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公平・公正な脱炭素実現へ 社会、経済、産業の転換を

NIKKEI脱炭素プロジェクト 第1回シンポジウム

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日本経済新聞社はNIKKEI脱炭素プロジェクトの第1回シンポジウムを10月にオンライン形式で開いた。二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを2050年に実現するため、どのような道筋を描くべきか。プロジェクトでは委員会(高村ゆかり委員長)が中心となり、公平・公正な脱炭素社会に向けて社会、経済、産業の転換を進めるべきとの中間宣言をまとめた。参画企業のトップらは自社の戦略や取り組みについて会場から発信した。

投融資ポートフォリオの脱炭素化めざす オープニング

高村 NIKKEI脱炭素プロジェクトでは9人の委員、13社の参画企業(シンポジウム開催時点)、ユース団体とともにカーボンニュートラルの実現に向けた議論を重ねてきた。とりまとめた中間宣言(10月19日付日本経済新聞朝刊掲載)について概要を紹介したい。

自然と調和した持続可能な地球を次の世代に引き継いでいきたい。一人ひとりの人権が尊重され、幸せを実感できる公平・公正でサステナブルな脱炭素社会、これを一つの大きなビジョンとして取り組む。社会、経済、産業の転換が必要になるが、取り残される人や地域が生まれない公正な移行をめざす。

水口 金融分科会をつくり、議論してきた。金融は経済を動かす大きな仕組みの一つ。金融を変えることで脱炭素社会を実現できる。そのために金融行政や開示制度を変えていく必要もある。

2050年までに投融資ポートフォリオの脱炭素化をめざす。革新的な技術に長期的な視野を持った投資と、今すぐ実現できる技術を大規模に導入するための投資。その両方が必要だ。不確実性の高い投資は民間だけでは限界がある。若者団体からは、世代間や地域間の公平性に配慮すべきだとの意見もあった。

新たな価値創造の機会に サントリーホールディングス社長 新浪剛史氏

グローバルな飲料メーカーとして水、プラスチックとともに気候変動を重点項目と考えている。2050年までに世界で使う水と同じ量の水を工場周辺の水源涵養(かんよう)林で育むことを目標に据えた。ペットボトルなど包装容器は30年までに化石由来の原材料をなくし、リサイクル素材あるいは植物由来素材100%に切り替える。

気候変動は、食品企業にとって原料調達に影響を及ぼす事業継続の課題だ。まず30年までに自社の温暖化ガス排出量を19年比で半減。バリューチェーン全体でも30%減らし、50年の実質ゼロをめざす。

21年5月にCO2排出ゼロの「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」(長野県大町市)を稼働させた。22年中に日米欧すべての自社拠点の電力をすべて再生可能エネルギーに切り替える。

50年の排出実質ゼロ達成に向けた最大の課題の一つがパートナーとの協働だ。農家や中小企業も多く、人的・技術的支援により誰一人取り残さないSDGs(持続可能な開発目標)の精神で取り組む。

アールプラスジャパン(東京・港)で使用済みプラスチックの再資源化に取り組む。出資企業は業界の枠を超えた32社(意向を含む)に上る。生活者にとって「良品」の定義が変わり、地球環境への貢献は必須になった。サステナビリティーを新たな価値創造の機会ととらえ、成長戦略を描きたい。

災害損失最小化へAI活用 三井住友海上火災保険社長 船曳真一郎氏

損害保険業界が国内の風水災で支払った保険金総額上位10件のうち7件が2010年以降だ。18年の台風21号は1兆678億円と過去最大、次いで19年の台風19号が5826億円だった。19年度までの10年間の支払額は09年度までの10年間の約3倍に急増した。

4月に気候変動対策チームを設置した。商品サービス、資産運用、自社の脱炭素化など6つのタスクフォースをつくり、100人超で脱炭素の対策を検討している。

スマートフォンアプリ「災害時ナビ」は、最寄りの避難所への安全なルートを地図上で示し、家族の安否確認もできる。災害後速やかに保険金を支払い、早期復旧に役立つドローン(小型無人機)を開発している。撮影画像から人工知能(AI)が浸水状況などを解析し、一軒一軒の現地調査が不要になる。

企業向けには気候変動リスクの評価サービスを提供している。米スタートアップと連携し、洪水や暴風雨などの被害額をAIで予測する。90平方㍍四方という高い精度で2100年までの5年刻みで予測できる。自然災害による社会的損失を最小化する狙いだ。

当社のCO2排出量の7割をオフィスやデータセンターで使う電力が占め、2割は社有車のガソリンだ。再生可能エネルギー導入のほか、2025年度までに全車両を電動車に切り替え、40年度の実質ゼロをめざしている。

