「LINEのマーケティング活用」新常識 第8回

飲食店チェーンのワタミが、CRM(顧客関係管理)戦略に“4度目の正直”として挑戦している。かつて3つのスマートフォン向けアプリを開発したが、利活用が伴わず70万超のダウンロードを集めながら終了に至った経緯がある。新戦略ではきちんと運用ができ、かつ店舗の負担が少ない手段として「LINE公式アカウント」を採用。まずは焼き肉業態「焼肉の和民」に導入した。以前の飲食店情報サイトの広告を中心とした、広告偏重の集客策からの脱却に成功しつつある。

ワタミは焼き肉業態「焼肉の和民」のCRM(顧客関係管理)戦略に「LINE公式アカウント」を活用する
ワタミは焼き肉業態「焼肉の和民」のCRM(顧客関係管理)戦略に「LINE公式アカウント」を活用する

 「集客のためにペイドメディア(広告)にコストをかけ続ける世界から脱却したかった」

 ワタミ外食事業マーケティング部の竹下慎一部長は、「LINE公式アカウント」活用のきっかけをこう振り返る。外食業界は飲食店情報サイトや口コミサイトに広告を出稿したり、クーポンを提供したりするのが、主なデジタル上での集客手段だ。オフラインではチラシのばらまきなどが中心となる。よほどの人気店でない限り、集客コストをかけ続けなければ、数ある飲食店の中から選んで来店してもらうことは難しい。

 ところが、SNSなどの普及によって飲食店を探す手段は多様化している。若年層の間では画像・動画特化のSNS「Instagram」を検索サービスとして利用し、好みの飲食店を探す利用法が定着している。飲食店探しの経路が増えることは、一極集中だった大手飲食店情報サイトの集客力の低下につながる。当然、広告費に対する集客効率は下がり、以前ほどの効果は期待できなくなっている。

 だからこそ、飲食店は既存顧客に目を向けることの重要性が高まっている。広告偏重の集客から脱却する手段の1つが、既存顧客の囲い込みだ。一般的にマーケティング業界では既存顧客を再購入につなげるコストは、新規顧客獲得コストよりも大幅に低いといわれる。竹下氏もこれに倣い、既存顧客との関係性を深め、リピーターを増やすことで、集客が広告一辺倒になっていた状況の打破を目指した。

過去に3つのアプリを終了させたわけ

 もっとも、ワタミがCRMに全く挑んでこなかったわけではない。これまでにスマートフォン向けアプリを3回立ち上げたもののすべて終了したという。「ダウンロード件数は増えても、それを利活用して来店につなげることができなかった」(竹下氏)のがその理由。竹下氏が販促部門に移ったのは2015年のこと。その頃は、アプリの明確な担当者が決まっておらず、不定期でクーポンが配信される程度だったという。ところが、なまじ70万を超えるダウンロード件数があったため、「維持費だけがかかっていた」(竹下氏)。そのため、会社から不要と判断された。

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