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AI・メタバースLabo ~未来探検隊~

メタバースの祭典?「バーチャルマーケット」に”潜入”してみたら

メタバースの祭典?「バーチャルマーケット」に”潜入”してみたら

2022.09.16

100万人以上が来場するという世界最大級のマーケットが「バーチャル」で開かれるという。

確かに規模は大きそうだが、よくあるネット上のショッピングモールなどとどう違うのか。

3Dの仮想空間で、モノやサービスを売り買いできる?

バーチャルの分身=「アバター」の店員や友達とコミュニケーションできる?

メタバースの祭典と銘打った「バーチャルマーケット」に、潜入してみた。

いざバーチャルマーケットの世界へ

バーチャルマーケットのHP

100万人以上の来場者があるというバーチャルマーケット。

「Vket」(ブイケット)。

来場者数は世界最大級で、2020年にはブースの出展数が1000を超えてギネス記録にもなった。

4年前に始まり、毎年、夏と冬の2回開催している。

最初は、来場者は、1500人ほどだったが、コロナ禍の中で増え続け、今では100万人を超え、出展する企業や自治体といった団体や個人は、600を超えたという。


勢いを増すバーチャルマーケットを体験させてもらうため、東京・渋谷区にある運営会社を訪ねた。

案内されたのは、パソコンとVRゴーグル、それにコントローラーが置かれた何の変哲も無い部屋だ。

まずはパソコンを起動し、メタバース内を駆け回るための自分の分身=アバターを作る必要があるとのこと。

こだわって作ると時間がかかりそうなので、既成のモデルを選択することにした。

モデルには二足歩行のアヒルや宇宙人といった「人間でない」、擬人化されたものから、美男・美女など、さまざまなアバターが選択可能だ。

アヒルを選択しようかと悩んでいたが「手で握るという直感的な操作も感じて欲しい」と言われたので、まずは人間のアバターにしてみた。

私のアバター。異性の外見のアバターを選ぶ人も多いらしい

VR専用のヘッドマウントディスプレー、いわゆるVRゴーグルを頭に装着し、しっかりと固定。

コントローラーを両手にそれぞれ持って、前後左右の移動など簡単な操作を教えてもらい準備は完了。

いざバーチャルマーケットの世界へ!!

Vket内の様子。空中に浮かぶ標識などサイバーパンクっぽさを感じる

デジタル空間に飛び込んで、まず思ったことは「マーケットの世界は色彩豊か」ということだ。

ピンクや水色、黄色といった色とりどりの立体的な標識や文字がずっと奥まで続いている。

見上げれば、空飛ぶ車やアドバルーンなど、まるでSF映画の世界に飛び込んだようにも思えた。

他アバターとの邂逅 リアル接客との比較

さて、たどり着いたものの、どこから何をすればいいのか分からない。

そんな中、運営会社の人から「百貨店でご当地グルメを紹介しているので、行ってみてはどうか」とアドバイスされたので、まずは大手百貨店に行ってみた。

1階は玄関兼オープンスペースとなっているが扉はないため、誰でも気軽に入ることができる。

玄関の近くまで行き「良い具合にデフォルメされているなあ」と眺めていると「いらっしゃいませー」という声が聞こえた。

視点を下げると、5体のアバター(うち1体は2頭身のパンダ)に取り囲まれていた。

「NPC(ノンプレイヤーキャラクター)かな?」と思っていたら、どんどん話しかけてくる。
そう、このアバターたちも、Vketに入っている人たちで、この百貨店で商品紹介の接客アルバイトをしている。つまり働いている人たちなのだ。

突如現れたアバターたち。みんな案内・接客のアルバイトだ

ここで私は「とってもおいしいグルメが置いてあります」と親切な美少女アバターに、商品が陳列されている棚に案内された。

3D内の百貨店の奥に進んでいくと、目の前には仙台名物の「牛たんシチュー」がある。

皿ごと手に取って見ることができると教えられ、私はここで初めて「直感的な操作」の意味が分かった。

私が右手を回せばアバターも右手がぐるりと回る。

左手もしかり。現実と同じような動作をアバターもトレースしているのだ。

そのため私はこの牛たんシチューを、自分が見てみたいと思う、あらゆる確度からじっくりと観察することができた。

ローストビーフも然り。
手元で拡大することで表面まで細かい白色の脂の「さし」が見える。

驚いたのが接客だ。

私の隣でパンダ君が、短い腕をパタパタさせながら「ご覧ください。この断面図。もも肉のローストで、国産黒毛和牛なので、さしがきれいな素晴らしいローストビーフになります」とリアル接客さながら音声で説明してくれる。