セラミック技術で貢献 日本ガイシ社長 小林茂氏

4月にグループビジョンを策定し、ありたい姿として「独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」を掲げた。①ESG(環境・社会・企業統治)経営②収益力向上③研究開発④商品の社会実装の強化⑤DX(デジタルトランスフォーメーション)推進――を成し遂げる。

今後10年間に3000億円の研究開発費を投じ、2030年には新事業による売上高1000億円以上をめざす。カーボンニュートラルとデジタル社会の2つの領域で、30年に売上高の50%、50年には80%を稼ぎ出したい。

併せて策定した環境ビジョンではCO2排出量を30年度に半減(13年度比)、50年度にはネットゼロにする目標だ。当社の事業は窯業。現時点では焼成工程でCO2を排出する。排出量取引が始まり、仮に炭素価格が1㌧当たり1万円ならば87億円の利益を失う。重要な課題だととらえている。

NAS電池(ナトリウム硫黄電池)やZNB(亜鉛2次電池)といった当社の大容量蓄電池と再生可能エネルギーを組み合わせてカーボンニュートラルを達成する。CCUS(CO2の回収・利用・貯留)に使うセラミック膜でも世界に貢献できる。脱炭素は産業界全体が連携して取り組むべき課題。当社独自のセラミック技術を世界の産業界に提案し、ともに脱炭素の実現に貢献したい。

今できることから迅速に JERA取締役副社長執行役員 奥田久栄氏

2050年にCO2排出の実質ゼロをめざす「JERAゼロエミッション2050」に3つのアプローチで挑む。

1つ目はゼロエミッション火力と再生可能エネルギーの相互補完だ。アンモニアや水素などCO2を排出しない発電燃料に切り替えていく。再生エネは自然条件に左右され変動するが、火力で補完できる利点がある。既存の発電設備も使え迅速かつ経済的に脱炭素を実現できる。

2つ目は国・地域ごとの最適なロードマップ(工程表)策定だ。経済成長や送電網、再生エネなどエネルギー事情に応じて対応する。3つ目はスマートトランジション(賢明な移行)だ。今できることからやっていく。

まず非効率な石炭火力発電所の設備を30年までに全基停廃止。次にボイラー型の石炭火力にアンモニアを入れて燃やす。24年度には碧南火力発電所(愛知県碧南市)で燃料の20%をアンモニアにする発電の実証を予定している。発電所の設備更新に伴いアンモニア100%の専焼をめざす。

ガスタービン型のLNG(液化天然ガス)火力には水素を活用する。水素の運搬技術の確立が必要となるが、30年代の本格運用を見込む。

再生エネは英国や台湾の洋上風力に参画し、開発や建設、運転についてノウハウを蓄積している。今後本格化する国内洋上風力に生かしたい。蓄電池による再生エネの導入支援も進めている。

海外で森林15万ヘクタール取得へ 王子ホールディングス取締役常務グループ経営委員 石田浩一氏

当社グループはバリューチェーンを通じた資源循環を推進する持続可能なビジネスモデルをグローバル展開し、森、水、紙の3つのリサイクルに取り組んでいる。

国内外に約58万㌶の社有林を持つ。木材生産を目的とする生産林が約45万㌶、生物多様性の維持などが目的の環境保全林が約13万㌶だ。王子の森は2020年度のCO2純吸収量が約93万5000㌧、累積固定量は1億2900万㌧に上る。

50年度の温暖化ガス排出実質ゼロをめざす「環境ビジョン2050」と、その道筋として30年度に70%削減(18年度比)する目標を掲げた「環境行動目標2030」を20年9月に制定した。

30年度の70%削減のうち、20%分は燃料転換による再生可能エネルギーの利用率向上、製造・物流部門の効率化、徹底した省エネで賄う。50年の石炭使用量ゼロに向け、国内にある石炭を使うボイラー16基のうち12基で燃料を転換できないか検討を始めた。将来は水素やアンモニアの混焼を見据え、石炭火力発電設備も改造していく計画だ。

残る50%分は森林によるCO2吸収量純増だ。約1000億円を投じて新たに海外で生産林15万㌶を取得しようと、ブラジルやニュージーランドなどで検討している。

「木を使うものは木を植える義務がある」との理念の下、持続可能な森林経営を実践してきた。国内外の社有林には絶滅危惧種の淡水魚や野鳥が生息する。地域とともに生物多様性を保全する取り組みを継続している。

