高島屋の新しい金融アプリ、「買い物×銀行」の成否
高島屋は8日、住信SBIネット銀行が提供する「NEOBANK(ネオバンク)」を活用した、新たな金融サービス「高島屋ネオバンク」を開始した。専用のスマートフォンアプリ「高島屋ネオバンクアプリ」をダウンロードすることで、預金や決済、融資といった銀行サービスを利用できるようになる。
ネオバンクは住信SBIネット銀行が手がける事業者向けの銀行インフラサービス。住信SBIと提携した企業がオープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用し、住信SBIの基幹システムに接続することで銀行と同等の金融サービスを顧客に提供する。これまでに日本航空(JAL)やカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、ヤマダホールディングスなどがネオバンクを導入してきた。導入企業は顧客接点のある部分だけ提携企業向けにカスタマイズすれば、銀行免許を取得せずとも銀行サービスを始められるメリットがある。
高島屋ネオバンクも、百貨店ならではの金融サービスを組み込んだ。目玉は何といっても「スゴ積み」と名付けられた積み立てサービスだろう。これは、高島屋が1962年から続けている「タカシマヤ友の会」サービスをデジタル化したものだ。1年満期型の積み立てサービスで、毎月一定額を積み立てて満期を迎えると、1カ月分のボーナスが付いた13カ月分の買い物券がもらえる。
スゴ積みでは積立金が「お買物残高」としてアプリにチャージされ、高島屋のレジにて提示すれば利用できる。また、これまで積み立てサービスを利用するには店頭での手続きが必要だったが、スゴ積みはアプリで申し込みできるため、来店せず非対面で手続きが完結できるのが売りだ。
百貨店の積み立てサービスは、毎月1万円を積み立てた場合、年利に換算すると15%相当になる。メガバンクの1年定期の金利が0.002%である中にあっては、非常にお得なサービスだ。しかし、約45万人いるタカシマヤ友の会会員の平均年齢は63歳と高齢化が進む。コロナ禍ではこうした高齢者層が来店を控えるようになってしまった。
高島屋は非接触のサービスを導入することで、積み立てサービスのターゲットを40代以下のより若い層にも広げたい考えだ。平野泰範執行役員は「『友の会』のシステム自体を知ってもらうことで、客層をより広げられるのではないか」と話す。高島屋はスゴ積みを起爆剤に、友の会の会員数を22年末までに約48万人までに増やしたい考えだ。
若年層の囲い込みは、高島屋のみならず百貨店業界全体の課題となっている。日本百貨店協会のデータによれば、百貨店の売上高は1991年の9兆円をピークに下降を続け、2010年以降は6兆円台で推移していた。
百貨店が全盛期だった高度経済成長期、バブル期に顧客だった層は高齢化。ユニクロなどのファストファッションの台頭や電子商取引(EC)の普及で、百貨店を利用しない若年層が増え、売り上げのおよそ4割を占めていた衣料品が売れなくなる。近年はインバウンド(訪日外国人客)需要が売り上げを支えていたが、それもコロナ禍で「蒸発」。20年の売上高は4兆円台にまで落ち込んだ。
百貨店各社は、収益源の多角化を急ぐ。その中で注目されている分野の1つが金融事業だ。比較的所得水準の高い層を顧客に持つ百貨店の強みを生かし、クレジットカードに代表される決済事業を強化する動きが目立つ。その中でも高島屋の取り組みは、決済事業にとどまらず、金融商品の取り扱いなど多岐にわたる。
金融業を「第3の柱」に
高島屋は金融事業を百貨店事業、商業開発事業に次ぐ第3の収益源と位置づけ、さまざまな施策を打っている。20年3月にクレジットカード事業子会社の高島屋クレジットと保険代理業の高島屋保険を統合し、金融事業を担う子会社、高島屋ファイナンシャル・パートナーズを発足させた。6月には資産形成や相続の相談ができるファイナンシャルカウンターを日本橋に開設。投資信託や保険、不動産信託や遺言信託など、多種多様な商品を取り扱っている。
中でも投信に関してはSBI証券と業務提携を結び、同社が扱う約2700本もの投信を仲介している。また21年4月には、インターネットを通じて個人から集めた資金を企業に貸し付け、配当を得るソーシャルレンディング事業にも参入した。
今回の高島屋ネオバンクによる銀行サービス開始で、高島屋は定期預金や住宅ローンなど、幅広い金融サービスを提供できるようになったといえよう。百貨店での買い物に使えるサービスに関しては、スゴ積みのほかにも口座開設者にはカード不要の「スマホデビッド」が発行される。預金の出入金に関しては、全国のセブン銀行、ローソン銀行のATMが月5回までATM手数料無料で使えるのも特徴だ。
高島屋は、21年度からスタートした新3カ年計画で、足元は営業利益44億円(21年度)の金融事業を最終年度までに55億円にすることを目標としている。仮にこれが実現すれば、金融事業は高島屋グループ全体の営業利益の2割近くを占めるまでになる。
金融事業の多角化を通じて収益を拡大し、百貨店事業の落ち込みを下支えする存在感を示せるか。ネオバンクはそのカギを握るといえよう。
(日経ビジネス 馬塲貴子)
[日経ビジネス電子版 2022年6月13日の記事を再構成]
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
関連リンク
企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。