顔画像検索「ピムアイズ」、他人の過去探る利用に懸念
先読みウェブワールド(藤村厚夫氏)
インターネット上の画像検索サービス「PimEyes(ピムアイズ)」が話題になっている。正確には議論を呼んでいるというべきだろう。グーグルにも汎用的な画像検索機能はあるが、ピムアイズは顔画像の検索に徹しており、その認識精度が飛び抜けて高い。
筆者が自分の写真で試してみたところ、サングラスをしていても、していないときと同様の検索結果を得られた。マスクを着用しているケースでは、やや精度が低く、別人の写真が検索結果に交じるが、マスクをしていない自分の写真を見つけ出してくれた。
ピムアイズを試すのは簡単だ。同サイトで、手持ちの写真をアップロードするか、検索窓に備わった自撮り機能を使ってその場で顔写真を撮ればいい。写真を認識すると、ウェブ上に散らばる自分が過去にさかのぼりながら次々と表示されていく。筆者の場合、1~2分で8年近く前の、記憶から消え去っていたような自分の姿まで見つかった。
筆者が試した無料版では単なる検索結果だけで自分の顔写真だけを強調し、写真全体は表示しない。どこのサイトにどんな写真で掲載されていたのか、リンクをたどって元サイトを表示して確かめるには利用料金を払う必要があるという仕組みになっているのだ。
ここで注意したいのは、検索する画像は「自分」とされていることだ。ピムアイズの利用目的は、ネット上に散らばっている自分の写真を見つけ出し、それがどこに掲載されているのかを調べることだ。
しかし、それは建前であり、誰の顔写真であっても事実上、検索することができる。このあたりから、その高い認識精度への驚きがだんだん不安へ変わっていくのを感じる。
筆者の場合、幸い「見たくない過去の自分」に出会うことはなかったが、そんな写真を見つけてしまったらどうすべきか。自分が検索しなければ良い、ではすまない。ピムアイズは、誰の過去についても検索できるからだ。なかには見られたくない画像があるかもしれない。他人の過去を探る道具になり得るとして議論の的になっている。
さらに議論を呼んでいる理由は、その「ビジネスモデル」にもある。検索結果を詳しく確認するには利用料が必要で、月額4500円かかる。他人に「知られたくない」過去の映像をピムアイズの検索結果から除外するには、1万2000円から4万5000円と高額な料金を支払わなければならないからだ。
米紙ニューヨーク・タイムズは、「(ピムアイズの)技術はストーカーウェアとして設計されたものだ」とするヨーロッパのプライバシー保護団体の関係者による厳しい非難を伝えている。実際、欧州で制定されている「一般データ保護規則」違反の疑いでピムアイズの調査が始まっているとも報じられた。
顔画像認識は応用範囲の広い最先端の技術だ。行方不明者の捜索から犯罪捜査といった社会の安全に寄与する面がある一方、高度な「監視社会」を招くとの懸念も語られていることは周知の通りだ。「面白い便利なサービス」のその先に、見通しにくい暗雲が広がっていることにも注意を払う必要がある。
[日経MJ2022年6月27日付]