「マーケの危機」今、再考すべきこと 第9回

おとり広告や、ナンバーワン広告、ステルスマーケティングなど、マーケティングや広告への信頼が損なわれるような事案が頻発している。「人」を忘れた手法にのっとったものをマーケティングだと勘違いし、そうした事態を招く企業の姿勢に、マーケターの鹿毛康司氏は警鐘を鳴らす。

かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター 「お客様の心に向き合う」をテーマにマーケターとして活動中。同時にクリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲を手掛ける
かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター 「お客様の心に向き合う」をテーマにマーケターとして活動中。同時にクリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲を手掛ける

 僕はおとり広告や、ナンバーワン広告、ステルスマーケティングは極めて詐欺に近いものと思っています。なぜなら顧客をだまそうと意図的につくっているものだから。驚いたのはそうしたニュースがあっても、SNSで検索すると、そのことに触れている人が思いのほか少なかったこと。つまり、そういった行為は詐欺的だということを分からずにいる人がとても多い。異を唱える人が少ないから、内部の人は反省しなくて済むのかもしれません。マーケティングの本質を知らないから、悪いことをしているという感覚がそもそもないのかもしれません。

 本来マーケティングとは、どんなお客様に、どんな価値で、どうやって喜んでもらうかを考える活動のことです。「喜ばせてくれてありがとう」とお客様は代金を支払ってくれる。喜んでいただくという大切なテーマなしに、つまりはお客様がすっぽりといないまま、STP(Segmentation:セグメンテーション、Targeting:ターゲティング、Positioning:ポジショニング)分析、4P( Product:商品、Price:価格、Place:流通チャネル、Promotion:広告・販売促進)理論といった手法だけをなぞっている人を見かけます。

 すると、向き合う相手が「喜んでもらうお客様」ではなく「金づる」になり、「広告に1位と書くと売れやすくなるらしいよ」「こんな記事があったら引っかかるよ」とプロモーションを安易に考えてしまう。 これって商品が売れて自分たちだけが利益を得られればいいと、自分たちのためにやっていることですよね。企業はお客様に喜んでもらってはじめて存続できるのに。

 マーケティングもどんどん変化してきました。STPや4Pの思考に「全人格的アプローチ」が必要だといわれ、インサイトに代表されるような「心」をちゃんと理解しなければいけない時代です。お客様を餌食扱いせずに「心を持った人」として大切に考えたならば、こういう詐欺的手法は無くなります。

 マーケティングには「心」が必要だと分かったという人に話を聞いてみると、「心を込めてどんな人がいるのかを探します。心を込めて我々の商品のどこがいいかを探して、心を込めてそれを訴求します」と言うんです。でもそれは「お客様の心を理解しよう」としているのではなく、自分が心を込めて仕事をしているという精神論であり、自分の利益だけを考えるマーケティングといってもいいかもしれません。

 結婚相手を探す女性に例えて考えてみると、「心を込めて世の中にどんな男性がいるかを探します。心を込めて私は自分のアピールできるところを探します。心を込めて私のいいところを訴求します」と言っているのと同じことです。自分のことしか考えていないのです。

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