「特定企業のファン、すなわち固定客をつくりあげていくことは、マーケティングの、否、企業活動の最終目的として設定されるべき最重要問題なのではあるまいか」。この文言だけ切り抜くと、日経クロストレンドの記事からの引用にも見える。「ファンマーケティング」とか「LTV(顧客生涯価値)」に関する記事の締め言葉になりそうなメッセージだ。しかし実際には違う。これは約60年前、1964年に日本マーケティング研究所の小嶋庸靖氏らにより執筆された本の中の一節だ。この本のタイトルがとてもいい。「消費者の系列化」という。(i)

(写真/Shutterstock)
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 「消費者の系列化」とは何か。本書の整理によると、これは「第3の系列化」だという。第1は、生産設備や製造下請け企業の組織化による「生産の系列化」。第2の系列化は、メーカーによる小売店の獲得による「販売の系列化」。これらが60年代までに進んだ。生産・販売・消費、という3段階を考えたとき、次に行うべきは消費者を系列化する段階となる、という考え方だ。

 「系列化」というと商品を無理やり買わせるようなイメージもあるが、もちろんそうではない。「消費者の系列化とは特定企業のファン、すなわち固定客をつくりあげていくこと」としている。また、「消費者は王様という考え方に系列化の政策がそむくのではないか」と感じられることもあるだろうが、「徹底した消費者中心主義の経営理念を基礎として可能となるものである」と説明する。

1969年にダイヤモンド社から発刊された書籍「消費者の系列化」
1964年にダイヤモンド社から発刊された書籍「消費者の系列化」

 ファンづくりのため、具体的にはどのような施策が取られたのだろうか。1960年代にはインターネットもソーシャルメディアもない。ところが、各企業がやっていたことはコミュニティーづくりだ。会員組織をつくり、会報を送り、会員向けの講演会・講習会を行う。その手間たるや想像を絶する。

 なお、「消費者の系列化」という言葉は本書固有の表現ではない。当時は一般的な用語であった。その中で、「消費者系列化政策は、消費者を特定企業のファンに仕立てあげようという漠然とした意図の下に、ひたすらに“企業広告”や“消費者サークルの組織化”に莫大な経費をかけ、その反面、効果の測定手段はおろそかにされていた」という問題意識が芽生える。そして、「系列化度合い」を測るための測定手段を研究したのが本書の主眼である。

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