5月13日、KDDIは2022年3月期決算説明会を開催した。
出典:KDDI
楽天モバイルがゼロ円プランの廃止を発表した。三木谷浩史会長兼社長は5月13日の楽天モバイルの会見で「ぶっちゃけ、ゼロ円で使い続けられては困る」と本音を吐露した。
ゼロ円で使い続けるユーザーは収益を生まず、むしろ、赤字要因として楽天グループ全体の足を引っ張っていたのだろう。
同日、楽天モバイルの「ゼロ円困る」発言と対照的に、「ゼロ円を辞める理屈がない」と発言したのがオンライン専用ブランド「povo2.0(ポヴォ2.0)」を展開するKDDIの髙橋誠社長だ。
0円から使えるpovo2.0は「辞める理屈がない」
インタビューに応じる髙橋誠社長。
撮影:石川温
povo2.0は2021年9月の発表当時から、好きな機能をユーザーが自由に組み合わせる「トッピング」という仕組みを採用している。データ容量の追加などのトッピングを何も選ばなければ、少なくとも180日間は、無料で回線維持ができる。
楽天モバイルが0円プランを終了させると発表した5月13日、KDDIの髙橋誠社長は同社の決算会見で「povo2.0はゼロ円を辞める理屈がない」と0円を続けると約束した。
povo2.0のトッピング一覧。データトッピングの他には通話、サポート、コンテンツのメニューがある。
出典:KDDI
髙橋誠社長はpovo2.0を「モバイル業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ」と胸を張る。
「povo2.0はやっていてとてもおもしろい。従来の料金プランは、契約をいただいたら、次にお客様と向き合う時期は2年後だったりした。
一方で、povo 2.0は、契約いただいてからも我々からどんどんアプローチして、トッピングを使ってもらえるようにする。
我々からすると、お客様の動向をずっと見ながら、いろんな取り組みができる」(髙橋社長)
法人事業でDXを推進、金融も総合力で勝負
「DX」を推進していくKDDI。
撮影:石川温
KDDIは5月13日に中期経営計画を発表したが、このなかで肝となるのが「DX」だ。
各通信会社は、菅政権による値下げ圧力によって、通信料収入が激減している。そのような状況下でKDDIは、法人に向けたDXを推進することで二桁成長を目指す考えだ。
しかし、DXと言うと、人それぞれ「何をもってDXなのか」と定義が異なることがある。では髙橋社長の考えるDXとは何なのか。
「DXというと単純なデジタル化と考える人が多い。しかし、単なるデジタル化だけでなく、僕のDXの定義は相手のビジネスに通信が溶け込み、サステナブルなビジネスモデルを構築すること。
我々はDX推進本部をつくり、法人事業において、サステナブルなビジネスモデルをつくれるよう、お手伝いしたい」(髙橋社長)
例えば、これまでの自動車メーカーは、極端に言えば、ディーラーが車を売り、売り上げが立てばそれでおしまいだった(注:メンテナンス収入もあるが、リカーリング型のビジネスの側面は薄かった)。
しかし、これからはクルマに通信機能が載り、コネクテッドカーになることで、ユーザーとディーラーが通信でつながる。
クルマのスイッチを入れると、ディスプレイに車検やメンテナンスのお知らせがメールで届く。クルマのソフトウェアアップデートをオンラインで提供するといったことも可能になるだろう。
KDDIのDXとは、通信によって企業とその先にいるユーザーがつながり続ける世界観を構築するというわけだ。
「KDDI社内でも、これまでは一過性の売り上げが上がればいいという風潮であったが、いまではそれだけでは褒められなくなった。
毎月、毎月、売り上げが上がる(マンスリーリカーリング)契約をしてきた人が褒めてもらえるようになった。
サステナブルなビジネスモデルの構築にこだわっていきたいし、通信会社はそうした仕掛けが得意だと思っている」(髙橋社長)
KDDIは決済以外の金融分野もあわせて提供していく。
出典:KDDI「新中期経営戦略」(2022年5月13日公開)
もうひとつ、KDDIが二桁成長を狙うのが金融事業だ。NTTドコモやソフトバンクも先日行われた決算会見で金融に注力すると表明している。
髙橋社長は「他社も金融を強化すると言っているが、クレジットカードや決済に一辺倒な感じがする」と疑問を投げかける。
「うちはクレジットや決済をやっているだけでなく、住宅ローンも好調。最近では『エンベデッドファイナンス』として、金融各社をクロスユースで、auブランドとして提供していく」(髙橋社長)
エンベデッドファイナンスとは「組み込み金融」とも訳され、非金融企業が既存のサービスに金融を組み込んで提供するものを指す。
KDDIではすでにauじぶん銀行を筆頭にauカブコム証券、au損害保険、auフィナンシャルパートナー(保険代理業)、auアセットマネジメント(投資信託、確定拠出年金など)など多数の金融関連企業を保有している。
スマートフォンのユーザーに対して、アプリを通じてさまざまな金融サービスをすでに提供しているのが強みとなっている。
「5Gをがんばって、基軸にしていかないと次につながらない」
5Gで、通信事業自体の成長も狙っていく。
撮影:石川温
昨今の値下げにより、各通信会社のモバイル通信料収入が落ちている。
KDDIも2022年3月期には料金値下げによって872億円のダメージを受けた。NTTドコモやソフトバンクは当面、通信料収入が回復しないと見ているようで、新規事業の開拓に躍起となっている。
KDDIは2025年3月期には2022年3月期以上の通信料収入を見込む。さらに、できれば前倒しで通信料収入の復活を目指している。
なぜか、大手3社のなかでKDDIだけが「通信料収入が以前よりも復活する」という計画を描いているわけだ。
その理由を髙橋社長は語る。
「我々は4Gから5Gに移行するユーザーが結構いて、こういう方が機種変更のタイミングでauの上位プランを選択する可能性が残っている。
また他社とは違い、ネットフリックスやYouTubeなどと強く連携したプランを提供している。これは他社にない強みであり、海外を見ても、米国のベライゾンが同じような戦略で5Gにおいて通信料収入を上げている。
これをロールモデルにすると、まだまだ伸びていけるんじゃないか。伸ばしていかないといけないんじゃないかと思っている」(髙橋社長)
KDDIは、ネットフリックスやYouTube Premium、Apple Musicなど、サブスクサービスとのセットプランを提供している。
出典:KDDI「新中期経営戦略」(2022年5月13日公開)
KDDIでは新規事業の開拓に「逃げる」のではなく、本業である通信事業でもまだまだ成長の余地はある、と見ている。
「我々は5Gを中心にしている。端末を安くして、ユーザーに5Gを使ってもらい、通信料収入を投資に回して、5Gを世間に広めていく。
新規事業でリカバーするよりも、センターにある5Gをがんばって、収入を上げて基軸にしていかないと次につながらない」(髙橋社長)
5Gをど真ん中に据える一方、新規事業で「通信料収入と同額規模の売り上げ」を目指していく。