)
さらに、新たな発見もあった。
「おしゃれのためのセルフカラーに興味を持って検索した方は、続けてセルフカラーのブランドや色のバリエーションに興味を持って検索していただけるのかな、と思っていました。ところが、実際にはお客さまの関心の対象はすぐにセルフカラーから離れ、メイクやネイル、ファッションへと移っていることが分かったのです」
稲葉氏も感じていたように、顧客のインサイトは瞬く間に変化していたのだ。
ただ、稲葉氏は「私たちデータの専門家だけであれば考察が途中で終わっていたように思います」と、この発見は商品やお客さまに精通した上村氏だからこそ得られたものだと補足する。
有地氏も「分析結果について事業部とディスカッションするたびに、自分にはない視点に気づかされます。同じデータを事業部門とDX戦略推進部門が見ながら語り合うことの大切さを実感します」と話す。
ヤフーの辻井氏も、異なる視点で同じデータを見ることで得られる発見は多いと指摘する。
「『DS.INSIGHT』をご利用いただいている小売業の方からは、バックオフィスでデータを見すぎていると全体感が分からなくなることがあり、そうしたときに現場のスタッフにデータを見てもらうことで、『こういうことですよね』という示唆が得られることがあると聞いています」
事業部視点だからこその発見が、DX戦略推進センターにも新たな視点を与え、事業を通じて社会に横展開されていく。
優れたUXでスモールスタート可能
現在、花王は所属がDX戦略推進センターであるか事業部門であるかを問わず、「DS.INSIGHT」を全部門で利用できる環境の整備を進めている。しかし、「DS.INSIGHT」の導入時はスモールスタートだったという。
「導入前から事業部にも使ってもらいたいと考えていました。私たちに分析を依頼してもらい、分析し、それを返すのではスピード感が遅く、自分ごと化されにくいからです。ただ、事業部はとにかく忙しい。そのためまずはDX戦略推進センターで導入し、上村さんのようにデータ分析に積極的な事業部の方と成功事例を作ったうえで全社に広げることを考えました」と稲葉氏は振り返る。
その点でも、ユーザー数の拡大に柔軟に対応できる「DS.INSIGHT」は魅力的だった。また、上村氏は「DS.INSIGHT」のユーザーフレンドリーなUXも高く評価している。
「取りつきやすく、使いやすいです。マニュアルを読み込まないと使えないとなると導入に腰が重くもなりますが、少し教えてもらっただけですぐに使えるようになりました」(上村氏)
ヤフーの辻井氏は「DS.INSIGHT」のUXについて、「データアナリストやデータサイエンティストに限らず、あらゆる職種の方に使っていただけるように意識していまして、使いやすいだけでなく、もっと使いたくなるビジュアライゼーションにも挑戦しています。お陰様で21年にはグッドデザイン賞も受賞しています」と話す。
より深い顧客理解を可能にし、使いやすく、広げやすい「DS.INSIGHT」。上村氏は、今後は戦略の策定にも活用していきたいと語る。
「まだ学びを得ている段階なので、今後はそれを戦略に落とし込み、また検証も行っていきたいと思います。そのときに大切なのは速さです。これまでは、個別の戦略の成果を検証しようとするとインタビューやアンケートが欠かせず、3カ月ほど経たないと戦略のブラッシュアップや見直しができないのが現実でした。『DS.INSIGHT』を活用することで、スピーディーでタイムリーな調整ができると期待しています」
事業部門がより積極的にデータ分析をするようになることで、稲葉氏や有地氏はDX戦略推進に向けた新たな課題に挑戦できるという。
「そのうちの一つが、今はさまざまなツールやデータからSNS、Web行動、購買、口コミなど顧客のステージごとに分析している“点”での理解を、いかにしてカスタマージャーニーとして“線”で顧客理解・可視化するか。さらには、そこからいかにしてお客さまが何を価値と感じているのかを見いだすという挑戦です。これができれば、花王はよりお客さまに寄り添った提案ができるようになると思っています」と稲葉氏は先を見据えている。
ヤフーの辻井氏は、花王の取り組みは「DS.INSIGHT」の導入と展開における1つのサクセスのパターンだと指摘する。
「私たちにとって花王様は大切なお客さまでもありこれからもサポートをさせていただきますが、それだけでなく、日本全体のデータドリブン化に向けて、『DS.INSIGHT』を活用しながら一緒に取り組んでいければと考えています」
「DS.INSIGHT」を活用した花王のケースは、多くの日本企業の手本となりそうだ。
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