思わず「確かにきれいな脂。肉もピンクで柔らかそうですね!」と私。

この後も福岡県特産のイチゴをつかったアイスや浜松餃子なども紹介していただいた。

商品も人も、目の前にはいなかったが、試食ができない以外は、ほとんどリアルの物販と変わらないと感じた。

牛たんシチュー。グルグルと手元で観察できる上にテクスチャーも細かい。湯気もでている

1階を堪能したところで、2階にも上がってみた。

2階は屋上庭園となっていて、ここにもスイーツが展示・販売されていた。

私が何気なく手に取ったのは、手のひらサイズのビニールチューブに入った「みかんのゼリー」だ。

すかさず、みかんに詳しいというアバターの「みかんちゃん」がやってきたので、オススメを聞いてみた。

愛媛県名産の高級みかん「不知火(しらぬい)」を使ったゼリーがオススメで「酸味が濃い」のが特徴だそうだ。

みかんちゃん(左)が何がオススメなのか丁寧に教えてくれた

こうした商品の強みをすぐに説明できる人が急行できるのもデジタル接客の強みだ。

嗅覚と味覚は生かせないが、映像や画像、それに音声のコミュニケーションが連動することで、現実世界と同様遠慮無く何でも尋ねることができるし、違和感なく買い物することができそうだ。

メタバースで働くってどう?

ところでVketのようなメタバースで働くとはどういう感覚なのだろうか。

ふと疑問が沸いたので、私の接客をしてくれているみなさんに「年代・どこから出勤しているか」について聞いてみた。

みなさん、20代から30代で「自宅から出勤」とのことだった。

「千葉」「大阪」「東京」「埼玉」そして「みかんの国」など場所もバラバラだったが、いずれにせよ場所を選ばす、呼びかけ1つで集まることができるらしい。

メタバースで働くことの利便性などについてアバターの2人に尋ねてみた。

みんな様々な場所から参加しているとのこと

(ききょうぱんださん)
「メタバースの利点は、現実の身なりや見た目(年齢等も含む)を気にする必要がなく、お客様から求められる印象を表現しやすいです。
お客様に気がつかれずにマニュアルやメモを参照することもできるので、工夫次第で苦手克服にも役に立つと思います
企業が求める雰囲気のアバターを用意すれば、その目的を達成できるかと思います。また、通勤の必要ありませんので、遠方だからとやってみたい仕事を諦める必要もないですし、交通費も気にする必要がありません。座りながら、立ちながらなど自分にあった姿勢で仕事が出来るので体の負担も少なくすむのが良いと思います」

(草羽エルさん)
「近くにいれば声が近く、遠くにいれば遠く聞こえるので、立体的なコミュニケーションが取れます。一方で、匂いや温度を感じないため、リアルよりも「近付く」ことに心理的コストが少なく、親密なコミュニケーションを取りやすいと思います。接客もリアルとほとんど変わらないと思います」

肉体的・身体的な負担が少なくなる、ということだけでなく、外見を変えられる特性や3D空間ならではの立体的な距離感を生かすことで、2D以上のコミュニケーションが広がりそうだ。

そのうち、次々と他のお客さんがやってきた。

ほかの店舗や施設、サービスも体験してみたかったので、ここで皆さんと別れることに。

コントローラーを振れば、アバターも手を振ってくれる。

仮想空間でのバイバイ、別れの挨拶は、現実世界と同じく、少しさみしい感じがした。

売買だけでない さまざまな体験ができる空間

人生初のマグロさばきを仮想空間で実現

Vketで経験できるのは、モノの売り買いだけではない。

バーチャル関西国際空港では、道の駅のような形で静岡県の焼津市が店を出していた。

ここでは刀のように長い包丁を手にマグロの解体が擬似的に体験できた。

今回は時間の都合上体験できなかったが、キャンプや料理も体験も可能だということだ。

リアリティー面では現実と比較できるレベルにはまだまだ至っていないが、良い具合に地域の特徴や特産がデフォルメされており、少なくともこれまでのような動画や2Dでの紹介よりも新鮮味や没入感は、確かにあると感じた。

