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 楽天モバイルがNTTドコモとKDDI、ソフトバンクに対して「プラチナバンド」と呼ばれる電波が届きやすい周波数帯の再割当てを求めている件について、双方の対立が激しくなっている。「1年以内」のプラチナバンド利用を要求する楽天モバイルに対し、既存3社は「10年程度の移行期間が必要」などと反論。移行費用額や負担の考え方についても隔たりが大きく、両者の主張は平行線をたどっているからだ。プラチナバンドの再割当て事態が、5G展開を遅らせかねず社会的損失をもたらすという指摘もある。楽天のなりふり構わない要求は、業界に大きな波紋を広げている。

楽天モバイル社長の矢澤俊介氏は、総務省の会合で「既存3社のこれまでの説明は到底合理的に見えない」と激しい口調で訴えた
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楽天モバイル社長の矢澤俊介氏は、総務省の会合で「既存3社のこれまでの説明は到底合理的に見えない」と激しい口調で訴えた
(出所:楽天モバイル、写真は2022年5月の発表会時)

「時間稼ぎだとしか思えない」

 「これまでの既存3社の説明は、到底合理的とは思えず、時間稼ぎとしか思えない。他社と同様の人口カバー率に達するためにはプラチナバンドが必要になる。現在、フェアな競争ができているとは1ミリも思っていない」

 総務省で2022年8月30日に開催された「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」のヒアリングにおいて、楽天モバイル社長の矢澤俊介氏は激しい口調で訴えた。

 矢澤氏がいら立ちを隠さなかったのは、2022年2月から非公開で9回の会合を重ねてきた同タスクフォースの議論が遅々として進んでいないからだ。オープンな場となった今回の会合で世論に訴える手段に出た。

楽天モバイルが求めるプラチナバンドの再割当て案
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楽天モバイルが求めるプラチナバンドの再割当て案
NTTドコモとKDDI、ソフトバンクから「5MHz幅☓2」ずつ新免許人に割譲してもらう案を提案する(出所:楽天モバイル)

 楽天モバイルが前代未聞のプラチナバンドの再割当てを求めたのは、総務省が2020年末から2021年8月まで開催した有識者会議「デジタル変革時代の電波政策懇談会」において。NTTドコモとKDDI、ソフトバンクに割り当てられた800M〜900MHz帯の電波を一部縮減し、3社から「5MHz幅☓2」ずつ新免許人(楽天モバイルを想定)に割譲する案を提案した。

 既に利用中の電波の一部を奪ってまでしてプラチナバンドを欲しいという楽天モバイルの要求に対し、既存3社は当然猛反発。ただ先の通常国会では、既存免許人の電波の有効利用が十分ではない場合などにおいて、既に割り当てられた周波数帯を新免許人に再割り当てできる電波法の一部を改正する法律が成立した。2022年10月1日に施行予定となっている。

 電波再割当ての大枠の法律はできたものの、実際にプラチナバンドの再割当てを実施する場合には、移行期間や移行費用、既存利用者への影響などを考えていく必要がある。これらの議論を深堀りするために2022年2月から始まったのが上記のタスクフォースである。

 2022年8月30日のヒアリングで楽天モバイルの矢澤氏は、プラチナバンド再割当てに伴う移行期間について「できるだけ短く、1年以内にプラチナバンドの利用を開始したい」と要望した。

楽天モバイルは1年以内のプラチナバンド利用開始を要望する
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楽天モバイルは1年以内のプラチナバンド利用開始を要望する
(出所:楽天モバイル)

 総務省は再割当ての実施イメージとして、新たな事業者に再割当てが認定された場合、既存事業者の移行期間として最長10年という目安を示している。この最長10年という移行期間は、新旧事業者の合意による終了促進措置によって前倒し可能としている。

 終了促進措置は、現行の周波数再編でも運用されているスキームだ。通常、新たな免許人が移行費用を負担する。楽天モバイルの矢澤氏は、プラチナバンドの再割当てに伴う移行費用について「終了促進措置を使う気持ちは1ミリもない。(既存事業者の電波の)使用期限をできるだけ短く設定してほしい。使用期限までに原状回復する費用は、既存の免許人が負担するのが妥当だ。大きな利益をあげている3社に対し、赤字の楽天モバイルに対して費用負担を求めるのは納得できない」と続けた。

 つまり楽天モバイルは、プラチナバンドの再割当てに伴って自ら費用負担する考えはさらさらなく、既存3社の費用負担で電波を更地に戻し、1年以内に譲渡せよと求めていることになる。

「移行期間は10年」「費用は新規事業者が負担するべきだ」

 楽天モバイルの半ば強引な要求に対し、既存3社も黙ってはいられない。2022年8月30日のヒアリングでは、既存3社は真っ向から反論した。