軌道に乗るか 企業のデータ“販売” 第1回

活動を続ける中で自社に蓄積される、いわゆるファースト・パーティー・データを活用して新たな価値を創造できないかと考える企業は少なくない。その手法の1つが、統計処理などの加工を施したデータの“外販”である。だが安易に収益化だけを目指すと手痛いしっぺ返しを食らう可能性が高い。最近のデータ“外販”の動きと、批判やあつれきなしでの外販を可能にする条件を探った。

山積みの段ボール箱のように社内で蓄積されたデータを“外販”という形で活用し、新しい価値を創出したい企業は少なくない(出所/Shutterstock)
山積みの段ボール箱のように社内で蓄積されたデータを“外販”という形で活用し、新しい価値を創出したい企業は少なくない(出所/Shutterstock)

 いわゆるファースト・パーティー・データの“外販”で最近、話題を呼んだのが、JR東日本だ。詳細は特集第2回に譲るが、2022年5月から交通系ICカード「Suica(スイカ)」の乗降利用データを加工処理して掲載した定型リポート「駅カルテ」の販売を始めた。

 実はJR東日本は9年前の13年にもSuicaの乗降利用データを日立製作所に外販しようと試み、専門家や国土交通省、それに利用者などから大きな批判を浴びて事業を中止していた。形の上ではこの試練を乗り越え、Suicaの乗降利用データの外販を、9年越しでようやく実現した格好になる。

 ソフトバンクや花王なども、22年に入って自社に蓄積されたデータの外販に乗り出している。中でも、日用品や化粧品のメーカーという印象の強い花王がデータの外販に乗り出したことは注目を集めた。データの外販については、利用者のデータが自然に蓄積される交通機関や通信会社、ネットサービス会社が有利とされてきたからだ。両社の取り組みは特集第3回、第4回でそれぞれ取り上げる。

電力消費量データの外販を志向する電力大手

 この他にも、データの外販を志向する動きが相次いでいる。

 例えば東京電力ホールディングス(HD)。東電HDをはじめとする電力大手は、電力消費量を30分単位で自動収集できるスマートメーターを介してデータを集め、住宅の在宅の有無やオフィスや工場の稼働状況などをリアルタイムで推定できる。そこへ22年4月に電気事業法が改正され、個人の同意が得られた一部の電力データを第三者に提供できるようになった。データ販売には個人情報の流出などを防ぐ目的で第三者機関の審査が必要になるため、この第三者機関が窓口となり、企業からの依頼を受け付け、個人情報を侵害しないかどうかを審査した上で、外販することになる可能性が高い。

グリッドデータバンク・ラボのWebサイト
グリッドデータバンク・ラボのWebサイト

 実際、東京電力HD傘下の東京電力パワーグリッドとNTTデータ、関西電力送配電、中部電力が共同運営するグリッドデータバンク・ラボ(GDBL、東京・千代田)では、こうした状況になることを見越して、電力消費量データの外販について準備を進めてきた。

 例えばGDBLは21年12月に、武田総合病院(京都市)とともに、電力消費量データを活用した高齢者の見守りサービスの実現に向けた実証実験に取り組んだ。具体的には、武田総合病院が担う地域包括支援センターおよび居宅介護支援事業所が世話する60~90代の患者29人について、同意を得た上で過去の電力消費量データを分析。患者が自宅で意識不明の状態になっていないかなどを、電力消費量を分析することで検知できるかを検証した。その結果、約82%の精度で異常を検知できるようになったという。実用化されれば、1人暮らしの高齢者の生活リズムを解析し、電力消費量が普段と異なるパターンとなった場合、迅速に検知して家族や自治体に連絡するというサービスが構築できるわけだ。

 電力消費量のデータ分析からは、他にもさまざまな用途が想定できる。エリア内の世帯数や住居の家族構成を割り出してメーカーなどのマーケティング戦略に生かしたり、在宅率や仕事からの帰宅時間を推定して商業施設の出店計画に生かしたりできる。

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