ファッション

国内最大級のメタバースプラットフォームに聞く、メタバース×ファッションでの成功法

 ファッション業界のメタバースへの参入が加速している。2022年3月にはメタバース空間内では世界最大級のファッションショー「メタバース・ファッション・ウイーク(METAVERSE FASHION WEEK)」が開催。今やさまざまな企業・ブランドがメタバース領域の取り組みを行っている。しかし、国内でのファッション×メタバースの事例は、海外と比べるとやや数が少ない。一体なぜなのか。国内最大級のメタバースプラットフォーム「クラスター(CLUSTER)」の成田暁彦・取締役COOに話を聞いた。

WWD:「クラスター」では、どのようなことができるのか?

成田暁彦クラスター取締役COO(以下、成田):スマホやPC、VRなどの好きなデバイスからアクセスすることで、バーチャル上でさまざまなワールドを行き来したり、ゲームをしたり、音楽ライブなどのイベントに参加したりすることができます。ワールドは渋谷区公認の「バーチャル渋谷」やポケモンのバーチャル遊園地「ポケモンバーチャルフェスト」といったクラスター が依頼を受けて制作したものもあれば、ユーザーが制作したものもあり、合計で4万以上存在しています。スマホで簡単につくる事ができるワールド(バーチャル空間)から、リテラシーが高いユーザーはゲームやアバターなども自由に制作し、投稿できる形になっています。

WWD:クラスターとしては、メタバースをどのようなものだと考えているのか?

成田:端的に言うと、3DCGの中にアバターという身体性を持ち込んで生活をする、ということだと思っています。よく「フォートナイト(FORTNITE)」などのゲームから拡張していったものがメタバースの事例として挙げられますが、厳密にはゲームはメタバースの中の1コンテンツでしかなく、僕らのリアルの生活と同様に、他にもさまざまなイベントが存在するはずです。

WWD:国外ではメタバースのさまざまな事例があるが、国内では少ないような印象を受ける。何か違いがあるのか?

成田:国内にもメタバース関連のサービスは複数存在しますが、アバターでライブができるサービスであったり、ゲームであったりと、コンテンツサービスが多いと思います。一方、海外のサービスはプラットフォーム型が多い。特にUGC(User Generated Content)をベースにしたものが強いと思っています。ユーザーがプラットフォーム上でゲームなどのコンテンツを制作・投稿して、他のユーザーが遊ぶ、といった形ですね。21年3月に上場もしたアメリカのロブロックス(Roblox)が代表例です。

WWD:「クラスター」としても、UGC型のメタバースプラットフォームを目指している?

成田:そうです。僕らはよく「”3DCG版のユーチューブ”を目指す」と言っています。携帯1台でも手軽にコンテンツを作ることができ、そして作られたコンテンツに簡単に参加できる。もちろん、それなりの機材を用意してコンテンツを制作する、プロのような人々も出てくる。僕らとしてはそういった世界を目指し、ユーザーがワールドやアバターを簡単に制作できるよう、毎月さまざまなワールドのパーツやアバター用のアパレルなどをリリースしています。「メタバースが気軽かつ、日常の延長線上にある」といった認識を作ろうとしているんです。今後は徐々に、ユーザーが自分で作ったコンテンツでマネタイズができるようなフェーズに入っていくつもりです。

メタバース×ファッションの可能性とは?

WWD:メタバース×ファッションには、どのような可能性があるのか?

成田:3DCGの世界であるメタバースでは、表現できないものがほぼなく、体験の拡張を行うことができます。例えば店舗でも商品数の制約がなかったり、商品に近づいたら服が大きくなってディテールを確認できたり、といったことが可能です。さらには、メタバースにはアバターという身体性もあるため、”着飾る”といったモチベーションを作りやすい。そのためには、「人からよりよく見られたい」という承認欲求や、「自分はこうありたい」という自己表現欲求をメタバース空間内に生む必要があると思います。

WWD:”着飾る”モチベーションを作るのは現時点ではややハードルが高そうだが、メタバース×ファッションのユースケースはあるのか?

