ディズニー日本法人社長 「国内の動画配信は伸びる」
――ディズニーは日本でどんな事業に力を入れていきますか。
「動画配信サービス『ディズニー+(プラス)』に注力します。日本では2020年6月に始めました。21年10月から、地域ごとに異なるニーズにこれまで以上に応えるためローカルコンテンツを提供する『スター』というブランドを始動させており、北米以外の国々を主要なターゲットとしています。このスターを通して、良質なストーリーを日本から世界に発信していきます」
――世界に発信していくためには日本のコンテンツ産業との連携が必要です。
「すでに日本テレビやTBSと提携していて、例えばTBSドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』などをディズニープラスで配信しています。テレビ局に限らず、独立スタジオやクリエーターとの連携も積極的に検討します。『ツイステッドワンダーランド』というディズニーが協力して日本企業が開発したモバイルゲームがありますが、こちらもディズニープラスでアニメ化されます」
まだシェアを奪い合う段階ではない
――日本はディズニープラスの提供を始めた最初の非英語圏の国です。なぜ日本だったのでしょうか。
「日本は市場規模が大きく、購買力も高い。ディズニーのブランドが非常に浸透していることもあり、最初の市場に選びました。さらに、NTTドコモとの関係が長く続いており、ドコモの力を借りてコンテンツ配信をすぐに始められる状況だったことも大きい要因でした」
――日本の動画配信市場にも多くのプレーヤーがいます。競合の動向をどう見ていますか。
「米国では新型コロナウイルス禍に伴い、配信サービスの利用率は世帯ベースで8割を超えました。ほぼ全ての世帯が最低1つのサービスを利用しているのです。日本の利用率は米国の半分以下で、発展途上の市場です」
「日本ではまだシェアを奪い合う段階ではないでしょう。当社は動画配信を普及させたいと考えており、他のサービスと協力して市場を開拓することも視野に入っています。誰と協業し、どう拡大していくか、自分たちの強みをどう生かしていくのかを考えることが重要です」
「日本は米国と比べてデジタル化が遅れています。コンテンツが豊富にある最新のプラットフォームにできるだけ多くの消費者がアクセスできるよう、デジタル化を進める方法も考える必要があると思っています」
――ディズニーは様々な事業で消費者と接点を持ち、他の配信会社とは会社の姿が大きく異なります。
「特に日本はキャラクターグッズを販売する店舗『ディズニーストア』、映画、テーマパーク、動画配信と網羅的に接点があるアジア太平洋地域では唯一の市場で、これは当社にとって強みです。それぞれの接点でどうディズニーへの愛着を深めてもらうのかが課題です」
テーマパークとの相乗効果狙う
――ディズニープラス拡大のために、例えば、ディズニーからライセンスを受けて東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドと協力するといったこともあるのでしょうか。
「現在、オリエンタルランドと協議しているところです。来園者をディズニープラスにつなぐ戦略を練る必要があります。JR舞浜駅と東京ディズニーランドなどを結ぶモノレール『ディズニーリゾートライン』などで広告出稿を始めていますが、本格的なプロモーション活動をしているわけではありません」
「テーマパークで展開しているストーリーやキャラクターと、ディズニープラスのコンテンツをどう結びつけていくのか模索していきたいと考えています」
――ディズニープラスはオンライン上で消費者にサービスを直接売るという点で、これまでの事業と異なります。
「消費者に直接販売するD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)事業という意味ではディズニーストアもD2Cですが、動画配信と比べて規模が小さく、得られる市場のデータは多くありません」
「動画配信の事業を巡っては、消費者の動向を分析するシステムを活用するなど事業活動の成果を見ることに力点を置くよう社内の体制を変えました」
――ディズニーは日本でどのような地位を確立したいですか。
「10年後を見据えて『創造性の卓越(クリエーティブ・エクセレンス)』というディズニーの中核的な価値観を強固にする必要があります。今までと同様に人々の記憶に残るような素晴らしいストーリーを伝え続け、時代が変化しても、お客様との強い感情的結びつきを維持していきたいと考えています」
(日経ビジネス 石井大智)
[日経ビジネス電子版 2022年7月13日の記事を再構成]
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