移動・位置情報ベンチャーのunerryは2022年7月28日、東証グロース市場に上場する。新型コロナウイルス感染症拡大によって、人の移動に関わるデータ、すなわち「人流データ」に対する注目が高まり、過去3年間の売上高は年平均成長率で63%増という驚異的なスピードで成長した。事業拡大の転機となったのはコカ・コーラウエスト(現コカ・コーラボトラーズジャパン)のグループ会社との資本業務提携だ。コロナ禍での人流データの活用ニーズの変化などについて代表取締役CEO(最高経営責任者)の内山英俊氏に聞いた。

内山 英俊 氏
unerry 代表取締役CEO
ミシガン大学大学院コンピュータサイエンス修士課程修了。大学院在籍中にITベンチャーを設立。その後、経営コンサルティング会社に勤務して企業再生などを手掛け、再起業を意識するようになる。2005年、日本のモバイルベンチャーに入社してマネジメントスタイルを確立。07年にスマートフォン普及を推進する企業を共同創業し、日本のオムニチャネル市場の創出に寄与。15年ビーコンなどを活用したリアル行動データプラットフォームを運営するunerryを創業

――今回、上場した目的は何か。

内山英俊氏(以下、内山) 上場するうえでの目的としては、移動・位置情報、すなわち「人流データ」が社会のメインストリームになるように信用をつくっていくことだ。これまで人流データの成功例は少なかったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で急速に注目が集まり、利活用が進んだ。だが、データとしてはまだまだ“亜流”のため、社会のインフラとして信用してもらうことを目指す。

――人流データに対するニーズは、新型コロナウイルス感染症拡大によってどう変化したのか。

内山 コロナ禍前後で180度変わったと言っても過言ではない。従来は広告代理店や販促支援会社が新しい宣伝手法として、広告主に移動・位置情報を活用した広告商品を提案したいという問い合わせがほとんどだった。だが、それは成約に結び付かない割合が多かった。

 成約の確度は、代理店の担当者の移動・位置情報に対する理解度に大きく左右される。広告主にとっては広告施策の優先順位もあるため、問い合わせがきたからといって、すぐに売れるような商品ではなかった。

 ところが、コロナ禍後はメーカーや小売業者といった、事業会社から直接問い合わせをもらうケースが非常に増えた。外出自粛などの影響で、人の行動に大きな変化が表れる中、人流の把握の重要性が増したことがその要因だ。移動・位置情報の提供元を探すときに、当社が検索サイトなどの検索結果で上位に表示されるため、問い合わせが増えた。

 例えば、小売事業者の出店などに先駆けた商圏分析は、コロナ禍前から誰もがやっている分析だが、国勢調査などが分析するデータの大元だった。だが、そうした調査の実施頻度は5年に1回だ。これまでのデータは使えなくなるかもしれない。そのような不安が広がる中、よりリアルタイムなデータの必要性が高まった。

 需要の高まりを受け、当社の過去3年間の売上高は年平均成長率で63%増という高水準になっている。

――具体的にはどのような分析をしたいという問い合わせが増えたのか。

内山 小売業者はコロナ禍で客が増えたところと、減ったところの二極化が進んだ。これまで、1人の消費者が3店舗のスーパーマーケットを使い分けていたのが、行動範囲が狭まり、2店舗に減るといったことが起こったからだ。店舗事業者は通常、自社の店舗の来店傾向しか精緻には分からない。当社のデータを使えば、近隣にある他の店に人が戻っているかどうかといった、競合も含めた消費者の店舗利用の変化が人流データから分かり、対策案を考えるうえで参考になる。

 また、メーカーからすると、顧客の動向は小売店経由の売り上げでしか見られず、来店者数などは分からなかった。それだけではコロナ禍の消費者分析ではデータとして不足しているため、どの小売店に人が訪れているのかといった情報をなるべくリアルタイムに知りたいというニーズが高まった。当社のデータを使えばそれが分かる。

店舗の来店客のライフスタイルを人流データで分析し、テナントの誘致に活用する例も現れていると語る
店舗の来店客のライフスタイルを人流データで分析し、テナントの誘致に活用する例も現れていると語る

 リアルタイムであることは、先行指標として活用できることが重要だ。当社のデータでは東京・六本木の人通りが前日より2割減ったといったことが、翌日には分かる。逆に人が戻ってきているなら、店を開けたり、従業員を増やしたりしないといけない。三菱地所は自社オフィスビルのフロアに約700個のビーコン(近距離無線通信端末)を設置して、オフィスの人流を把握した。そうしたデータがあることで、飲食フロアの営業可否やフードトラックの斡旋(あっせん)などの判断が可能になる。

 最近は活用法もさらに進化している。東京・青山のある商業施設では、施設の来店客層が自社以外にどのような店舗を利用しているのかをデータから分析した。すると、グルメに対する感度が非常に高いことが分かった。このデータを、フランスの高級パンブランドを誘致する妥当性を示す材料にした。そのように顧客が自社以外の場所でどのような購買行動を取っているのかを分析して、マーケティングに生かす事例も現れている。不動産、公共交通、金融、自治体などからもデータ活用の問い合わせが増えている。

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