軌道に乗るか 企業のデータ“販売” 第3回

ソフトバンクは、日本気象協会とともに、自社が抱える人流データに日本気象協会が保持する気象データを加え、AI(人工知能)を活用して需要を予測するサービス「サキミル」を小売り・飲食業界向けに開発し、2022年1月31日から提供を始めた。NTTドコモの「モバイル空間統計」をはじめ人流データを提供するサービスは既にあるが、気象データを加味し、業界を絞って需要予測サービスを提供するのは初の試み。その狙いを探った。

ソフトバンクは日本気象協会と共同で、AI(人工知能)を活用した需要予測サービス「サキミル」を開発した(出所/ソフトバンク)
ソフトバンクは日本気象協会と共同で、AI(人工知能)を活用した需要予測サービス「サキミル」を開発した(出所/ソフトバンク)

 ソフトバンクが日本気象協会と共同開発したAI(人工知能)需要予測サービス「サキミル」とは、基地局から得られる数千万台の端末の位置情報を基にソフトバンクが統計処理し、個人が特定できないように匿名化した人流統計データと、日本気象協会が保持する地図上の1㎞メッシュで示された14日先までの「気温」「日射量」「風速」「降水・降雪量」「湿度」「降水確率」などの気象データ、それに導入企業が保有する店舗ごとの売り上げや来店客数などの各種データを、ソフトバンクと日本気象協会が共同で開発したAIアルゴリズムで分析し、高精度な需要予測を行うサービスだ。最初は「来店客数予測」のみを提供するが、順次、導入企業が扱う商品やサービスの実際の需要予測まで、予測範囲を拡大していく計画だ。

「社会課題の解決」を前面にうたう

 このサキミルの特徴は大きく分けて4つある。

 第1は、既存のサービスのように実際の人流データを提供するのではなく、14日(2週間)先までの毎日の需要(最初は店舗ごとの客数)の「予測」を提供できることだ。ソフトバンクと日本気象協会が小売り・飲食業界向けに共同で開発した独自のアルゴリズムを用いることで、店舗周辺の商圏内の人流動向を把握。これにより、「過去の来店実績だけに頼らない予測が可能になる」(ソフトバンク法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第一ビジネスエンジニアリング統括部 需給最適化PF事業部部長の藤本康史氏)というわけだ。

 特徴の第2は、サービスの提供に当たって、利用者のプライバシー保護を最優先に考えることはもちろん、このサービスで「社会課題の解決を目指す」と明言していることだ。具体的には、小売り・飲食業界向けに高精度な需要予測サービスを提供することで、「フードロス」を減らし、「脱炭素」活動に貢献し、「労働人口低下」に対応してサービスの質を維持あるいは向上できるとうたっている。特集第1回において、野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 パブリックポリシーグループマネージャーでプライバシーガバナンスに詳しい小林慎太郎氏が示した通り、「データの外販によって、社会課題の解決につながるサービスが実現できる」ことを、ソフトバンクと日本気象協会も実践し、データの “外販”について、一般の利用客の理解を求めているわけだ。

▼参考記事 諸刃の剣「データ外販」踏み切る企業が続々 個人情報は大丈夫か

プラットフォーム事業を目指す

 特徴の第3は、店舗の客数予測や商品の需要予測などを単体のサービスで提供するのではなく、「ビジネスとしてプラットフォーム事業を目指している」(藤本氏)ことだ。ここには2つの意味がある。

 1つは、小売り領域だけではなく、川上にさかのぼった製造や卸の領域に対しても、需要予測を提供していくという意味。食品関連産業の川上から川下までカバーした需要予測のプラットフォームとして事業を展開していく狙いがある。そのため、現在は最長14日先まで可能な予測期間のさらなる長期化を視野に入れている。

 もう1つは、「予測を提供するだけでなく、その予測に基づく打ち手も提供していく」(藤本氏)という意味。具体的には需要予測に基づいた、商品の「発注」、店舗の人員の「シフト管理」、「販促」といった機能を、それぞれの分野を得意とするパートナー企業と連携し、パートナー各社が提供するソリューション(ツール)を需要予測サービスと一緒に提供していく考えだ。「需要予測に加えて、必要な打ち手もプラットフォームとして提供することで、導入企業が得られる付加価値を高めていく」(藤本氏)ことを狙う。

需要予測を軸としたさまざまなソリューションをパートナー企業と連携し順次展開予定(出所/ソフトバンク)
需要予測を軸としたさまざまなソリューションをパートナー企業と連携し順次展開予定(出所/ソフトバンク)

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