経済産業省は2022年6月17日、「令和3年度コンテンツ海外展開促進事業(Z世代におけるeスポーツおよびゲーム空間における広告価値の検証事業)」の報告書を公表した。全151ページに及ぶ資料では、ゲーム空間におけるZ世代の消費行動と広告価値を、事例を挙げてまとめている。

Z世代は今後の消費をリードしていく世代。彼らが多くの時間を費やすゲーム・eスポーツ領域への広告効果を検証した(写真/Shutterstock)
Z世代は今後の消費をリードしていく世代。彼らが多くの時間を費やすゲーム・eスポーツ領域への広告効果を検証した(写真/Shutterstock)

 「コンテンツ海外展開促進事業」は、日本発のアニメ、マンガ、映画、音楽などのコンテンツおよびコンテンツ技術に関するビジネスマッチングの機会を提供することで、国際取引の活性化や新市場の創出を図るプロジェクトだ。今回の報告書ではZ世代のニーズや彼らに刺さるコミュニケーションツールの分析、eスポーツをはじめとするゲーム空間における消費行動と、そこに広告を提供した場合のポテンシャルの分析、eスポーツにおけるスポンサー露出のケーススタディー調査および各企業へのヒアリング調査をまとめている。

 1990年代後半以降に生まれたZ世代は、今後の消費をリードしていく世代だ。スマートフォンやSNS(交流サイト)に幼少期から慣れ親しんでいる彼らの消費行動は、旧世代のそれとは異なる。Z世代の商品やブランドの認知経路は、従来のテレビ・新聞からSNSや動画共有サービスに移行しており、インフルエンサーや自身が所属するコミュニティーの影響を受けやすい。

 またZ世代の消費行動には、商品認知から購入までの期間が短い「パルス型消費」が発生しやすいという特徴がある。消費行動の上流(認知、訴求)においては単方向型のマーケティングでもいいが、下流(行動、推奨)に行くほど対話型のマーケティングが有効になる。気に入った商品をその場で購入し、SNSに投稿するZ世代に刺さるのは、ユーザー体験やコミュニケーションといった対話型のマーケティングだ。

世界におけるZ世代の購買力は約15兆円といわれている。米国では総消費の40%をZ世代が占め、その購買力は22兆円まで成長すると予想されている
世界におけるZ世代の購買力は約15兆円といわれている。米国では総消費の40%をZ世代が占め、その購買力は22兆円まで成長すると予想されている
Z世代の情報収集ツールはSNSや動画共有サービスが主流となっている
Z世代の情報収集ツールはSNSや動画共有サービスが主流となっている

 世界的に見たゲームの市場規模は23年には2046億ドルに達するという試算もあり、プレーヤー人口も30億人を超える見込み。Z世代は「プレーする」「視聴する」という2つの点でゲームに対するエンゲージメントが高い。Z世代の約8割がゲームを経験しており、可処分時間の多くを他の娯楽よりもゲームに費やしている。他の世代に比べて、ゲーム実況・配信の視聴時間が長いのもZ世代の特徴だ。

 それは、Z世代にとってゲームがコミュニケーションツールの一つであり、コミュニティー形成の場となっているからだ。多くのゲーム会社がユーザー同士のコミュニケーションを促進するために、音声通話機能、フレンド機能、グループ機能など、さまざまな機能を自社のゲームに実装している。また技術の進歩にともなってゲーム体験も変化しており、最近ではゲーム内空間で音楽ライブを実施するなど、ゲーム以外の体験を提供するメタバース的な動きも広がっている。

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 またゲーム関連の動画コンテンツでも配信者とユーザー、およびユーザー同士のコミュニティーが形成されている。YouTubeで人気の高いゲーム実況配信者のチャンネル登録者数は1億人にも上る。10代男性の約46%、20代男性の約33%が週に1回以上の頻度でゲーム実況動画・攻略動画を見ているという調査結果もある。

Z世代のゲーム経験率は8割超。1週間の平均プレー時間は7時間20分に上る
Z世代のゲーム経験率は8割超。1週間の平均プレー時間は7時間20分に上る
Z世代は他の世代に比べて動画視聴の時間が長い。また10代、20代男性のYouTube視聴における好きなジャンルは「ゲーム実況」が1位となっている
Z世代は他の世代に比べて動画視聴の時間が長い。また10代、20代男性のYouTube視聴における好きなジャンルは「ゲーム実況」が1位となっている

 一方、世界におけるeスポーツ関連の市場規模は24年には16.2億ドルまで成長するとみられており、eスポーツ人口も5.8億人に到達する見込み。日本においてもeスポーツ関連の市場は700億円規模に迫っており、足元のeスポーツ人口も1700万人と推計されている。

 そんななか注目されているのがeスポーツ広告市場だ。広告手法は大きくスポンサーシップと、ゲーム内にブランドロゴを表示したりアイテムとして商品を登場させたりするインゲーム広告に分かれる。

 eスポーツのスポンサーシップ先には「選手・チーム」「イベント」「施設」などがあり、命名権や独占販売権といった権利を得るためにさまざまな企業がスポンサーとして参入している。スポンサーシップを実施している企業としては、「全国高校eスポーツ選手権」の日清食品ホールディングス、「忍ism Gaming」のメガネスーパー、「Crest Gaming」の東京地下鉄(東京メトロ)など、二十数社が挙げられる。

 一方インゲーム広告は、海外での活用事例は多いものの日本でのビジネス展開はこれからという状況。インターネット広告やテレビ広告と比較してインプレッション単価が安く、Z世代へのターゲティング精度が高い点で今後が期待されている。

世界におけるゲーム市場は右肩上がりで成長しており、2023年には市場規模で2046億ドル、プレーヤー人口で30.5億人に到達する見込みだ
世界におけるゲーム市場は右肩上がりで成長しており、2023年には市場規模で2046億ドル、プレーヤー人口で30.5億人に到達する見込みだ
世界におけるeスポーツ市場ではスポンサー・広告収入が約6割を占める。eスポーツ先進国である米国ではeスポーツ広告市場が約2.3億ドル規模まで成長しており、日本でも今後の成長が見込まれている
世界におけるeスポーツ市場ではスポンサー・広告収入が約6割を占める。eスポーツ先進国である米国ではeスポーツ広告市場が約2.3億ドル規模まで成長しており、日本でも今後の成長が見込まれている

 eスポーツ市場の発展における課題は、収益の増加とコンテンツの安定的な創出だ。新しい収益源としては、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したNFT(非代替性トークン)や暗号資産(仮想通貨)ビジネスが注目されている。またコンテンツの安定的な創出のための課題は、eスポーツ選手の経済的地位の向上。そのためには選手が競技に専念できるようする環境の整備とともに、選手の活躍に応じて収益を還元できるエコシステムの構築が急務となっている。

(写真提供/経済産業省)

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