【特集】先輩の手ほどきで本物の仕事に触れる「キャリアクエスト講座」…明大明治

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 明治大学付属明治高等学校・明治中学校(東京都調布市)は、各界で活躍する社会人を講師に仕事の実際に触れる「キャリアクエスト講座」を毎年数回開催している。講師を務めるのはほとんどの場合卒業生で、生徒は先輩の手ほどきを受けながら、進路選択や将来の仕事について具体的にイメージを膨らませることができる。卒業生の建築士を講師として10月30日に開催された「建築・実習」講座の様子をリポートする。

将来進む学部、仕事のイメージを明確にする

キャリア教育の狙いを語る高大連携主任の山中先生
キャリア教育の狙いを語る高大連携主任の山中先生

 「本校では、ほとんどの生徒が高3の2学期まで授業に専念し、あるいは部活動にも励んで、その9割が明治大学に進学します。そこで、キャリア教育としては、卒業後どの学部に進み、どんな職業に就くかを明確にイメージできるよう、明治大学や卒業生と連携し、実社会での経験に触れる機会を提供しています」と、高大連携主任の山中 禎一郎(ていいちろう) 先生は話す。

 明治大学では毎年、同校の高校生を対象とした学部説明会や理系学部の施設見学をキャンパスで開催している。夏・冬休み及び春休みには、明治大学の講師陣による、TOEFLなどの英語資格試験や日商簿記検定試験の対策としての資格講座が開催される。簿記の講座には中3の春休みから参加することができ、2級を取得した生徒には、さらに公認会計士試験の勉強をする機会もあるそうだ。

 こうしたキャリア教育の一環として同校は、主に卒業生を講師に招いての「キャリアクエスト講座」を開催している。卒業生による講座は以前から随時、開催していたが、2018年度から「キャリアクエスト講座」の名称で年に数回定期的に開催するイベントとしたそうだ。

 「100年以上の歴史を持つ本校は、多彩な卒業生が各界で活躍しています。弁護士、建築士、国家公務員といった方々を講師として招き、裁判を傍聴したり、建築士の仕事の一部を体験したりといった講座を開いています」

実際の都市計画に沿って製図する「建築・実習」

「建築・実習」の講座を開いているOBの戸張氏
「建築・実習」の講座を開いているOBの戸張氏

 10月30日、同校で実施された「建築・実習」の講座を取材した。この講座は、「日生建築設計事務所」(東京都豊島区)の代表取締役で1級建築士の 戸張(とばり)(たけし) 氏が2017年から毎年開いている。毎年2回連続の講座となっていて、今年度は10月23日と30日に行われた。

 「当初は建築士の仕事についてごく基本的なことを教えるつもりでいたのですが、高校生にはより高度な内容を吸収する力があると気付き、実際の都市計画に沿って建ぺい率や容積率を調べたり、 日影(にちえい) 規制について学び、実際に日影図を作成したりといった実習を行うようになりました」と、戸張氏は話す。

 昨年度は、学校がある調布市富士見町の都市計画に基づき、建物模型を製作した。今年度は、建築基準法の「日影規制」について学び、「冬至の日の午前8時から午後4時まで、敷地からの水平距離が5メートル超および10メートル超の範囲で、それぞれ一定時間以上の日影を生じさせてはならない」という条件で、時間帯ごとの日影の範囲を描く「日影図」を、鉛筆と定規で作成する。

 「建築の仕事の面白さは、さまざまな規制がある中で、自分の発想をどう形にしていくかというところにあります。その前提として、建物計画の基礎を法規の面から理解している必要があります。生徒たちに、そういった建築の仕事の実際を体験してほしいと考えました」

