「メタバースの標準規格」は何を目指すのか 米国で始動した取り組みが描く世界

メタバースの定義が曖昧な状態が続くなか、米国で標準規格の制定を模索する動きが始まった。将来的に必要になる技術の標準化を目指すものだが、その先にはどんな世界が描かれているのか。

マイクロソフト、エピックゲームズ、アドビ、エヌビディア、イケアの共通点は何だろうか。標準規格の非営利団体「Khronos Group」によると、それはメタバースだ。

メタバースという言葉がいったい何を指すのか明確な定義がないにもかかわらず、多くの企業がメタバースの相互運用のために力を合わせている。とはいえ、具体的には何をしているのだろう。

Khronos Groupという団体については、これまで耳にしたことがないかもしれない。ある意味、そのように意図している団体なのだ。

この非営利団体と150社以上の協力企業は、いま使われている技術を支えるオープンスタンダードの管理と開発を担っている。オープンスタンダードにはOpenGLやVulkanをはじめ、あなたが遊んでいるビデオゲームが動作するために使っているさまざまなツールが含まれている。

「本当に成功している標準規格は、それが規格であることを忘れてしまうほど、あらゆるところに組み込まれているのです」と、Khronos Groupの代表のニール・トレベットは説明する。同団体はゲームや現実世界と仮想世界の融合した体験(XR)、機械学習、3Dデザインといった分野で開発した標準規格を、そのような存在にすることを目指している。

したがって、この団体がメタバースの標準化に関わりたいと思って当然だろう。だが、メタバースがどんなものになるのか、まだ正確にはわかっていない。それでもKhronos Groupは、メタバース向けのツールの開発を支援するために「Metaverse Standards Forum(MSF)」という協力団体の設立を発表した。MSFは新しい標準化団体ではなく、既存の標準化団体と企業の“協力の場”であるとしていう。

そもそもメタバースとは何なのか

テクノロジー企業やエバンジェリストたちによると、メタバースとは人々が買い物し、遊び、交流する未来の仮想世界だ。

SF小説が原作の映画『レディ・プレイヤー1』を観たことがあるだろうか。メタバースは映画に登場する「あの世界」なのだと、よく言われる。ファンタジー色の強いアイデアで、話としては面白い。

だが、それだけでソフトウェアができるわけではない。誰かが実際に構築しなければならないのだ。「メタバースは『レディ・プレイヤー1』のようには誕生しないでしょうね」と、Khronos Groupのトレベットは言う。

メタバースについて議論するとき必ず引き合いに出される『レディ・プレイヤー1』について、トレベットは次のように説明する。「OASIS(オアシス)と呼ばれるメタバースのすべてを、あっという間に完璧なものにつくりあげたのは企業ではありません。ひとりの個人だったのです。ひとりの開発者が、最初からメタバース内で起きうるすべての問題に対処して構築したことになります。これは実際にメタバースがつくられる方法ではないでしょう」

「また、オープンでインクルーシブなメタバースにすることで、ディストピアな世界にならないようにしたいと考えています」と、トラベットは語る。どうやらトラベットは原作をしっかり読んだようだ。

MSFではトラベットの言う「接続性と空間コンピューティング」、つまり現実世界と仮想世界の接続性と相互の関わり方の標準化を目指しているという。これにはデジタルツインのような技術(現実世界の工業的な環境を再現した仮想空間で、現実では実施できないような研究や試験をするためのもの)から、もちろんビデオゲームまで、あらゆるものが含まれる。

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