ビジネスへNFT活用の動き、米スタバは年内参入
noteプロデューサー・ブロガー 徳力基彦氏
非代替性トークン(NFT)というと何をイメージするだろうか。高額で売買されたアート作品、あるいはNFTを活用したゲームだろうか。昨今の世界的な株価の下落を受けて、仮想通貨市場も大きく下落しており、昨年のNFTアートの高額売買からはじまったNFTバブルは一旦はじけたように見える。
一部の調査によると、NFTマーケットの1日あたりの平均取引量はピークから68%以上の大幅減になっているというデータもあるようだ。そういう意味で、企業からするとNFTは自分には関係ないと考えている人が多いかもしれない。
ただ、おそらくNFTが技術として普及するのはこれからと考えた方が良いだろう。そもそもNFTというのは「デジタルのコンテンツを所有している感覚にさせてくれる技術」と説明するのが分かりやすい。
あくまでも高額で売買されたNFTアートなどは可能性の一部でしかなく、既に様々な企業活用の可能性が見えてきている。
有名な活用事例はNBAが運営している「NBA Top Shot」などに見られるような、デジタル上での「プロ野球カード」的な使い方だ。日本でもJリーグやプロ野球のパリーグがIT系企業と連携してスポーツNFTを開始し、吉本興業や出版社などもNFTを模索している。
ただ、NFTはNFT自体を有料で販売することだけが目的の技術ではない。コンテンツの所持者を可視化するための台帳のような技術と考えれば、スポーツ企業が選手のデジタルカードを発行できるように、普通の企業も会員カードやポイントカードのようなものをNFTで発行することが可能なのだ。
象徴的なのは、米スターバックスが、年内にはNFT事業に参入すると発表したニュースだろう。
実際にどのようなNFTが発行されるのかはまだ明らかになっていないが、NFT保有者に限定的な体験や特典を付与すると説明されているようで、デジタルの会員証やコレクションできるカードのようなものが想像されているのだ。
日本でも特徴的な事例として注目されているのは、新潟県の人口わずか800人ほどの限界集落である旧山古志村での取り組みだ。山古志村は2004年の新潟県中越地震で深刻な被害を受けた地域で、2005年には長岡市に編入合併された。その旧山古志村が、NFTを電子住民票として発行したのだ。
山古志村が錦鯉(にしきごい)の産地であることから、錦鯉のデザインで発行されたNFTは海外からも注目され、現在その所有者は900人と実際の山古志地域の住民数を上回ったそうだ。ポイントはこのNFTは、転売が主目的ではなく、山古志のデジタル村民になるための会員証としての役割を持っている点だろう。こうした取り組みは今後、企業の商品開発やサービス開発でもまねできる可能性がある。
NFTバブルは一旦はじけたようだが、実は本当にテクノロジーが浸透するのはバブルがはじけた後であることも、様々な歴史が証明している。企業にとっては今がNFT活用の可能性を考え始める良いタイミングになるかもしれない。
[日経MJ2022年7月22日付]