多くの企業がデータ活用プロジェクトを進めるが、頓挫して後戻りするケースも多い。その原因と解決策を、データ分析専門のコンサルティングファームであるデータビズラボの代表取締役を務める永田ゆかり氏が解説する。
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「BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入したが、データ活用に結びついていない」「データ活用のためのチームを編成したが、結果が出ない」という声が聞こえる中、データ活用のためのプラットフォーム作りや活用体制作りに成功している企業はどのようにプロジェクトを推進しているのだろうか。
データ活用における一気通貫型コンサルティングを提供しているデータビズラボ 代表取締役 永田 ゆかり氏は「データ活用には課題やゴールの言語化が大切だ」と指摘し、「顧客を支援する中で、データ活用プロジェクトに関する典型的な課題が見えてきた」と語る。
本稿は2022年8月29日〜9月1日に開催されたITmedia主催「DX Summit vol.13 変わるデータ経営、変わるデータ基盤」の講演「実例から解説! データ活用プロジェクトを成功に導くには?」を基に編集部で再構成した。本稿は前後編の後編となる。
プロジェクト検討段階からプロジェクト進行段階に移行する境界部分にあるのが「データ分析人材不足」という課題だ。
人材によって役割はさまざまだ。「旧来の情報システム部門(情シス)で必要とされていたスキルセットとは全く違う技能を持つ、多種多様な人材が今後は必要だ」(永田氏)
永田氏は「スモールスタートでプロジェクトを進めながら、プロジェクトの目的を達成するためにどのような人材が必要なのかを考えてチームビルディングしていくべきだ」と話す。
これができなかった場合に起こるのが「データサイエンティストを採用したが、得意領域がかみ合わずに数カ月で辞めてしまった」「社内に知見がないから外部に丸投げすることになった」「事業部と分析部署、データ部署を橋渡しする人材がいない」といった問題だ。
永田氏は「外部委託自体は悪くないが、“手綱”はあくまでもユーザー企業自身が握るべき。誰も管理できていないのは問題だ」と指摘する。部署間の橋渡しをする人材がいないと、「データが社内で活用されなかったり、いろいろな齟齬が起きたりといった結果に結び付く」と語った。
ここで永田氏は日本テレビ放送網(以下、日本テレビ)の事例を紹介した。「データリテラシーが高くない方にも理解できる解像度で説明を繰り返し、各部署との協力体制を構築した」(永田氏)。データビズラボは同プロジェクトに対してデータ可視化とデータ活用推進、支援体制の構築と拡大を中心とした包括的な支援を実施している。
具体的な支援内容としては、コンテンツパワーの可視化やSNSデータ分析、広告クライアントに見せる視聴者デモグラフィックの分析、可視化に加え、グループ会社のデータ利用状況や財務状況の分析、可視化、顧客データ分析などだ。
さまざまなデータが可視化されたことで、各部門の従業員がデータやダッシュボードを見て「もっとこんなデータが見たい」「データ活用によって業務改善を行いたい」といった会話をする機会が増えたという。「コミュニケーションが活発になったことが、このプロジェクトの大きな成果だ」(永田氏)
プロジェクトの進行段階に立ちはだかるのが「プロジェクトマネジメントの壁」だ。プロジェクトマネジメントの問題は「ゴール達成に至るプロセスを把握できていない」「どのようにリスク管理をするべきか分からない」という2点だ。永田氏は「これを乗り越えられずに検討フェーズに戻るケースもかなりある」と指摘する。
では、そうならないためにどうすべきなのか。「データ活用プロジェクトは基本的に旧来の情シス的な発想ではなくアジャイル発想でやっていく以外に道はない。後から必要なデータに気付くこともあれば、成果物を利用した上で検討すると別の発想が出てくることもある。そのため課題に気付いたらすぐにアクションを起こす、アジャイルやスクラムといった考え方との親和性が高い」(永田氏)
社内全体を巻き込みながらプロジェクトを維持、拡大していくための手順は以下の通りだ。
「このような道筋をたどるのが王道だ。軌道に乗せるためには成功事例を説明する能力がある人が社内で“宣伝役”になることが重要だと考えている」(永田氏)
