「マーケの危機」今、再考すべきこと 第3回

2022年は年明けからマーケティングの信頼を揺るがす事件、不祥事が相次いだ。22年9月にもキリンビバレッジのジュースブランド「トロピカーナ」で景品表示法違反があった。目先の売り上げのための小細工が、「マーケティングとは消費者をそそのかして売りつけること」という悪印象になって消費者に浸透すれば、自分の首が絞まる。何のためのマーケティングなのか。マーケターとしての矜持が問われている。

2022年は年明けからマーケティングの信用にかかわる事件、トラブルが相次いだ(写真/Shutterstock)
2022年は年明けからマーケティングの信用にかかわる事件、トラブルが相次いだ(写真/Shutterstock)

 「トロピカーナ『100%メロンテイスト』 実はメロン2% 景表法違反」――。2022年9月6日の夕方、こんなニュース記事がニュースメディア各社から一斉に配信された。キリンビバレッジが製造・販売する「トロピカーナ 100%まるごと果実感 メロンテイスト」(900ml)について、消費者庁が景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、再発防止を求める措置命令を出した。

 対象は20年6月~22年4月に販売していた商品パッケージで、「100% MELON TASTE」などの表記が景表法に抵触した。実際は、リンゴ、ブドウ、バナナの果汁が98%を占め、メロン果汁はわずか2%だったという。

 香料を用いてメロンの風味を出しているため、実際に飲んでみると確かに“メロンジュース感”がある。トロピカーナシリーズの他商品「オレンジ果汁100%」「アップル果汁100%」などと同様に、「メロン果汁100%」とうたいたいところだが、それはできない。苦肉の策として編み出したのが、「100% MELON TASTE」などの微妙な表現だった。だが消費者庁はこれを、「あたかも、本件商品の原材料の大部分がメロンの果汁であるかのように示す表示」と判断。これを受けてキリンビバレッジは、22年5月4日以降が賞味期限の同商品について、パッケージ表示を変更した。

 主な変更点は以下の通りだ。

・パッケージ下部:「メロンテイスト」と「果汁100%」の隣り合わせ表記を排除
・パッケージ左端:「100% MELON TASTE」を「100% FRUIT JUICE」に変更
・パッケージ写真:リンゴ、ブドウ、バナナが目立つ写真に変更

(左)問題になったパッケージ表記 (右)修正後のパッケージ
(左)問題になったパッケージ表記 (右)修正後のパッケージ
「メロンテイスト」と「果汁100%」の隣り合わせ表記を避け、「100% MELON TASTE」は「100% FRUIT JUICE」に変更。メロンを目立たせるために存在感を薄めていた、リンゴ・ブドウ・バナナの写真を目立つように修正した

 果たして消費者は、メロン果汁100%と誤読すると購入意欲が高まって、他のフルーツもブレンドしたメロン風味のミックスジュースだと分かると買う気が損なわれるのだろうか。

 マイボイスコム(東京・千代田)が20年8月に1万人超を対象に「果汁入り飲料に関するインターネット調査」を実施している。果汁入り飲料に期待することとして、「健康によい」「果汁100%」「ビタミンなどの栄養素が摂取できる」などが挙がる一方、果汁入り飲料の不満点として、「本当に体にいいのかエビデンスを示してほしい」「カロリーが多い」という声があった。だが、ミックスジュースを毛嫌いする声は特に見当たらない。消費者ニーズとはズレたポイントで誤読を誘う表現を用いて、揚げ句、景表法違反という、勇み足にしては手痛い代償を払うことになった。

 「メロン果汁がわずか2%」と報じられたことは、トロピカーナシリーズにとってダメージになるだろう。売り上げの多くを占めるオレンジ、アップルまで、果汁100%に懐疑の目を向ける消費者が少なからず出てくる恐れがある。22年9月13日に期間限定商品として発売予定だった「トロピカーナ ざくろ&プルーンテイスト」も、同シリーズ商品が消費者庁から措置命令を受けた直後であることから、発売を中止した。

 自己満足の背伸び表現、ちょい盛り表現が、長年かけて築いてきたブランド価値を毀損してしまう。異業種のマーケターにとっても人ごとではない。

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