マーケティングに必要なのは、経験と知識だ。正しい知識を身に付けることで、マーケティングの成功確率と精度を引き上げられる。本連載では、マーケター向け学習支援事業のグロースX(東京・渋谷)開発の学習アプリに盛り込んでいる人気クイズなどを基に、今日から役立つ知識を伝えていく。今回のテーマは「効果的なマーケティング施策の優先順位付け」だ。顧客化を促す中でどのような発想で施策の優先順位を決めればよいのかを、グロース X 代表取締役の津下本耕太郎が解説する。

(写真/Shutterstock)
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漫画雑誌の出版社が、新たにスマートフォン向けに有料漫画アプリを始めたものの、有料会員数が思うように伸びていない。有料会員の獲得のために次の施策を行うことになったが、どのような順番で取り組むべきか、正しい順番に並べよ。

(1)多くの会員獲得が期待できるテレビCMの放映
(2)無料で人気漫画を数話読めるサービス
(3)若年層が多く利用するSNSへの広告配信
(4)アプリ内にレコメンドシステムを導入する

 いかがだろうか。正解は(2)→(4)→(3)→(1)となる。

 日ごろから、スマホでゲームや漫画を利用している人にとっては、簡単な質問だったかもしれない。目当てのタイトルが決まっているなど、ニーズが顕在化した層なら別だが、一般的にアプリ事業は、体験の良さが伝わらずして、いきなりお金を支払ってくれる人はそれほど多くない。

 まずは、お試しとして、無料でサービスを体験してもらい、そのコンテンツやUI(ユーザーインターフェース)に満足してもらうことが有効打となる。そして、このお試し期間を経て、納得した後に会員になった層は、継続的に利用料を払い、長くサービスを続けてもらいやすいため高いLTV(顧客生涯価値)が見込める。そのため、本設問では「(2)無料で漫画を数話読めるサービス」を最初に取り組むべき施策とした。

 アプリの創設期にはそうして有料会員を増やし、その中から満足度が高い「優良顧客」を発見することが大切だ。その優良顧客の利用データや顧客へのインタビューなどから、優良化につながる共通のポイントを捉え、そのポイントを磨き上げてから、広告などのコミュニケーションで打ち出すことでより効果が高まる。

 2番目に取り組むべき施策は「(4)アプリ内にレコメンドシステムを導入する」だ。レコメンドシステムは併売されやすい商品や優良顧客になりやすい商品などをデータから導き出し、利用者に推奨する仕組み。その精度を高めるには一定の顧客データが必要になる。そのため、一定程度会員が増えた段階で導入すると効果的だ。導入後もデータをため続けることで、レコメンドの精度はさらに高まっていく。広告などで会員を一気に増やす前の段階で導入すると、その後の会員のLTV向上に効果的に働く。

 3番目の「(3)若年層が多く利用するSNSへの広告配信」では、優良顧客に共通する満足度が高まるポイントをデータ分析や調査などで見つけ出し、配信対象者の設定や広告クリエイティブのコピーやデザインなどに応用することでより効果を高められる。まずはSNSを中心としたネット広告でその効果を検証し、多額の費用をかけてもROI(投下資本利益率)に見合うと判断できた段階で「(1)多くの会員獲得が期待できるテレビCMの放映」という道筋が立てられる。

体験段階で特長の理解を促進する

 漫画アプリの例で、最優先すべきだと説明した施策は言い換えれば「トライアル」だ。トライアルキャンペーンなどを通じて、適切に情報提供やコミュニケーションを図り「自分向けのプロダクトである」「利用後の成功像をイメージできる、期待できる」と実感してもらえれば、顧客化=コンバージョンにつながりやすくなる。

 トライアルはアプリに限った話ではなく、化粧品やサプリメントの通販では王道の手法だ。まずは無料サンプルやモニターとしてサービスを安価で提供し、サービスの価値を実感してもらい、継続的に活用してもらうのだ。このトライアル体験のハードルをどの程度の難易度に設定するかは、「顧客化の見込みが高い人に接触できるかどうか」に関係する。

 漫画アプリの例では「数話が無料で読めるサービス」としたが、その内容は、「1日1話まで無料で読める」といった単純なものから、「有料会員の手続きが必要だが、3カ月間は無料で利用でき、その間の解約は自由」といった少々複雑なものまで、さまざまな設計が考えられる。登録などの手間が発生するほどハードルが上がるため、利用者数は少なくなる。その代わり、継続的な顧客化が期待できる有力な層が集まりやすい。

 動画や音楽のサブスクリプションサービスが、無料のお試し期間の申し込みにクレジットカードの入力などを求めることも、ハードルをコントロールする一種の設計だ。

 化粧品でも同様に、無料サンプルの申し込みならそれなりに多くの人の申し込みが期待できる。一方、有料のトライアルセットなら申込者の数は減るが、無料の場合よりも高いF2(2回目の購入)転換率が見込めるだろう。

 無料か有料かは、分かりやすいハードルの1つ。漫画やゲームのような無形のデジタルサービスは、無料で試してもらってもそれほど追加コストはかからないが、化粧品などのリアルなモノを扱う場合は一定のコストがかかる。正しく設計するうえでも、トライアル段階から申込者と接触可能にしておけば、アンケートやインタビューなどを通じて、どのような層を対象にすべきか、どのくらいの価格帯なら納得してもらえるかといった点を検証できる。

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