具体的な行動で貢献 関西電力取締役代表執行役副社長 森望氏

電力会社は日本のCO2排出量のおよそ3分の1を占める。2月に策定した「ゼロカーボンビジョン2050」で、当社は安全・安定供給を果たしつつ50年までにCO2排出量についてカーボンゼロにすると宣言した。

デマンドサイド(需要側)のエネルギー利用は使用時にCO2を出さない電気と、水素に大きくシフトする。脱炭素化には「減らす」「置き換える」「創る」の視点が必要になる。社会の自発的な行動変容を促すためには、排出量の見える化が一丁目一番地だろう。

ゼロボード(東京・港)と協業し、排出量を可視化するクラウドサービスを提供する。省エネ支援サービスはアイ・グリッド・ソリューションズ(東京・千代田)と共同開発した。無理のない省エネ行動の促進と、快適性を損なわない高効率の空調制御を両立できる。

置き換えの一つが電気自動車(EV)だ。バスの充放電管理システムや電源設備をまとめて提供する。トラックなど商用車では日野自動車と共同出資会社を設立した。

火力発電所で水素発電に挑む。水素を使う熱電併給システムの実証運転に着手し、水素燃料電池船の商用化も検討中だ。具体的な行動で脱炭素社会の実現に貢献する。

「脱炭素移行金融」に強み みずほフィナンシャルグループ執行役サステナブル・ビジネス推進統括 牛窪恭彦氏

日米欧中は世界のCO2排出量の約6割を占める。日米欧は2050年のカーボンニュートラル実現で足並みがそろい、中国も60年を目標に掲げた。

日本は30年度に13年度比46%削減の目標だが、みずほ銀行産業調査部の試算では、見えている技術や政策をフル動員しても33%にとどまる。再生可能エネルギーの導入拡大、建物のゼロエミッション化徹底などでようやく達成できる水準だ。

脱炭素化は簡単な話ではない。経済成長との両立はハードルがさらに上がる。将来あるべき姿から現在を振り返る「バックキャスティング」で思考することが重要だ。

脱炭素が経営課題となり、事業戦略と財務戦略を一体的にとらえて検討することがこれまで以上に大切になる。事業戦略においてはコア・ノンコアの区分けに加え、サステナビリティー(持続可能性)貢献度が新たな判断軸に加わる。

脱炭素への移行を促す「トランジションファイナンス」に注目している。パリ協定に整合的な企業の脱炭素への取り組みを支援する新たな動きだ。

21年3月には次世代型環境対応LNG(液化天然ガス)燃料自動車専用船を建造する川崎汽船にトランジションローンを組成した。脱炭素の前提となる長期戦略策定などとあわせ、非金融から金融までワンストップで支援する。これがみずほグループの強みだと考えている。

持続可能な世界築き 次の世代に引き継ぐ

シンポジウムは、英北部グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に先駆け開催した。地球温暖化問題への関心が高まるなか、シンポジウムでの議論も白熱した。持続可能な世界を築き、次の世代に引き継いでいけるのか。カーボンニュートラルには課題が多く、危機感に温度差があるのも事実だが、人類が一致協力して解決すべき問題であることは間違いなく、残された時間は決して長くはない。

「環境」、企業に行動変容促す パネルディスカッション1

高村 気候変動対応の最前線について、プロジェクトに参画するリーディング企業の3社から取り組みを紹介いただく。なぜ気候変動問題に取り組むのか。どういう脱炭素社会をめざすのか。

中出 三井不動産は温暖化ガスの排出量削減について2030年度までに19年度比30%減、50年度までにネットゼロを目標として掲げている。排出量の約48%が建築フェーズ、約46%が建物運用フェーズで構成される。

東京ミッドタウン日比谷(東京・千代田)では省エネ・創エネ技術を駆使し、環境負荷の低い建物を実現。グループ会社の三井ホームは木造マンションや木造中高層建築物の取り組みを強化しており、鉄筋コンクリート造などと比較してCO2を40~50%削減する。

前田 脱炭素への機運は15年のパリ協定前から高まっており、採択でオセロがひっくり返った。世界が化石燃料から再生可能エネルギーへ転換する中で、未来志向に変わるべきだ。企業が脱炭素へと一気にかじを切ろうと思っても、使う電気と調達できるグリーン電力のギャップが生じてしまう。それを埋めるのがafterFIT(東京・港)だ。発電所の土地探しから保守管理まで自社の人材が手掛け、大手電力会社の従来料金と同じ値段で再生エネによる電気を提供する。発電、送電、売電の3領域を一気通貫で手掛ける強みだ。

