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 業種を問わずさまざまな企業が参画を模索するメタバース事業に挑むバンダイナムコエンターテインメント。同社を率いる宮河恭夫社長は強みのIP(知的財産)を利用し、小さくとも熱気あふれる「IPメタバース」で巨大ITと差異化する考えだ。デジタル技術を駆使して、権利保護とビジネス活動が両立した新たな経済圏の確立を目指す。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、野々村 洸=日経クロステック)

宮河 恭夫(みやかわ・やすお)氏
宮河 恭夫(みやかわ・やすお)氏
1981年4月バンダイ入社。1996年1月バンダイ・デジタル・エンタテインメント取締役。2014年4月サンライズ代表取締役社長。2015年4月バンダイナムコピクチャーズ代表取締役社長。2019年4月からバンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長(現職)。(写真:村田 和聡)
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「IPメタバース戦略」とはどのようなものでしょうか。

 バンダイナムコグループはキャラクターやコンテンツなどの主要なIP(知的財産)を軸にしたビジネス戦略を打ち出しています。その中でもデジタル事業を手掛けるバンダイナムコエンターテインメントはIPの強みを生かした複数のメタバースの開発を進めています。

 例えば「ガンダム」や「鉄拳」などといったコンテンツごとに、それぞれのキャラクターや世界観を楽しんだりファン同士が交流したりできるメタバースを生み出すわけです。

IPごとのメタバースをつくる狙いは。

 イメージとして「音楽ライブ」を例に挙げてみます。私は音楽が好きで、よくライブ鑑賞にいくのですが、ライブ空間はアーティストのファンが埋め尽くしていて、その空気感、密度が素晴らしいんですよね。

 IPメタバースも同様で、コンテンツのファンが中心になって空間を埋め尽くせば、楽しい時間をユーザー同士が分かち合えるのではないかと考えているんです。IPメタバース内も、映像関連、プラモデル、eスポーツなどのジャンルで区分けします。彼らは共通のファンですから、きっとそのジャンルで自慢し合ったり、魅力を伝え合ったりしてくれるように思うんですよ。

こうした戦略をいつごろから構想していたのですか。

 メタバースという言葉が今ほど有名になる前から、構想を進めていました。ただ、リアルかデジタルかを問わず、ずっとファン同士が集まれる場所は必要だと考えていました。リアル空間に関しては、バンダイナムコライブクリエイティブ(現バンダイナムコミュージックライブ)という企業を立ち上げ、ライブ事業も進めてきたわけです。

 そして現在、デジタル空間に重きをおいたファン空間の構築も、技術的に夢物語ではなくなりました。実際、新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前から、私は社員たちに「デジタル空間上でファンコミュニティーをつくろうよ」と呼びかけ、少しずつビジネスとして進めていたものが、今のIPメタバースの基礎になっています。