学校と家庭の連絡アプリ、3年で利用者数2.3倍
読み解き 今コレ!アプリ フラー執行役員デジタルパートナーグループ長 林浩之氏
多くの学校が夏休みに入った。休みの過ごし方など大量のプリントを児童や生徒が家庭に持ち帰るのが風物詩だった時代は、令和で終わるのかもしれない。
学校や保育園といった教育・保育施設のデジタルトランスフォーメーション(DX)が、オンライン授業など学習だけでなく、保護者とのコミュニケーションでも急速に拡大している。鍵を握るのがスマートフォンの「連絡アプリ」だ。
フラー(新潟市)が手がけるアプリ分析ツール「AppApe(アップ・エイプ)」によると、2022年6月の学校などの教育機関と家庭をつなぐ連絡機能を主な機能とするアプリの月間利用者数上位10アプリの合計は426万人。19年6月の2.3倍に達した。
同期間の教育カテゴリーの上位50アプリの利用者数増加率は1.6倍。連絡アプリの成長が著しいことがよく分かる(数値はiOS・アンドロイド合算)。
最も利用者数が多いのはドリームエリア(東京・渋谷)の「マチコミ」だ。基本的なサービスは無料とし、高付加価値な機能を有料にする「フリーミアム型」のサブスクリプション(定額課金)サービスで、運営費用の一部を広告で賄う。連絡網機能のほか、学校からの手紙や情報をアプリに蓄積し検索できる。
家庭側は学校から配布されたプリントを紛失するリスクを軽減できる上、学校側は紙の印刷や配布といった事務負担を軽くできる。
次いで多いのはコドモン(東京・港)の「コドモン」だ。連絡帳機能やアプリによる出欠連絡の受け付けをはじめとする家庭とのコミュニケーションに加え、登校・登園の管理や職員のシフト管理、授業料・保育料などの請求管理など現場で生じる多様な事務の効率化をアプリが担う。
いずれも現場の「働き方改革」と新型コロナウイルスの影響が相互に作用し、利用者増につながったようだ。教育や保育の現場で職員の負担軽減を念頭においたDXへの機運が高まっていたところに、コロナで非接触をキーワードとしたオンラインコミュニケーションの重要性が高まった。
スマホが幅広い年代に浸透し、学校が主要な情報を発信するツールとして選びやすい社会環境となったことも作用しているだろう。
費用面でも追い風が吹く。従来はシステム構築の初期費用として数百万円規模の投資が必要だったが、ソフトをクラウド経由で提供する「SaaS(サース)型」のサービス提供が一般的となり、費用は最低月額数万円~と導入のハードルは著しく下がっている。
教育・保育施設のようにアプリを軸としたDXによってビジネスの成長やマーケティング活動を加速させるには、トップダウンとボトムアップの双方が絡み合うことが重要だ。
従来の手法や文化に慣れ親しんだ経営層などはマインドを切り替えて一歩を踏み出すとともに、現場では課題を積極的に洗い出し、柔軟でスピード感のあるデジタルの強みを生かし解決を図ることでDXによる効果が最大化するからだ。
「アナログな業界」と言われ続けてきた教育・保育。DXによる変化の伸びしろは大きく、学ぶべきものは多い。
[日経MJ2022年8月1日付]