躍進する「ワケあって安い」スーパーとは 値上げの秋が追い風に小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)

» 2022年09月12日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 2022年に入ってから、急速に物価が上昇し続けている。7月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は102.2となり、前年同月比+2.4%と長らくデフレが続いていたこの国では久々の大きな物価上昇を記録した。

 原材料価格の上昇、エネルギー価格の高騰、円安という要因が、輸入品を中心に物価上昇を引き起こしていることはご存じの通りである。当面、この流れは収まる状況にはないようだ。中でも、物価上昇は食品、光熱費、家具・家事用品といった生活必需品への支出が高騰していることが特徴だ(図表1、2)。

図表1:消費者物価指数対前年比(生鮮を除く)、総務省発表データより筆者作成
図表2:総務省「2020年基準 消費者物価指数」2022年7月分

締まる財布のひも メーカー信仰は過去のものに

 日本経済新聞の記事(8月20日「『体感インフレ』開く温度差」)では、今般の値上げが生活必需の支出項目(食品、エネルギー)に偏っていることから、そうした支出の割合が高い低所得者層ほど値上げを「体感」している、と分析している。

 所得水準が物価に応じて上がっていくという環境でもなく、賃上げの話が挙がるのは大企業サラリーマンに限られており、中小零細企業においてはそうした話もほとんど聞かれない。その上、低所得層の財布を直撃しつつある、値上げラッシュはこれからが本番であり、これまで以上の食品値上げがこの秋以降に予定されているという。

 そうなれば、多くの人は生活防衛のため財布のひもを締めて、節約モードに入らざるを得ない。具体的な行動としては、(1)不要不急の支出の削減と、(2)支出単価の引き下げ、ということになるだろう。

 (1)では、外食、衣料品などへの支出の頻度を引き下げる。そして(2)として、量を減らすのは難しい必需支出に関しては、単価の引き下げる。その一環で、メーカーが製造するナショナルブランド(NB)から小売りチェーンのプライベートブランド(PB)へ切り替える、ということが既に起こっているようだ。

 流通大手イオンがPB「トップバリュ」において3品目を除いて価格据え置きを維持しているのは、大きく報道されたのでご存じの方も多いかもしれない。

イオン(画像は公式サイトより)

 日本ではNB信仰はかなり根強く、大手イオンといえども、そのPB「トップバリュ」の消費者の評価は高いとはいえず、これまでは十分に浸透したとはいえなかった。そんなトップバリュの売り上げが、最近は絶好調で前年比1割以上増えている。これは値上げラッシュにより、消費者の絶対的安さへのニーズがPBの見直しにつながっているからだといわれている。

 今般の値上げラッシュは生活必需支出に偏っているため、支出単価の引き下げで絶対額を抑えざるを得ないのであれば、PBを軸とした価格訴求型のチェーンが、消費者に再評価される好機になる可能性が高い。

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