小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第45回

変わり始めた地方の小売。TRIALスマートストアで買い物

宮崎県初のスマートストア、TRIAL宮崎恒久店

福岡を拠点とするディスカウント系大手のTRIAL。東京都内(と四国)には店舗がないので、東京住まいの方はご存じないかもしれないが、九州では食料品から衣類まで揃う郊外型大型店として、広く親しまれている。

同社は以前からITによる流通革命として様々な取り組みを行なってきているが、7月8日に宮崎県内では初となる「スマートストア」をリニューアルオープンさせた。全国75店舗のうち、13番目のスマートストア展開であるという。これまでもプリペイドカードによるスマート決済やセルフレジ等は導入済みだが、今回はタブレット・センサー内蔵型のスマートショッピングカートを導入、買い物中に商品をスキャンすることで、さらにスマート化を加速させた。

似たような取り組みは、すでにイオングループが2019年より「レジゴー」を展開している。東京・千葉・埼玉・神奈川ですでに30店舗以上が導入済みなので、ご存じの方も多いだろう。レジゴーは店舗設置の専用スマートフォン、もしくは自分のスマホにアプリを入れ、ショッピング時にその都度商品のバーコードをスキャンする。最後に専用レジにデータを転送し、店員が点数を確認したのち支払いをするというシステムだ。

イオンモール宮崎でも導入されている「レジゴー」

やってることはシンプルで、セルフレジでまとめて商品をスキャンする行為を、手元のスマホで買い物中にやってしまうだけのことである。支払時に店員が一応チェックするが、全数をチェックするわけではないので、うっかりスキャン漏れや、あるいは意図的な万引きが発生するのでは? という懸念が払拭できないシステムである。

TRIALのスマートストアでは、”スキャン漏れ防止機能”が搭載されているという。せっかくなので、実際の店舗で買い物してみた。

専用機ならではのショッピング体験

スマートショッピングカートは、取っ手部分に10インチ程度のタブレットが固定されており、取っ手部の下部にバーコードスキャナが付いている。また大型商品向けにハンディスキャナも付いている。使用時には気がつかなかったが、台座部に充電端子があり、カートをネスティングしているときにカート同士の端子が接触し、最大20台までまとめて充電される仕掛けになっているそうだ。

タブレットとスキャナが一体化したスマートショッピングカート

ショッピングする際は、TRIALのプリペイドカードをスキャンさせて、タブレットと紐付けする。現金やクレジットカードで清算する場合は、普通のショッピングカートを利用する事になる。

買い物する際は、商品を手に取って、ハンドル下部のスキャナにバーコードを読ませ、そのままバスケットに放り込む、という手順になる。流れとしては非常にスムーズだが、商品がかさんでくると、バスケット内の入れ方をあらためて整理する必要が出てくる。

ハンドルの下を通してバスケットに商品を放り込む

”スキャン漏れ防止機能”は、センサーでバスケット内へのモノの出し入れを見ているようだ。バスケット内の積み方を整理していると、商品を取りだしたことがわかるのか、「商品を取り消しますか?」と表示が出る。このカート内のセンサーとタブレットが1対1対応しているあたりが、レジゴーとは違うところである。

商品の出し入れを検知してアラートを出す

また買い物をしていると、その売り場でクーポンが使えるものやポイントが溜まるものが表示される。最初は位置情報を元に売り場を移動すると変わるのかと思ったが、どうやら商品をスキャンすると、その関連商品を表示するだけのようだ。単純だが、効果は高い。おすすめされるのは同じ売り場にある商品なので、ポイントが付くなら買っておくか、という事になるのだ。このあたりのレコメンド機能も、レジゴーにはない仕掛けだ。

買ったものに応じておすすめ商品を表示

店内を見渡して感じたのは、意外に高齢者もスマートショッピングカートが使えている、ということである。

もともとプリペイドカードで支払いをするとポイントが貯まるので、以前からTRIALのカード利用者は多い。スキャン操作もスマホではなく「専用機」なので、動作が早い。商品をカートから取り出せば、「取り消しますか?」と聞いてくれるので、買うのをやめた商品の分まで間違って会計した、というトラブルも起こりにくい。客任せの「レジゴー」に比べると、手厚くケアされている感じがする。

最後の清算は、専用レジのゲートへ進むだけでデータが吸い上げられる。店員が何点か品物をスキャンして、データと照合する。これはスキャン漏れがないかというより、吸い上げたデータが目の前のカートのものかを見ているようだ。

支払いは、買い物前にスキャンしたプリペイドカードのチャージ金額から引かれるだけなので、支払い動作はない。そのままカートを押していってゲート出口でレシートを受け取ったら終わりなので、レジゴーよりもかなり早い。

物流の課題解決へ向けて

8月2日、TRIALとイオン九州は、2社を含む13社の九州地盤小売業者と共同で、「九州物流研究会」を発足した。競合他社同士が連携して、物流を相乗りしようという大胆な試みが動き出そうとしている。

九州は鉄道網が発達しておらず、特に九州東側への物流は、玄関口である福岡からの長距離トラック輸送に頼らざるを得ない。しかし2024年からは改正労働基準法により、配送ドライバーの時間外労働時間に上限が設けられ、違反には罰則もある。加えて燃料費の高騰や環境負荷といった問題解決は、いくら大手とはいえ一社だけが取り組んでもどうにもならない。

そこでTRIALが最大手イオン九州へ物流の共同化を申し入れたところ、せっかくだからもっと大きな話にしようということで、イオン九州が音頭を取って13社が相乗りすることとなった。オリジナル商品は別として、洗剤や飲料など全国流通品は、各小売とも結局は同じ品を個別に運んでいる。全部合わせればトラックの台数も輸送頻度も大きなものになるわけだが、相乗りできれば無駄なく、「空気を運ぶ」みたいなことが減る。

以前もお話ししたと思うが、ここ宮崎では、全国流通品、特に飲料など重量があるものの価格は、東京と同じかやや高い。物流コストが高いからだ。一方で宮崎県の平均年収ランキングは、47都道府県中45位。物流コスト上昇が価格に上乗せされれば、県民の生活水準に直結する。

TRIALは、「リテールAI」として顧客の体験向上を目指しているが、その内訳は個別発行のプリペイドカードでの清算で、顧客の商品ニーズを分析し、レコメンドを最適化していく。売り場にはAIカメラを設置し、欠品面積を算出し、バックヤードにアラートを出す。店内では省人化を計りつつ、物流の合理化でコストを下げる。

かつての大量一括購入によるディスカウントとは違う手法を確立しつつある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。