プライバシー保護や「脱クッキー」の規制が広がる中、今後は自社が持つ顧客データの管理が重要だといわれる。だが、やみくもにツールを導入するだけでは失敗すると、WACULの代表取締役に就任した垣内勇威氏は断言する。自己満足に終わらず、データを正しくビジネスに活用するための処方箋を示す。

自社が持つ顧客データを活用するために、プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)などのツールが必要といわれるが、やみくもに導入しても十分なビジネス活用ができるとは限らない(写真/Shutterstock)
自社が持つ顧客データを活用するために、プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)などのツールが必要といわれるが、やみくもに導入しても十分なビジネス活用ができるとは限らない(写真/Shutterstock)

 社内に散逸した複数の顧客データを統合しようとする試みは、時代時々のバズワード(流行語)に後押しされて繰り返されてきた。わずかな定義の違いはあるが、CRM(顧客関係管理)、プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)など、いずれも顧客データ統合を推進するための掛け声になったバズワードである。

 これだけ何度もデータ統合のブームが到来したのだから、多くの企業がデータ基盤を手に入れ、分析一つで顧客のことを理解できるはずである。にもかかわらず、なぜ顧客の行動原理は今も変わらず霧のかなたに感じるのであろうか?

ベンダーとDX担当者の利害が一致

 顧客データの統合は、ベンダー(システム開発会社)からユーザー企業への提案によって始まることが多い。バズワードが広がるのも、ベンダーの強力なプッシュがあってこそのものだ。ベンダーにとってデータ統合は、大型発注になりやすく、その後の運用の受託にも期待できるため、うま味の大きい案件である。

 他方で企業、具体的にはDX(デジタルトランスフォーメーション)担当者にとっても、顧客データ統合の提案は魅力的である。まず、プロジェクト開始の承認を得ることが容易だ。というのも、企業にとって「散逸しているデータを統合する」という仕事は、いかにも「負の解消」のように映り、耳あたりが良いからだ。AI(人工知能)の活用を掲げた経営者も、データの整備はまずやっておかなければならない儀式だと考える。

 就任中、分かりやすい実績にもなる。売り上げを増やしたり、コストを削減したりしなくても、データ統合プロジェクトさえきっちり終わらせれば、ひとまず評価されるからだ。これは特にDX担当者が新任で、デジタルの知見に自信がないときに魅力的に映る。

できあがった統合データ基盤は使われずに忘れられる

 ベンダーが統合作業を終え、DX担当者が評価され、場合によっては任期を終えて去った後、顧客データはどのように活用されるのか。筆者が多くの案件を通して見てきた結論としては、顧客データを分析して成果を上げた企業を見たことがほとんどない。

 顧客データ統合が終わって、次にDX担当者に課せられる仕事とは、データの使い道を考えることだろう。そこでうまい使い道を考えられず、統合データ活用は頓挫してしまう。よくあるのが「直近の購入金額が高い人は、LTV(顧客生涯価値)も高いと予想できる」などという、何一つ分析しなくても予想の付く当たり前の結論だけを残して、統合データの存在は放置され、忘れられていく。

 デジタルの世界では大量のデータが毎日、簡単に蓄積されるため、とかく「このデータから何か面白いものが出てこないか」という発想に陥りがちだ。しかし、データとは本来、分析を行いたいと思ったときに、要件を定義して集めてくるものであり、目的を達成するための手段にすぎない。まずは仮説があり、検証するための分析が設計され、そこで初めて必要なデータが見えてくるものなのである。

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