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優秀なITエンジニアを集めるため、新たな形態のシステム子会社が登場した。IT業界の「標準」に合わせた待遇や勤務形態を備える「受け皿型」の子会社だ。ニトリホールディングスやビックカメラ、カインズの事例からその効果を読み解く。

システム子会社の「改新」始まる(2)より続く

 ビジネスとITの実行部隊は距離が近いことが求められる。企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるには、事業部門とIT部隊が一体となりスピーディーにデジタル施策を実行する協力関係が不可欠だからだ。その点から親会社がシステム子会社を吸収合併しIT部隊を本体に取り込む動きは自然な流れと言える。

 他方、新しい形態のシステム子会社を立ち上げる動きが広がっている。ニトリホールディングス(HD)やカインズ、ビックカメラが採用する「受け皿型」のシステム子会社だ。

図 「受け皿型」システム子会社の概要
図 「受け皿型」システム子会社の概要
システム子会社で採用し、本体のIT部隊として働く(出所:各社への取材を基に日経コンピュータ作成。本体採用の社員を子会社に転籍させてから本体IT部隊にするケースもある)
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待遇を業界標準に引き上げる

 この3社は、ITエンジニアを雇用するためのシステム子会社を立ち上げている。「(小売業である本体とは別に)エンジニアに適した人事制度・給与体系を備えた別会社を設立することで、エンジニアを採用しやすくする狙いがある」。ニトリHDが2022年4月に立ち上げたシステム子会社ニトリデジタルベースの社長を務める、佐藤昌久ニトリHD上席執行役員CIO(最高情報責任者)は新会社設立についてこう語る。

 ニトリHDやカインズ、ビックカメラの給与水準は小売業の中で決して低くない。だが、それでもITエンジニアの給与水準から見ると、ニトリHDの場合、「条件面で見劣りしていた」(佐藤上席執行役員)。

 そのため「ニトリHD本体で長年ITエンジニア採用を続けていたが、採用活動は年々厳しくなってきていた」(同)。折からのITエンジニア不足に加え、ニトリHDの人事制度では給与や休日数、勤務体系などが中途採用応募者の希望と合わず、採用できなかったことが度々あったという。

 そこで新たな人事制度を導入したニトリデジタルベースを立ち上げた。給与をエンジニア市場の水準にそろえたほか、休日数を増やし、フレックス勤務やリモート勤務も可能とした。

子会社社員が本体IT部門で働く

 ユニークなのは、ニトリデジタルベースの社員は全員がニトリHDのシステム部門のメンバーでもある点だ。ニトリデジタルベースはグループのITエンジニアを一大集結させるための会社であり、ニトリHD本体のシステム部門そのものという位置付けだ。