「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」の活用範囲が拡大し、最新のテクノロジートレンドに敏感な一部のITスタートアップだけではなく、大手企業による参入や個人利用も急速に進んでいる。なぜNFTは世界規模で注目を集めるのか。事業面で期待されていることや注意したいことなどについて、日経クロストレンドの記事を中心にさまざまな角度からNFTをひもといていく。

音楽、スポーツ、アートなど国内でもさまざまな分野で企業がNFT事業参入を始めている(写真/Shutterstock)
音楽、スポーツ、アートなど国内でもさまざまな分野で企業がNFT事業参入を始めている(写真/Shutterstock)

(1)NFTとは

 「NFT」とは、Non-Fungible Token(非代替性トークン)の頭文字を取った造語。トークンとはブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用し、発行した暗号資産の総称だ。これを用いたNFTは「持ち主を限定できるようにしたデジタルデータ」のことを指し、「非代替性」と訳されるように、替えが効かない唯一無二のトークンだ。ブロックチェーンの特徴である、ネットワークにつながった多数のサーバーで情報を共有することで、情報の改ざんを困難にしている。

 具体的な活用方法の1つとして、デジタルデータが固有のものであることの証明書が挙げられる。簡単に複製ができるデジタルの世界において難しいとされてきた、数量限定品、一点物なども、NFTを使うことで容易に実現できる。例えば、クリエイターが制作したデジタルアートはその一例。NFT化することで、オリジナル作品であることの証明になる。

 また、ブロックチェーンによって所有者が記録されるため、NFTを用いた作品の購入者が二次流通市場で第三者に譲渡しても、制作元の著作権者、すなわちクリエイターに一定割合の著作権料を還元する設定も可能だ。

NFTを採用したデジタルコンテンツは流通経路がすべて記録されるため、二次流通市場での売買活性化への期待も大きい
NFTを採用したデジタルコンテンツは流通経路がすべて記録されるため、二次流通市場での売買活性化への期待も大きい

 NFT作品は将来性への期待から、投資目的で高額取引されるケースも多い。世界的に話題となったのは2021年3月、デジタルアーティストのビープル氏の作品がオークションハウス「クリスティーズ」のオークションにて、約75億円で落札されたニュースだ。米プロバスケットボールリーグNBAの「デジタルトレーディングカード」の中には、数千万円の値が付く人気のものもある。これは有名選手のシュートシーンの写真に、歴史的なプレーのハイライトの動画がセットになったものだ。

 国内では、VR(仮想現実)アーティストのせきぐちあいみ氏の作品「Alternate dimension 幻想絢爛(けんらん)」が21年3月、最大級のNFTプラットフォームとして知られる米オープンシーの「OpenSea」にて、約1300万円の高値で落札され話題となった。その他の主要NFTプラットフォームとしては、米ラリブルや独ミントベースなどがある。

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(2)企業の新規参入が相次ぐ理由

 デジタルコンテンツは、すぐに複製されてしまうことが著作権者には問題だった。複製や改ざんを防ぐNFTが普及すれば、音楽や動画、漫画、アニメなどの作品において、新たなマーケットでビジネスを拡大できる可能性がある。新規参入が急増している背景には、そうした新市場創造の可能性があるからだと考えられる。

(3)NFTマーケットと国内の主要プレーヤーの動き

 国内ではNFTを取引できるマーケット(取引所)の立ち上げも盛んだ。以下に国内の主要プレーヤーの動きをまとめた。

・GMOインターネットグループ
 21年8月末、同年6月に設立した新会社を通じてNFTマーケットプレイス「Adam byGMO」ベータ版の提供を開始した。Adam byGMOは、NFT作品の出品・購入のためのプラットフォーム。イーサリアム(仮想通貨)による決済のほか、口座振り込みやクレジットカード払いに対応するなど多様な決済手段を持つ。また、作品購入の都度、NFTコンテンツの作者であるクリエイターにロイヤルティーが還元される仕組みとなっている。クリエイターのファンはAdam byGMOで作品を購入することで、応援するクリエイターの継続的な支援にもつながる。22年4月には、NFTの検索・保有・管理ができるスマートフォンアプリ(iOS版・Android版)の提供を始めた。

・メルカリ
 21年12月16日、NFT事業への参入を発表。プロ野球パ・リーグ6球団の共同出資会社パシフィックリーグマーケティング(東京・中央)と共同で、パ・リーグ6球団の試合映像から抜粋した名場面などの動画コンテンツをNFT化して数量限定で販売した。参入当初はNFTで使うメタデータを記載して自社のサーバーで販売していたが、22年以降はカナダのダッパーラボのブロックチェーン「Flow(フロー)」使ったコンテンツ管理を始めるなど、サービスを拡充している。購入したNFTを再販できる二次流通マーケットも立ち上げる予定で、そこでは「メルペイなどで培った本人確認技術などが生かせる」という。

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・楽天グループ
 22年2月に、NFTを購入し利用者同士で取引できる「Rakuten NFT」を開始した。スポーツ、アイドル、漫画・アニメ、アートなどさまざまな分野を中心に、IPホルダーがNFTの発行と販売サイトの構築ができる企業向けサービスと、ユーザーが購入したNFT作品を個人間で売買できる消費者向けサービスを提供する。

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・LINE
 22年4月、ユーザーがNFTを購入・取引が可能なNFT総合マーケットプレイス「LINE NFT」の提供を開始。LINEから、簡単な操作・決済方法でNFTを購入(一次流通)、及び利用者間で取引(二次流通)できるというもの。LINEのアカウントから登録できるデジタルアセット管理ウォレット「LINE BITMAX Wallet」で保管できるため、ユーザーは自分のNFTを、LINE上の友人・知人と交換したり、送り合ったりすることができる。

 LINEが運営するキャンペーンプラットフォーム「LINEで応募」などのLINEの他サービスとの連携も進めている。企業がマーケティングを目的に、商品やサービスの購入特典やキャンペーン景品などとしてNFTを付与する機会を増やしていく。同時に、LINEのプロフィルへのNFT設定や、国内で約600万セット以上(22年3月時点)が売られているLINEスタンプ(大型絵文字)において、NFTを導入する予定。

(4)NFTマーケットで流通している商品は?

