セールスフォースのマーク・ベニオフ共同CEO。
Kimberly White/Getty Images for Fortune
2022年6月8日、セールスフォース(Salesforce)は、非代替性トークン(NFT)の作成・管理を支援する法人顧客向け製品「NFTクラウド」の最初のバージョンをリリースしたと発表した。
NFTクラウドは、仮想通貨関連技術のいわゆるWeb3市場への同社初参入となる製品で、同社の「Commerce Cloud」スイートの一部である。発表時点では、NFTクラウドは非公開パイロット版でのみ利用可能で、選ばれた顧客が試用しているところだ。
「現実世界でもデジタル世界でも、つながり合ってパーソナライズされた体験を可能にするために顧客を支援するのが我々の目的です」と、エマージング・テクノロジー担当シニア・バイスプレジデントのアダム・カプラン(Adam Caplan)は記者会見で述べた。「つまりNFTクラウドは、顧客がNFTの発行・管理・販売を行うのを支援するサービスです」
カプランによれば、この新製品はもともと、Web3に取り組みたいので何か手伝って欲しいと顧客に依頼されたことがきっかけとなって生まれたという。
2022年2月、CNBCがセールスフォースのNFTクラウド開発計画を最初に報じた。この報道を受け、トムソン・ロイター・ファンデーション・ニュース(Thomson Reuters Foundation News)が報じたところでは、400人を超すセールスフォースの従業員が、NFTが環境や経済に与える影響を理由に、共同CEOであるマーク・ベニオフとブレット・テイラー(Bret Taylor)に宛てた抗議の公開書簡に署名した。
渦中の2月にInsiderが同社広報担当者にコメントを求めたところ、「社員が意見を自由に言える文化があるのは素晴らしいことです。このことに関心がある社員の意見を聞く機会を設け、彼らのフィードバックを今後の展開に活かすつもりです」との回答だった。
NFTやそれより大きな仮想通貨の市場成長は近年眼を見張るものがあるが、テック業界でもNFTに対する意見は分かれている。
セールスフォースの従業員たちは書簡の中で、NFT製品を開発すれば、リスクの高い投資や詐欺で多くの人に貯蓄や生活費を失わせた無規制の業界を事実上支持することになると主張している。
また、NFTに伴う二酸化炭素排出は、環境への配慮を謳ったセールスフォースのメッセージと相容れないとも指摘する。そんな同社のメッセージは、俳優のマシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)を起用した今年2月のスーパーボウル中継のCMでも流れていた。同社は2022年、役員報酬を特定の持続可能性の目標に連動させるという発表もしている。
今回発表されたNFTクラウド製品は、「持続可能性を念頭に置いて開発した」とカプランは言う。これは顧客に対して、より持続可能なブロックチェーンの選択肢を提供したり、二酸化炭素排出量の計算を自動化したり、カーボンクレジットを購入することで排出量を相殺できるようにすることを指している。
NFTは市場の浮かれ騒ぎが冷めたら終わる一過性の流行だとする意見があることについてカプランは、NFT自体の価値というより、テクノロジーというものが顧客にとってのメリットになる可能性に注目しているという。また、相次ぐNFT詐欺を受け、セールスフォースはNFTクラウドにセキュリティ機能を搭載していると説明した。
顧客の間からは、NFTだけでなく、サプライチェーンでエシカルな調達ができているかを追跡するのにもブロックチェーン技術を導入したいとの要望が挙がっているという。そのためセールスフォースは現在、オンライン上で顧客の関連データを集めているとカプランは説明する。
「もちろん、我々は進みながら学習しているところです。これがどんな進化を遂げるか、見極めるにはまだ時間がかかりそうです」
(編集・大門小百合)