滝沢 EYは監査を含む総合コンサルティングを手掛け、世界約30万人の従業員のうち1万人が日本にいる。脱炭素は環境問題だけでなく経営戦略になっている。クライアントが中期経営計画を立案するときに脱炭素は必ず入る重要項目だ。M&A(合併・買収)の立案・実行においても、脱炭素に無頓着な会社を買うわけにはいかない。CO2排出量の削減目標など非財務情報を第三者機関として保証することも今後増えてくるだろう。

EYは25年のネットゼロをめざしている。すでに20年に排出量取引によるオフセットと、植林を通じたリムーバルによってカーボンニュートラルを達成している。

高村 企業はなぜ気候変動対策に取り組む必要があり、課題は何か。

滝沢 ステークホルダー(利害関係者)資本主義の観点からも対応を迫られている。投資家、消費者、従業員の3つがゲームチェンジャーとなり、脱炭素に対応しないとお金が借りられない、商品が売れない、優秀な人材が採用できないといったことが顕著になった。慈善事業ではなくビジネスそのもので、企業の行動変容を促している。

前田 再生エネの議論になると供給サイドの話に偏りがちだが、需要サイドの行動変容を促すことこそ重要だ。温暖化ガスの排出がコストになればドミノ倒しのように変わっていくだろう。

中出 海外と比較すると、洋上風力などの大規模な再生エネ開発には国のリーダーシップが欠かせない。小規模な再生エネはできる限り自社で太陽光発電所などを設け、自社施設に託送する。脱炭素はグローバルな視野で取り組まないと解決しない。RE100など国際的なイニシアチブにも加わり、できることを広い視野で考えていく。

問題解決へ 森林資源活用 パネルディスカッション2

高村 「気候変動問題と森林 自然資本の役割」のテーマで進めたい。

寺沢 住友林業の歴史をまず紹介したい。愛媛県の別子銅山周辺の山々は18世紀後半に長年の過度な伐採と煙害によって荒廃が進んだ。1894年に失われた森を再生するため大造林計画を始めた。多いときで年間200万本を植林した。現在は国内外で約28万㌶を保有している。

森林は経済林と環境林の役割に応じた施業で循環利用と脱炭素を両立させ、長く使える木質建材の製造加工、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様の木造建築の推進、木質バイオマス発電の拡大でCO2を吸収・固定・削減している。森林資源をベースに「サーキュラーバイオエコノミー」を構築して、脱炭素社会に貢献したい。

大野 気候変動は自然資本の最大の脅威になった。米カリフォルニア州やオーストラリアで山火事が頻発している。解決には化石燃料から人類を解放し、再生可能な自然資本を使うしかない。

国際エネルギー機関(IEA)や国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は2050年に電力の9割が自然エネルギーで供給されるだろうとのリポートを出した。日本は資源小国とよくいわれるが、化石燃料ではなく自然資本に着目すれば資源大国だ。

森沢 CDPはESG(環境・社会・企業統治)投資の重要性をいち早く見いだし、投資家が企業の環境情報開示を促し、開示で得られたデータを投資に生かすシステムを構築した。21年には運用資産規模で110兆㌦に達し、590を超える機関投資家と200社超の企業がCDPを通じた情報開示を企業に求めた。

気候変動のみならず、水、森林、サプライチェーン(供給網)についても情報開示を促し、サステナブル(持続可能)な投融資の判断に世界の投資家が活用している。

高村 脱炭素に森林資源を生かす秘訣は何か。

寺沢 法隆寺は1000年以上前に建てられ、当時の炭素が今も固定されている。木材による脱炭素のシンボルだ。海外で広がる中大規模の木造建築も日本ではスタートラインに立ったばかり。もっと木材を使う政策の後押しに期待している。

大野 日本は建築物のエネルギー性能を考慮する点で遅れていた。太陽光発電の設置義務化も急がなければならない。

森沢 木造建築物に対する低金利融資など環境商品の広がりは今後期待できる。日本の可能性は大きいのではないか。

日本の多様な課題、浮き彫りに NIKKEI脱炭素委員からのメッセージ

シンポジウムではNIKKEI脱炭素委員会のメンバーが意見を述べ、日本が抱える多様な課題が浮き彫りになった。

末吉 エネルギー消費量に占める電源構成をみると、日本は自然エネルギーで各国に後れを取っている。1990年から約30年間に欧州連合(EU)はGDP(域内総生産)が63%伸びた一方、CO2排出量は23%減らした。日本はGDPが32%伸び、CO2排出量も3%増えた。産業構造の転換が進んでいない。

