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Googleの「BigQuery」とどう対峙? 裾野広がるデータ活用、AWSの戦略を「Redshift Serverless」から探る

» 2022年07月28日 15時00分 公開
[本多和幸ITmedia]

 米AWSが7月13日(日本時間)にクラウドデータウェアハウス(DWH)「Amazon Redshift」のサーバレス版「Redshift Serverless」を正式リリースした。これは多くのサーバレスサービスと同様、サーバをはじめたとしたインフラをユーザー自身が設定・管理する必要がなく、使った分だけの費用で利用できるサービスだ。

 DWHの主な用途であるデータ分析業務の裾野は急速に広がっており、データサイエンティストやデータアナリストといった専門職だけでなく、事業部門の商品企画・開発、マーケティング、営業など現場により近い担当者レベルでもデータ分析・活用のニーズが高まっている。

 AWSはこうしたトレンドを受け、これまでプレビュー版として提供していたRedshift Serverlessを正式リリース。DWH管理者の手を借りなくても「膨大なデータをより簡単に分析できる」(AWSジャパン)環境として、サービスを提供したかたちだ。

 一方、サーバレスなクラウドDWHの分野では、Google Cloudが提供する「BigQuery」が先行して支持を集めている。AWSは、この市場動向を踏まえて今後どのようにサービスを展開していくのか。本記事では、Redshift Serverlessの特徴や、AWSジャパンが13日に開催した発表会の内容から、データマネジメント製品を巡るAWSの戦略を分析する。

Amazon Redshiftの全機能がサーバレスで利用可能

 Redshift Serverlessは、Amazon Redshift管理コンソールから起動可能。SQL(データベース言語の一つ)を実行するためのツールである「クエリエディタ」を使ってサーバレス環境にアクセスし、分析業務を開始できるという。

米AWSでRedshiftのプロダクトマネジメントディレクターを務める川本雄人さん 米AWSでRedshiftのプロダクトマネジメントディレクターを務める川本雄人さん

 川本雄人さん(米AWSのRedshiftプロダクトマネジメントディレクター)によれば「需要に応じて自動的にプロビジョニング(リソースの割り当て)したり、スケーリングしたりするため、数GBからPB(ペタバイト)級のデータまで一貫したパフォーマンスを実現する」という。既存のRedshiftユーザーは、データ分析に活用しているアプリケーションやBIツールなどに変更を加える必要もないとしている。

 これまでAWSがRedshiftで提供してきた全ての機能も利用可能。例えばオブジェクトストレージサービスの「Amazon S3」を使ったデータレイク(さまざまなデータを大量に保持できるリポジトリ)や業務システムのトランザクション管理などを担うRDBのデータなどを一元的に分析できる機能、「Amazon SageMaker」(機械学習モデルの開発から展開までを支援するサービス)と連携した拡張機能などが使えるという。

 料金体系については「DWHを使用していない場合は何も支払いが発生しない。コンピュートやメモリをRPU(Redshift Processing Unit)と呼ばれる単位で、使用した分だけ支払ってもらう仕組みになっている」(川本さん)と説明。利用の上限を設定することも可能という。

正式リリースの背景には現場のデータ分析需要

 AWSがRedshift Serverlessを正式リリースした背景には大きく分けて2つの理由があるとみられる。1つ目は先述した通りで、データ分析を取り巻く環境が変化しつつあることだ。

 データ分析を取り巻く環境の変化について「当初はDWHの管理者がIT部門にいて、データ分析はその管理者の意向に沿って行うしかなかった」と小林正人さん(技術統括本部技術推進本部本部長)。しかし、現在ではさまざまな場面でデータ分析が必要とされている。

 川本さんも「インスタンスのプロビジョニングや拡張、バックアップ、リストア(バックアップデータを使った復旧)、パフォーマンスチューニングといった日々のメンテナンスに煩わされることなく、即座に使える環境を整えて分析業務をしたいというユーザーが増えている」と話す。Redshift Serverlessはこういったニーズに応えるべく開発したという。

BigQueryのユーザーを意識? データ分析市場の動向

 2つ目は競合サービスの存在だ。市場の現状に目を向けると、サーバレスのクラウドDWHとしては先述したBigQueryが先行して支持を集めている。データ分析業務で活用する際の技術的なハードルの低さやスモールスタートのしやすさ、他社のクラウドDWHと比較して処理性能が高くなるケースも少なくないことなどが評価されている印象だ。

 マルチクラウド対応にも積極的で、AWSをインフラとして選んだユーザーが、DWHにはBigQueryを使うケースも散見される。Google Cloud側もこうしたユースケースを積極的に拡大する「A+G」(AWS+Google Cloud)戦略を進め、顧客獲得につなげてきた。

 AWSのパートナーであるクラウドインテグレーターの間でも、こうしたニーズを踏まえてGoogle Cloudへの対応を強化する動きが目立っている。Redshift Serverlessの正式リリースには、一連の動向への対応策という側面もありそうだ。

 そもそもAWSは基本的に、インフラ/プラットフォームのレイヤーでのマルチクラウドを推奨していない。特にデータ分析の基盤については顧客が必要とするサービスは自前でそろえる方針を鮮明にしている。

 AWSジャパンの発表会でも、小林さんは「(サーバレス版に限らず)Redshiftについては2013年の提供開始以来、継続的なパフォーマンス改善や機能拡張に取り組んでおり、他社製品と比べて競争力のある製品になっている」とコメント。具体名への言及は避けたものの、競合への対抗意識をにじませた。

 小林さんは「AWSは顧客のデータ戦略を支えるサービスをエンド・トゥ・エンドで提供するために注力している」とも強調。従来は他社製品・サービスがAWSの補完的な役割を果たしてきた領域にも手を広げ、市場での優位性をさらに高めようとしているとみられる。

アマゾンウェブサービスジャパン技術統括本部技術推進本部本部長の小林正人さん アマゾンウェブサービスジャパン技術統括本部技術推進本部本部長の小林正人さん

他社サービスと「棲み分け」しない? データマネジメント領域におけるAWSの戦略

 発表会では、小林さんがAWSのデータマネジメント製品の事業戦略についても改めて触れる場面もあった。

 小林さんによれば、AWSではユーザーが「モダンなデータ戦略」を進めるためには、(1)データ分析・活用のためのITインフラをレガシーな環境から先進のクラウド環境に移行する「Modernize」、(2)データソースの一元化やセキュリティとガバナンスの統一を図る「Unify」、(3)AI・機械学習などを活用した高度なデータ分析によるビジネスプロセスの再構築を進める「Innovate」──が必要だと分析しているという。

 AWSはこれらを包括的に支援し「あらゆる(データ分析・活用の)ユースケースに対応できる」サービスを提供するとコメント。少なくともデータマネジメント領域では基本的に他社サービスとの「棲み分け」を前提とせず、全方位の機能強化・機能拡充を継続することを強調した。

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