成田:確かに、現時点では事例は少ないです。ただ、「クラスター」内では可能性を示唆する事例がいくつか出てきています。例えばユーザーがアバターを作り、販売する見本市のようなイベントを週末限定で約1カ月間実施したのですが、合計で8000体弱が売買され、数十万円以上稼ぐようなユーザーも出ています。こここのことから、アバターを買う、という行為は徐々に浸透し始めていると思います。個人的には、アバターがよりリアルになり、身長や体重、体型などがアバターと同期できるようになれば、メタバース空間内で試着して、リアルの服を買ったり、その服をアバターも着たりする体験も可能になり、面白くなるかもなと思っています。

WWD:「クラスター」内でのファッションの売り上げなどのボリュームはどの程度なのか?

成田:現状、日本での規模はまだまだ小さいですが、海外では「フォートナイト」のアバタースキンの販売が年間で4,000億円程にのぼるなど、既に大きい市場があると言えます。「クラスター」としても今後伸ばしていきたい領域ではありますが、まだまだ単発の施策で儲かるとは思っていないので、さまざまなトライを重ねていきたいなと考えています。パートナーとなってくれるブランドさんのパワーを借りつつ、僕らはクリエイティブを提供することで、新しい事例を作っていきたいですね。

WWD:既にパートナーとなるブランドは決まっているのか?

成田:何社かとは水面下で話していますが、なかなか話が実現していないのが現状です。単純にアバター関連でコラボレーションする手法もありますが、海外では複数の先行事例もあるため、「海外の事例を上回るような、もう一手が何か欲しい」ということはどの企業さんも言っていますし、他にもアパレルは比較的リアルの側面が強い業界であることや、デジタルキャンペーンの予算がそこまで多くないことなども要因にはなっているかと思います。特に予算が少ないと、どうしてもPRとして一発の施策でそれなりの費用対効果を狙う形がメインになりますが、「クラスター」は緩く長くコミュニケーションをする場を目指していることもあって、中長期的なプロジェクトにしないと採算が取りづらい。ここに関しては当社からも歩み寄らせてもらって、クラスター側が制作やコストを負担することでいろいろなテストをしたいというブランドさんがいたらぜひご一緒させてもらいたいなと考えています。

WWD:現状、メタバース×ファッションで成功させるためには、どのような手法があると考えているか?

成田:恐らく、メタバース×ファッションの好事例を作るにはいくつかのステップを踏む必要があるんだと思います。例えば、メタバース×音楽ライブの領域にも複数のステップが存在しました。まず、米津玄師さんの「フォートナイト」でのバーチャルライブの様にバーチャル空間内のモニターにライブ映像を流すだけのライブビューイングの形がありました。次に、グリーンバック合成のような形でリアルな自分をメタバース空間に投影して実施するライブが増えていきました。そして最終形として、アーティスト自身がアニメーションアバターとなってライブを実施するといった手法があり、この3段階のステップが流行するまでに必要だったと考えています。ファッション領域でもこうした段階があって、メタバース空間内でリアルな服を販売するというのが実は最終ステップなのかもしれないな、と。僕らとしては、どういうステップがあるのか、パートナーさんと一緒に考え、実現していければと思っています。


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2022年12月6日(火)15:30~17:00 
2022年12月14日(水)13:30~15:00 
2022年12月20日(火)13:30~15:00

 高精度な3Dグラフィックとインターネット、アバター、ファッションを組み合わせたメタバースが注目を集めています。ブルームバーグの試算によれば、2024年にはその市場規模は世界で8000億ドル(約92兆円)まで拡大するとも言われています。「WWDJAPAN」は7月に、「メタバース×ファッション」にフォーカスしたセミナーを実施いたしました。

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