 アート作品などの「アート系NFT」、ゲームキャラクターやチケットなど「ゲームを含むユーティリティー系NFT」、特典やアイドルなどファンがいるIPを使った「コレクティブNFT」の3つが主な商品だ。

 NFTマーケットの「nanakusa」では、20年10月、アイドルグループSKE48の公式NFTを発売したところ、用意した5枚1000円の100パックが販売開始から20秒ほどで売り切れたという。

 ゲームもNFTとの相性がよいとされている。例えば、ゲーム内で成長させたキャラクターを他の利用者に譲渡しやすくなる。購入者は成長に時間を割くことなく、すぐに成長したキャラクターで遊べる。真贋(しんがん)を見極められるうえに、発行先もたどれるのがNFTの利点。他のゲームに乗り換えたいときに、成長させたゲームキャラをマーケットで売ることで、成長に費やした時間などの投資コストを回収できる。

 ベトナム発のゲーム「Axie Infinity」はキャラクターやアイテムを転売できることなどから、ゲームで生計を立てる人も増えているとされる。NFTを使った「ブロックチェーンゲーム」とも呼ばれる。

(5)リアルでも進むNFT活用

 NFTを、アニメのセル画、Tシャツやパーカーなどのアパレル、ウイスキーの樽(たる)、不動産分野などリアルな物と連携させて活用する動きもある。

 アニメのセル画を販売するRAKUICHI(東京・千代田)は、21年11月20日、NFT化したセル画を中心に展示する店舗「楽座NFTマーケットプレイス・ギャラリーラボTOKYO」を東京・千代田の商業施設「有楽町マルイ」の7階に開設した。ギャラリーで直接の販売はしておらず、展示作品を見られるだけだ。購入したい場合は、RAKUICHIが展開するアニメ特化型のNFT作品販売サービス「楽座」にアクセスする。

 楽座では、所有していることを証明できるNFTが付いたリアルなアニメのセル画を販売している。百貨店で売られている鑑定書や、認定書の付いたセル画や原画などの現物作品を所有する権利をNFT化しているのが特徴。NFT所有者がNFTを無効化(BURN)すると、現物のセル画や原画が所有者に配送される仕組みだ。

 NFTを活用することで、現物を日本に残したまま世界に作品を流通させられる。ブロックチェーンなら、収益が日本に入ってくるエコシステムもつくれることから、権利者に正当な対価が入る仕組みも構築可能だ。これまでに数千万円の値が付いたものもあるが、1枚数万~数十万円程度が最も売れるという。

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(6)NFTにおける課題

 ゲーム関連やデジタルアート、音楽コンテンツ、雑誌のデジタル付録など、さまざまなビジネスモデルが模索されるNFTだが、課題もある。1つは決済の問題。NFTはブロックチェーンを使うため、暗号資産で購入しなくてはならない場合が多い。既に暗号資産を保有している人からすれば便利だが、デジタルアートが欲しくてNFTを初めて使ってみたいという人にとっては、まず暗号資産を持つこと自体がとても高い壁になる。

 また、NFTは誰でも発行できるため、他人の作品をNFT化して流通させる“にせ物”も少なくない。極端な話、検索で拾った画像データをNFT化することも可能だ。NFTの改ざんは難しいが、正規品を流通させるにはどうすべきか、デジタルコンテンツ一般に言えることだが、これが担保されなければ権利者はビジネスに踏み込みにくいと言える。

(7)企業が注意すべき3つの法的ポイント

 企業がNFTを活用した事業を行う際、注意すべき法的ポイントは3つある。1つは暗号資産関連の法律、2つ目は賭博罪、3つ目は景品表示法だ。

・暗号資産管理の法律
 「決済に使えるトークンではない」ことを確保する必要がある。金融商品のような見え方になってしまうと、金融商品の取引の規制にかかるからだ。純粋なNFTであることが求められる。

・賭博罪
 ゲーム関連などで特に気にしたいのが、賭博罪。参加費を払いプレーで勝つと何かしらのインセンティブを得られる場合、日本では賭博罪に当たる可能性がある。日本ではその範囲が広く定義されているため、万が一抵触すると刑罰があるという。そのため、金銭的価値を持つNFTコンテンツにこうしたゲーム性を取り入れることには慎重になる企業が多い。

・景品表示法
 景品表示法では、総付け(購入者全員プレゼントなど)の場合、取引金額が1000円未満であれば景品は200円まで、1000円以上の場合は取引金額の20%相当が上限となっている。一方、抽選や応募作品の優劣などで景品を提供する懸賞では、取引金額が5000円未満なら20倍、5000円以上なら上限10万円という規制がある。

 ベトナムのブロックチェーンゲーム「Axie Infinity」を日本で展開するのが難しいのは、この法律があるからと言われている。なぜならAxie Infinityはプレーするときに3体のNFTを買わなくてはいけないが、その3体を買う目的が、“報酬をもらえる”だった場合、「物を買うとおまけがもらえる」という景品表示法の規制に抵触するからだ。

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