 この日の講座は午後1時半に始まった。参加者は、男子生徒13人、女子生徒18人の計31人。昨年は約20人だったのに対し、今年は大幅に増えた。

日照定規を使って日影図を作成する生徒
日照定規を使って日影図を作成する生徒

 講座が始まると戸張氏は、まずJR「恵比寿駅」(東京都渋谷区)近くにある、中層階部分だけが変則的に六角形になっている建物の写真を参加者に見せた。「住宅地と商業地では日影規制が異なります。この建物では、住宅地に面している裏側で日照時間を長く確保する必要があり、このような変則的な形になっています。住宅地と商業地が密接している、東京都ならではの建物だと言えます」と、実例から日影規制の問題を説明した。

 生徒たちは次に富士見町の区画図と時間帯別の日影範囲を測るための「日照定規」を取り出し、思い思いに建物の形を考え、その日影範囲を描く日影図の作成に入った。この区画図も日照定規も、プロの建築士が使うものを、この講座のために特別に用意したものだ。

 生徒たちは、「この影をもう少し伸ばした方がいいんじゃない」「太陽がこっちから当たっているから、影が短くなるよね」などと、互いに助言しながら作成を進める。定規を使って一本一本線を引いていく根気のいる作業だが、講師に質問しつつ、1時間以上かけて丹念に製図を仕上げていった。

 一通り、図を完成させた生徒たちは一人一人、戸張氏に確認してもらう。「この線とこの線を合わせると、正しい図になります」「建物の高さを書いておいてください」と、戸張氏は細かい点を確認しつつアドバイスする。「現在、プロの世界ではパソコンで作図しますが、自分の手で線を引くことで、細かい点も実感として理解できるようになります」と言う。

 午後3時半に講座は終了した。出来上がった日影図は戸張氏が持ち帰って、パソコンで正確に作図し直したものを、後日生徒に配布するとのことだ。

受講者の中から明大建築学科へ進む生徒も

完成した日影図を戸張氏に確認してもらう生徒たち
完成した日影図を戸張氏に確認してもらう生徒たち

 この日の講座を受けた高2の女子生徒は、住宅リフォームのテレビ番組を見て建築に興味を持つようになり、昨年から「建築・実習」講座に参加しているそうだ。「定規を使って細かい作業をするのが好きなんです。将来は建築士になって、地球環境に配慮した家を建てられるようになりたいです」。明治大学理工学部建築学科への推薦入学を目指しているといい、合否の判定は高3の2学期までの成績を基に行われるため、これからが頑張りどころだ。「生物や物理が得意なんです。希望の学部に入るために、数学の成績をもう少し上げておきたいと思っています」

 昨年から「建築・実習」の講座に参加している高2の男子生徒は、「小さい頃から建築家になりたかったんです。学校で講座があると聞き、またとないチャンスだと思いました。実際に受けてみると、建築家になった時に役立つような新鮮な内容ばかりでした」と言う。 建物の設計だけでなく都市計画にも関心があるそうだ。「建物の形や向きによって日影の状態が変わり、それが周囲の環境に大きな影響を与えることが分かりました。そういった街全体のことを考えながら建物を設計する仕事がしたいです」

 同じく明治大学理工学部建築学科への推薦入学を志しているといい、「一般入試よりは余裕があるかもしれませんが、エスカレーター式というわけではなく、大学入学はやはり一つの大きな壁、目標だと感じています」と話す。成績を伸ばすため、放課後、自習室で勉強に励んでいるそうだ。

 「建築・実習」講座が5年続いている中で、受講者から明大の建築学科に進む生徒も出ている。昨年は、そうした学生が講座のアシスタントを務めた。

 コロナ禍の影響で昨年と今年の「キャリアクエスト講座」は年間2講座にとどまったが、「来年度からはさらに増やしていきたい」と山中先生は意気込む。「卒業生の方々の強いサポートにより、さまざまなテーマの講座を開ける可能性があります。この講座で実社会での仕事の内容に触れ、自分の進む道を明確にしていってくれればと願っています」

 (文:足立恵子 写真:中学受験サポート)

 明治大学付属明治高等学校・明治中学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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2557266 0 明治大学付属明治高等学校・明治中学校 2021/12/02 07:00:00 2021/12/02 07:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211129-OYT8I50070-T.jpg?type=thumbnail

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