急にキタ!3D酔いでグロッキーに・・・

しかし、ここで突如問題が発生した。

急に「3D酔い」が襲ってきたのだ。

私は乗り物酔いが全くないこと、過去にFPSタイプのゲームにハマったこともあり、自慢ではないが、いわゆる「画面酔い」にもそれなりに自信があった。

しかし、ふだん現実世界で見ることが無い色彩や表現など視覚的な情報量の多さや刺激、独特の操作性に加え、VRゴーグル自体が発する熱もあって、かなり疲れがたまっていたようだ。

汗もかなり出ていた。気付けば1時間半ほど体験していたようだ。

仮想空間での直感的な操作、音声交流など、想像以上の没入感のあまり、体力を消耗していた。

一旦、休憩をかねてリアルに戻った。

画面が動くことで酔いやすい体質の人は、慣れるまでに少し訓練が必要かもしれない。

少し疲れた現実世界の私 ※実は目を閉じています※

バーチャルマーケットの可能性をどう考えるか

疲れは出たものの、非現実的な感覚を味わえる楽しい体験だった。

特に、バーチャル空間での他人との交流はとても楽しく、機会さえあればまた体験してみたいと思った。

一方で気になったのが、こうしたマーケットへ出展する企業や団体の関心度、そして普及に向けた課題だ。

バーチャルマーケットが始まって4年。

担当者に今後の展開の可能性を聞いてみた。

HIKKY PRマーケティングチーフ・営業の大河原あゆみさん

(大河原あゆみさん)
「初日から世界中の多くの人が参加していて、前回の入場者数は超えてくると思います。今回はクオリティーをあげるために出展数は前回よりも絞りましたが、事前に寄せられた相談数も年々増えています。相談内容としては、メタバースが初めて方も多いため、メタバースで何ができそうですか、といった相談が多く、間違いなく関心は高まってきていると感じます」

関心が高いのは出展者だけではない。

今回も、期間中、国内外から100万人以上の来場者があったという。

(大河原あゆみさん)
「来場者の4割ほどが海外の方で、ハイクオリティーな日本のクリエイターの作品を求めて来るようです。海外では、行政などがメタバースを積極的に取り入れたりして身近にあるので、メタバースが気軽に立ち寄る場所になっているようです。もっと多くの日本人にも参加してほしいですね」

ただ、一方で広く普及するには課題もある。

今回、VRゴーグルを装着したまま体験していたが、このまま直接、物を買うことはできない。

まだ共通したウォレット=財布がないためだ。

そのためVket内で食材やスイーツを購入するためには各社のECサイトにいったん飛んでから購入することになる。

購入画面の一例。この先はECサイトにつながる

VRゴーグルを付けていた場合は、いったん外して目の前にあるパソコン上でECサイトから購入手続きに移行する必要がある。

支払い方法もクレジットカードなど、各ECサイトの仕様にあわせたものになるが、この購入プロセスについてはスムーズにしていく方針だ。

(大河原あゆみさん)
「将来はVket内でもそのまま購入できるようにしたいと考えています。また、より普及するには、デバイスにも課題があります。例えばVRゴーグルは重いし、価格も高い。アクセスのしやすさなど通信速度の問題もあります。ただ、これらはインフラが整ってくればもっとよくなると思います。私たちとしては、スマートフォンのように手軽でアクセス可能なものにしていくためのコンテンツを作って、自由に誰でもコミュニケーションができる空間を提供していきたいと考えています」

バーチャルマーケットでの取材を終えて

自己表現や活動などメタバースは自由度が高い世界だ

今回、初めて本格的なVRゴーグルを装着してバーチャルマーケットを体験した。

アバターを介したメタバース内のコミュニケーションは新鮮で没入感があった。

アバターで表現される相手は威圧感もなく、現実世界のように緊張したり必要以上にかしこまったりすることもない、リラックスできる世界だった。

商品などの購入という点でも接客に違和感はそれほどなく、細かな説明を受けることができるので食品などのサイズ感を問わない物であれば納得できる買い物は可能だと感じた。

専門的な知識を持った人をその場にすぐに呼んで、説明してもらえるのもありがたい。

時間や場所を問わない、新しい接客・マーケットの形としては興味深いものだった。

一方で、現段階では購入時にはいったん各社のECサイトに移る必要があるが、将来的にはマーケット内でそのままスムーズに購入できる仕組みを検討しているということで、この点も期待できそうだ。

メタバースは黎明期と言われているが、すでにフォーマットとして一部完成しつつあるとも感じた。

引き続き、バーチャル空間内でのマーケットの動きや発展に注目していきたい。

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