気候変動問題は世界が一緒に取り組む必要がある。つまり世界と共有の価値観を持たなければならない。パリ協定が2015年に採択されたにもかかわらず、日本政府はすぐにエネルギー基本計画を見直さなかった。思考停止のツケは大きい。

田中加 50年のカーボンニュートラル社会では、必要なエネルギーの大部分を再生可能エネルギーで賄い、一層の省エネや利用効率向上に取り組む必要がある。大規模な電化、材料・製品需要の変化、ライフスタイル・価値観の変容が想定される。人工知能(AI)やロボットの高度利用も進む。

就業人口減の中での経済成長には労働生産性の向上が必須だ。カーボンニュートラル社会による産業・社会構造の変化を好機とし、技術開発とそのための投資や、構造変化にあわせた教育機会増進が課題になる。世界の中での日本の産業や研究開発部門へのニーズをとらえることも重要だ。

田中謙 脱炭素の議論では電力や鉄鋼などCO2を多く排出する産業が注目されるが、このセクターだけ頑張っても十分ではない。企業も努力するが、需要側も努力する必要がある。太陽光や風力といった再生可能エネルギーを大量に導入すると、発電量の変動を吸収するための送電網や蓄電池の整備には非常にコストがかかる。電気自動車の導入や分散電源などユーザーが持つリソースを少しずつ出し合い、国全体でコストを低減しなければならない。

吉高 20年のESG(環境・社会・企業統治)投資は35・3兆㌦。投資家と話すと「グリーン」は企業の成長戦略を評価しやすいという。年間5兆㌦のエネルギー投資で30年の世界のGDPが4%高まるとの試算もある。市場はグリーンビジネスの投融資先を求めている。

日本はコロナ禍で少子化が早まったとされる。50年に40~50歳になる世代は「デジタルネーティブ」「SDGs(持続可能な開発目標)ネーティブ」だ。彼らがワクワクし、創造的な仕事ができる環境を整えなくてはならない。そうでなければ、日本の成長はない。

ユースからのメッセージ

未来よくするアプローチ Youth Econet 鳥井要佑さん

地球温暖化や気候変動、生物多様性という言葉をよく耳にする。しかし日本人の多くは事の深刻さに気づいていないのではないか。少し暑くても我慢できると思っている人、お金さえ稼いでいれば快適な生活が保障されるだろうという人、100年後は自分には関係ないと考える人。言葉にせずとも頭の片隅で思っている人は多いだろう。

企業にお聞きしたいことは2つ。1つ目は「なぜ環境に配慮した取り組みをしているのか」。組織の取り組みや個人の動機として十分に説明できるのか。2つ目は「分野、世代をまたいだ交流はできているのか」。未来に向けた創造、その輪を広げていただきたい。

一般に環境問題は行動抑制や我慢といったネガティブなイメージが強いが、長期では私たちの未来をよくしていく一つのアプローチだ。地球は一つしかない。どの道を選ぶかは私たち次第だ。

産学官民 一体で解決へ Climate Youth Japan 内田大義さん 柳沢暦花さん

私たちが思い描くカーボンゼロ社会を紹介したい。1つ目に産学官民で対話の機会が創出される社会だ。問題意識や方向性を分かち合い、社会貢献することが望まれる。2つ目は利便性の享受を当然と考えない社会だ。環境負荷の小さな移動手段を選び、ワンウエー(使い捨て)製品の使用を必要最小限にとどめる。

3つ目は環境に配慮した仕組みやサービスが浸透している社会だ。スマホの地図検索でCO2排出量の少ない経路を表示するなど、市民に環境配慮の行動を促すことができる。4つ目は社会利益を重視する社会だ。企業などが経済的利益よりも社会的利益の追求を重視する社会を望む。

環境問題の解決には産学官民一体で取り組んでいく必要がある。

倫理的で公正な解決策を Fridays For Future Japan 酒井功雄さん

気候変動で未来が脅かされているにもかかわらず、社会の行動が不足している。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが学校ストライキを始めたことから我々の運動は始まった。

政策決定者、企業に対して道徳的な圧力をかけて科学の声を聞くこと、そして「気候正義」をもとにした公正な解決策を求めている。

私たちは気候変動対策についてビジネスとしての脱炭素だけではなく、倫理的な観点が欠かせないと考えている。気候変動は不平等に脆弱な人々を襲うからだ。台風や干ばつなどで貧困層が直接的、経済的なダメージを受けている。

CCUS(CO2の回収・利用・貯留)など十分に実用化されていない技術や、アンモニア・水素の混焼による石炭火力の「延命」は解決策と呼べるのか。私たちは脱炭素に向け急激な変化を起こす必要がある。

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