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連載・特集

緑地帯 熊原康博 地歴ウォークはやめられない①

 私の研究分野は自然地理学である。特に、活断層がつくる地形を調べていて、熊本地震をもたらした活断層(布田川断層)や、ヒマラヤ山脈を隆起させるネパール・ブータンの活断層を対象に、活断層がどこにあって、いつ、どのぐらいの規模の大地震をもたらしてきたのかという、活断層の活動史について明らかにしてきた。この研究は、中田高先生(現広島大学名誉教授)の導きによるもので、80歳を過ぎた先生は今もフィールドに行き、活断層研究に対する熱意は昔と全く変わらない。

 一方、私は広島大学教育学部社会系コースの教員であり、そこで学ぶ学生は、卒業後は中学校や高校の社会科教員になる者がほとんどであり、人の営みやその歴史への興味はあっても、自然の営みやその歴史への興味は薄い。ならば、地形と人の営みとの関係を調べる研究であれば、学生も少しは地形にも興味を持ってもらえると考え、活断層とは全く異なる研究も並行しておこなってきた。その研究の進め方を一言で表すなら、「地歴ウォーク」である。この造語は、「フィールドを歩いて地域の地理・歴史を調べる」という意味である。

 このコラムでは、地歴ウォーク的な見方・考え方を紹介し、読者の方に日々の生活の中で意識してもらえたらと思っている。ただし、この内容は、活断層研究一筋の中田先生からは間違いなく小言を頂くものであり、このコラムの存在を先生が知ることのないように願うばかりである。(くまはら・やすひろ 広島大大学院准教授=広島市)

(2022年7月27日朝刊掲載)

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