新型コロナウイルス禍を経て、音楽業界が「新常態」の確立を急いでいる。この2年間、感染対策のため、コンサートでの声援や客数などが制限されてきた。制限の緩和などによりライブや音楽フェスは再開に向けて動き始めているが、これまでのやり方が通用するとは限らない。ヒットの生まれ方も変わるなか、次の主メロ(主旋律)を模索する音楽業界をのぞいた。

※「日経MJ」2022年7月4日付記事「音楽市場 次の主メロは?」を再構成したものです
エイベックス、講談社、大日本印刷が手掛けるバーチャルアーティスト「十五少女」
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 2022年5月28日、夜8時。「ようこそメタバース!」。男女混合3人組ロックバンド「ヤバイTシャツ屋さん(ヤバT)」が舞台上に現れると、アバターになったファンが次々に跳びはね始めた。

 チケット販売大手のぴあが5月に提供を始めたバーチャルライブ専用のプラットフォーム「ネオミー」内での光景だ。利用者はバーチャル空間で本物のライブさながらにサイリウムライトを振ったり踊ったりして楽しむ。

 デジタルだからこその演出も目玉だ。「ドーン!」。舞台上からの一声で観客が屋内から野外フェス会場、さらに道頓堀などへとワープする演出はメタバースならではだ。ライブ鑑賞中にハート形やスマイルの「スタンプ」を押すこともできる。ヤバTの人気曲「ハッピーウェディング前ソング」が始まると、観客が飛ばした「入籍」スタンプで、歌うヤバTの姿はほぼ覆いつくされた。

 ぴあによると、ネオミーの第1弾ライブにはアーカイブ配信を含め約7000人が参加した。デジタル・コミュニティ開発室の山中伸浩氏は「想定よりかなり多かった」と語る。予想を超えるアクセス集中でシステム処理が追いつかず、リアルタイム視聴ではアプリに入れない人も続出した。6月上旬までの利用者数は累計約1万人に達した。

 ネオミーは新型コロナ禍の中「計画1年、実装まで半年」(山中氏)というスピード感で開発した。「リアルなライブができなくなる中、利用者に音楽を楽しんでもらう価値を改めて考えた」(同氏)。アプリ開発からライブに使う映像の撮影まで「音楽業界の人ばかり」で作ったメタバースだけあり、ライブを楽しむアクションや演出に特化しているのが特徴だ。

 9月に予定する第2弾のライブからはバーチャルの「会場」に入るためのチケット代やアバター向けの服などのグッズ販売で収益化を模索する。「まずはトライ&エラーでやってみる。コロナ禍が終わっても、リアルとは違う体験を提供できる選択肢の1つとして提供したい」(山中氏)

エイベックスもメタバースに進出

 新型コロナ禍でコンサートや握手会などが開けなくなり、音楽業界は大きな打撃を受けた。新型コロナ禍が収束に向かう中でも、新常態をメタバースに求める動きは続く。

 エイベックスは、メタバースの代表格の1つである「ザ・サンドボックス」内に「ランド」と呼ばれる土地を購入した。購入額は非公表だが、現実に置き換えると33万1776平方メートル相当の「広大な土地」(エイベックスの岩永朝陽テクノロジー顧問)に、仮想のテーマパーク「エイベックスランド」を開発する計画だ。

 岩永氏は「メタバースでの土地購入は、国外にマーケティング拠点を置いてプロモーションするのと似た発想。若年層は特にゲームやメタバース内に独自のコミュニティーを持っている。彼らがいるところに出て行って訴求する」と狙いを語る。23年3月末までにテーマパークを開設し、配信ライブやファンミーティングを開催することを目指す。NFT(非代替性トークン)グッズの販売などで収益化する計画だ。

音楽業界は変革期を迎えている
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