今やBtoB、BtoC共に購買行動の起点となっているのが事前のWebでの情報収集だ。この時点で選ばれなければ、購買につながる機会はまずないと言っていい。いうなればこのWebの営業力を上げることが、デジタルマーケターの最大の課題といえる。こうしたなか、Webの営業力を上げるには何が必要なのか、Web営業力を左右するテクノロジーは何なのかと悩むマーケターも多い。今回の連載では、Web営業力を底上げするパーソナライズについて解説すると共に、成功させることが難しいパーソナライズをどのように実現していくべきか、具体的なヒントを紹介する。

Webを訪れた顧客のデータを分析し、パーソナライズに生かす(画像はイメージ、出所/Shutterstock)
Webを訪れた顧客のデータを分析し、パーソナライズに生かす(画像はイメージ、出所/Shutterstock)

Webの「営業力」で差がつく時代に

 今や商品やサービスを購入する前に、Webでその商品やサービスを調査することは当たり前となった。BtoB案件であれば、購入前に候補企業やソリューションを絞り込み、営業担当者に電話するときには既に購入を決めている。BtoCの購買でも、Webの口コミサイトやSNSの評価を見て購入するかどうかを決める。「顧客が来店したときに、既に購入する意思とモノは定まっている」というZMOT理論が米グーグルから提唱されたのは2011年のことだが、新型コロナウイルス感染症の拡大を経て、BtoB/BtoCの購買におけるWebの存在感はますます強くなっている。

 ZMOTとはZero Moment of Truthの略。来店する前の0(ゼロ)状態のときに購入意思を決めることを「真実の瞬間」と呼ぶ。このときに自社の商品やサービスが選ばれないと、その後挽回することはほぼ不可能だ。逆にいえば、人間の営業力が優れていても、Webの営業力がゼロであれば、どんなに優秀な営業担当者でもその能力は発揮できない。だからこそ、選ばれるようになるWebが必要なのだ。

追求すべきは「来訪者への心地良い体験」の提供

 自分が一人の顧客として、洋服を購入するときのことを考えてみよう。欲しい洋服のイメージや着て行きたい場所、色、素材などを店員に伝えると、候補の商品をいくつか提示してくれるはずだ。もちろん店員は、あなたが来店したときに性別やおおよその年代、サイズなどを判断しているので、場違いな商品が提示されることはない。

 あなたは気になる商品を試着したり、色違いやデザイン違いを店員に尋ねたりして、欲しい商品のイメージが徐々に固まっていく。店員もプロの目で見て、「最初はこれを薦めたけれど、別の商品のほうが動きやすくて良さそうだ」「あっちの商品のほうがより洗練された着こなしになる」というアイデアがあれば、それらを提案する。そうしたコミュニケーションを重ねることで、「この店はいろいろ話を聞いてくれていいな」「最初に伝えた好みや希望を踏まえて最適な提案をしてくれる」と好印象を抱く。最終的には「今回はシャツを購入し、また次の季節にはこのお店でジャケットも購入しよう」となる。このように、その店の体験やコミュニケーションが心地良いものであれば、購入の意思も商品もすんなり決まってしまう。

リアル店舗におけるコミュニケーションのイメージ
リアル店舗におけるコミュニケーションのイメージ
(出所/サイトコア)

 Webの営業力を上げる鍵は、リアル店舗で優秀な店員が提供している体験を、デジタル上で実現することにほかならない。ポイントは「自社Webに来訪してくれた人に、いかに心地良い体験を提供できるか」ということだ。

Web営業力の鍵はパーソナライズ

 何を心地良いと感じるかは人それぞれだが、1つ押さえておかなければならないのは「来訪者を理解する」ということだ。

 リアル店舗であれば、性別や年代、どんな商品を何のために購入したいのか接客を通して知ることができる。しかしWebサイトではこうした会話ができない。ならばデータで確認できる情報を有効活用し、その人に応じたコンテンツを出し分けて、“良い接客”や“心地良い体験”を提供する必要がある。それがパーソナライズだ。

 例えば、同じWebサイトを閲覧しに来ても、AさんとBさんでは、掲示されるコンテンツが違う。初めてサイトを訪れた人は原則同じコンテンツを見ることになるが、何度か訪れたことのある人は、これまでの行動データに基づいて、コンテンツが変わる。初めて訪れる人であっても、この人がどんな人か、趣味嗜好や購買傾向を知る方法があれば、サイトが表示するコンテンツは変わる。

17
この記事をいいね!する
この記事を無料で回覧・プレゼントする