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連載・特集

緑地帯 熊原康博 地歴ウォークはやめられない⑦

 福山市熊野町に水害碑があるという記述を古い郷土誌から見つけた。現在、その碑は熊野小学校にあるとわかり、渡部智子校長に案内していただいた。その水害がどういうものであったのか児童や地域の方は知らないとのことだったので、児童自身が水害を調べてまとめること、この碑を国土地理院の地図記号「自然災害伝承碑」への掲載をめざすことを提案した。校長先生に賛同していただき、6年生全員で取り組むことになった。

 授業では、碑文や当時の児童の日記を読んで、水害の概要をまとめた。水害は大正時代に発生し、小学校の上流にある溜池(ためいけ)が大雨で決壊し、学校にも土砂が流入したことがわかった。次に、地図作業を行い、どこに土砂がきたのかを色塗りをして確かめた。これらの予習の後、小学校から溜池まで地図を持って歩いた。地域の方に案内していただき、干魃(かんばつ)で苦しんで用水路を整備したことを記した江戸時代の石碑も紹介した。児童は、これらの結果をまとめて福山市の防災担当の方に発表を行った。福山市から国土地理院に申請を行い、福山市で初めて地図記号「自然災害伝承碑」の掲載に至った。

 防災で一番大事なのは、“身の回りで災害が起こるかも”という“自分ごと”の意識をもつことと言われる。自身で地域の災害の歴史を調べることが、その意識をもつためには効果的である。また、溜池は災害の原因となった一方で、干魃という災害を克服するためにつくったものでもある。地域の歴史を知ることで、防災意識を高めると同時に、多面的な地域理解ができるようになると考えている。 (広島大大学院准教授=広島市)

(2022年8月3日朝刊掲載)

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