有料動画配信の成長に黄信号、Netflix会員数20万人純減
先読みウェブワールド(藤村厚夫氏)
動画配信のトップを走り続けてきたネットフリックスに黄信号がともっている。2022年第1四半期、同社は20万人の会員純減となった(総会員数は2億2000万人)。さらに第2四半期は200万人減少する見込みと公表したのだ。
同時に、社員150人のレイオフも発表した。1万人超の社員を抱える同社にとっては大規模なものではないが、これまで成長企業の急先鋒(せんぽう)として、オリジナル作品の制作や映像権の獲得と積極的な投資を見せてきた同社には、痛いつまずきだ。
利用者(会員)が減少に転じた最大の原因は20年からの新型コロナ禍の影響で急成長した反動が大きいと見るべきだろう。この間に在宅時間が増えて映像やゲームへの需要が激増。19年の会員数1億6000万人が22年には2億2000万人へとはね上がった。
だが、急成長したのは、ネットフリックスだけではない。ライバルと目される「ディズニー+」を筆頭に「アマゾンプライム」「ディスカバリー+」「HBO Max」などいずれもが成長をとげたのだ。反動が生じないはずはない。
これを裏づけるような分析を調査会社のデロイトがまとめている(21年)。それによると、米国消費者のうち動画配信の購読契約の経験者は20年10月で8割に近づいた(18年から約2割増)。また、コロナ以前の有料購読の契約数が平均で3だったものが、驚くことに5にまで急増した。
一方で、同じ期間に契約をキャンセルした経験のある人は2割だったものが5割近くへと伸びている。つまり、数多くそろった配信サービスを、試してはすぐに退会する(あるいは、見たいシリーズを見てすぐに退会する)スタイルも定着してきているわけだ。
こんな動きに呼応するように、「無料(もしくは安価な)」サービスも続々誕生してきている。先の調査でも、1つ以上の無料サービスを契約する人が増えていることが分かっている。有料購読型の動画配信を中心に成長してきた市場に、変化が訪れているのだ。
ネットフリックス事業については以前から、広告を表示して収入を拡大すべきとするアナリストらの論調に対して、「広告嫌い」で知られる最高経営責任者(CEO)のリード・ヘイスティングス氏がそれを拒み続けてきた。だがついに、今回の黄信号を機に、広告表示付きの安価サービスに取り組む発言をした。詳細は明かさないが、「無料版」ではなく「安価版」を選択し、広告非表示の現行版も維持すると見られる。
最近では、放送局が膨大にストックしている過去のテレビ番組を、ネットフリックスなどのようにインターネット経由で配信する動きも台頭してきた。ネット接続型のテレビに、広告表示付きで配信する。放送局は手持ちの動画作品を手軽に「現金化」できるというわけだ。
普及の果ての低迷とも見られたネットフリックスの今回のつまずきだが、平均の月額利用料金が1000円を超える現在の大手サービスと異なり、安価もしくは無料の市場が今後は大きく成長する段階に入ってくる。心配なのは「安かろう悪かろう」の波が市場を席巻してしまうことだ。
[日経MJ2022年5月30日付]