もう一つの進め方として、データ活用部署が中心となって中央集権型の分析体制を確立し、その後各事業部に分散して利用を拡大するパターンもある。永田氏は「予算が十分にとれてカンパニー制をとる会社でよく見られる手法だ」と語る。
データ分析の7割を各部門がそれぞれ実行できれば、データ活用文書は残った3割の高度な分析だけを担当する体制をとれる。「このような分析体制をすぐに作れるケースはまれだが、試行錯誤の末にこのような体制をとった成功企業は多い」(永田氏)
導入段階を終えた組織が突き当たるのが「社内普及の壁」だ。
データ分析プロジェクトにおいては、CDO(最高デジタル責任者)が旗振り役となり、組織全体のデータ活用戦略の策定と戦略実行に携わる。各部署にはデータ活用文化を広める「アンバサダー」を1人ずつ配置する。データ分析部署は各事業部と連携して、必要とされる開発や実装を担当することが求められる。「専門的にデータ分析に携わる従業員を配置することに加え、全社的なデータリテラシーの向上が必須であることは言うまでもない」(永田氏)
永田氏は例として三井住友海上火災保険を挙げた。データビズラボは三井住友海上火災保険の研修や社内コミュニティーの立ち上げ、教育プログラム、個別相談対応、スキル習得の環境作りを支援し、データ活用文化を普及させた。
社内のデータリテラシーを向上させるための研修を実施した事例として挙げたのが、古野電気だ。データビズラボは、海外にも進出している大手船舶機器メーカーである古野電気から「役員、管理職向けに工場全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の在り方について啓発するワークショップを開催したい」という依頼を受け、研修設計やコンテンツ設計を含めてサポートした。
ここまでの永田氏の話を踏まえて、データ活用プロジェクト成功のコツをまとめると次のようになる。
この中で永田氏が特に重視するのが「センターピンとなる人材として、データを理解して適切な方向にプロジェクトを導ける人を据えること」「データ分析への意欲を従業員に持ってもらうこと」の2点だ。「データを取り扱う文化を作り出せるように、研修やサポートなどの仕組みや仕掛けが必要だ」(永田氏)
5と6については「プロジェクトマネジャーがデータ活用プロジェクトは旧来の情シスのプロジェクトとは全く異質なものであることを理解し、アジャイル発想で推進できなければならない。何らかの変化、方向性の変更が必要となったらすぐに方向性を変えていくことも重要だ」と補足した。
講演冒頭で永田氏は、これからデータ活用に取り組むケースばかりでなく、「既にデータ活用を独自に推進してきた企業が外部専門家による助言がDX推進に拍車を掛けるケースがある」と指摘した。
こうした企業の例として挙げたのがAGCだ。同社はデータ活用を独自のやり方で進めていたが、活用領域が広がるにつれて自らが気付かない「ホワイトスペース」の存在を危惧するようになったという。
AGCはデータビズラボの支援に対して「今後の標準BI(ビジネスインテリジェンス)環境の検討に必要な知見を得られた。他社と比較したときの進捗(しんちょく)度や、優先的に改善すべきポイントも解明できた」と評価する。AGCは「それまで当社がやれることを淡々とこなしてきたが、(データビズラボからの支援を受けて)中長期的にやるべきことを再認識できた。データに関する多種多様な論点で現状を丁寧に把握、言語化し、組織における共通理解とすることはデータ活用を下支えする強いエネルギーになる」と認識しているという。
永田氏は今回の講演で「適切にデータ活用の課題やニーズを言語化し、組織的にデータに関する理解を深めていくことが、これからのデータドリブン経営に不可欠となる」という点を強調した。DXを推進するに当たっても、経営層や従業員がデータへの理解を深めるための説得や説明が重要だということだろう。
(更新について)当記事は講演者(データビズラボ)からの指摘を受けて、公開当初のタイトルと本文を一部修正、加筆しました(2023年2月7日17時更新)。
データビズラボ 永田氏の講演レポート前編はこちら
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