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【SDGs達成度ランキング】日本、2021年は165カ国中18位 データ整備にも課題

【SDGs達成度ランキング】日本、2021年は165カ国中18位 データ整備にも課題
出典:Sustainable Development Report 2021
一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事・聖心女子大学教授/大橋正明

art_00150_著者
大橋 正明(おおはし・まさあき)
専門は国際開発学。1980年、インド・デリーの国立「中央ヒンディー語学院」修了。「シャプラニール=市民による海外協力の会」のバングラデシュ駐在員・事務局長などを経て、2014年から聖心女子大学教授。2019年にSDGs市民社会ネットワーク共同代表理事に就任。 主著に『NPO・NGOの世界』『SDGsを学ぶ』『バングラデシュを知るための66章(第3版)』(いずれも共編著)など。

毎年6月、ドイツの「ベルテルスマン財団(Bertelsmann Stiftung)」と「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network、以下SDSN)」が作成する「持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report、以下SDGs報告書)」が公表されている。今年の6月14日に発表されたSDGs報告書は、国連に加盟する193カ国のSDGs進捗(しんちょく)状況を評価し、そのうちデータがそろっている165カ国のSDGs達成状況を採点し、ランク付けしている。

日本は、2020年は79.2点で166カ国中17位だったが、今年は79.8点とわずかに得点を上げたものの、順位を一つ落として165カ国中18位。過去最低だった2016年に並んだ。

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日本のSDGs達成状況は79.8点で世界18位だった(資料の出典はいずれもSustainable Development Report 2021)

1位はフィンランド、北欧が上位

ランキングの上位は欧米諸国、下位はサハラ以南アフリカ諸国で占められている。トップ3は北欧3カ国。昨年3位だったフィンランドがトップに立った。日本を追い越したのは14位のクロアチア(前年19位)と15位のポーランド(前年23位)、逆に日本より後退したのは、16位から23位になったニュージーランドである。

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“Sustainable Development Report 2021”をもとに編集部作成

SDGs報告書は、SDGsが国連総会で採択された2015年にその前身となる報告書が最初に発表されて以来、毎年作成・公表されてきた。現在のタイトルになったのは、2019年からである。

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Sustainable Development Report 2021の表紙

SDGs報告書を主に資金面から支えているのが、ベルテルスマン財団だ。世界各地で新聞、出版(米国最大手の出版社ペンギン・ランダムハウスなど)、放送、音楽ソフトなど、メディア関連の事業展開をしているベルテルスマン・グループが1977年に設立した。2020年の支出予算額は7380万ユーロ(約90億円)ほどで、ドイツ有数の財団だ。

内容を担当するSDSNは、貧困削減や気候問題などの実用的な解決策を促進することを目的に、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長(当時)が提唱して、2012年に設立された。公式には米国の公益法人だが、国連機関や多国間金融機関、民間セクター、市民社会などと緊密に連携している。ただSDGs報告書の著者は、SDSN代表で著書『貧困の終焉(しゅうえん)──2025年までに世界を変える』などで知られる米コロンビア大学の経済学者ジェフリー・サックス氏を筆頭とする数人となっている。

コロナ禍で世界的に後退

国連は2020年から2030年までを「行動の10年」として、あらゆる場所のすべての人が参加して、SDGs達成のための行動と解決策を促進させることを呼びかけている。しかし、今年のSDGs報告書は、新型コロナウイルス感染症の流行がSDGs達成の前に大きく立ちはだかっていることを世界各国の得点の平均点のグラフで示し、その要約の冒頭で以下のように語っている。

2015年にSDGsが採択されて以降初めて、(2021年の報告書に示された*筆者注)2020年の世界平均のSDGs達成点数は前年より減少した。減少した最大の原因は、パンデミックによって生じた貧困率と失業者数の悪化である。

世界的なSDGs進捗の遅れは、今年の報告書では過小評価されている。なぜなら、国際統計では不可避のタイムギャップのために、2020年の実態を示す多くの指標がまだそろっていないからだ。

このパンデミックの影響は、持続可能な開発の3側面である、経済、社会、環境のすべてに及んでいる。すべての政府の最重要課題は、非医薬品による対策と世界的なワクチンへのアクセスを通じた、パンデミックの抑制である。パンデミックが猛威を振るっている間は、持続的な成長と経済復興は望めないかもしれない。

一方、SDGsがこの事態からの復興の枠組みになることも強調しており、その復興を"Build Back Better(BBB、より良い復興)"ならぬ"Build Forward Better(より良い未来の建設)"と表現している。

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世界平均のSDGs達成点数は初めて前年を下回った

日本、五つの目標に「深刻な課題」

2021年報告書での日本のSDGs進捗に関する評価を詳しく見てみよう。17のゴールのうち、前年に引き続き「深刻な課題がある」とされているのが、「5:ジェンダー平等」「13: 気候変動」「14:海の生物多様性」「15:陸の生物多様性」「17:パートナーシップ」の五つだ。

なかでも「15:陸の生物多様性」は、今後の方向について前年までは「緩やかな改善」だったのが、今回は2段階下がり、「悪化」となった。主な理由として報告書は、生物多様性にとって重要な、保護された陸地・内陸水面の面積の減少を挙げている。ただ、日本の環境専門家によれば、最近悪化したのは生物多様性の損失を示すレッドリスト指数だけなので、正確な理由はまだ不明である。

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報告書に示された日本の評価。赤アイコンが「深刻な課題がある」もの

「5:ジェンダー平等」については、日本に対し、六つの指標が示されている。このうち「平均就学年数の男女比(男性を100とした場合の女性比率)」と「労働力率の男女比(同)」の二つは改善し、SDGs達成の軌道に乗っていると評価された。一方、「近代的な方法で家族計画ができている人の割合」は、緩やかに改善されているものの、まだ重要な課題が残されていること、「国会における女性議員の割合」と「賃金のジェンダー格差」は改善せず深刻な課題を抱えた状況であること、「無償労働時間のジェンダー格差」に至っては、2016年以降のデータがないために傾向は不明で、深刻な課題を抱えたままである、と評価されている。

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日本の「5:ジェンダー平等」に対する評価

国内のデータ整備が不十分

SDGs報告書は、各国政府が公表しているデータや統計に基づき、進捗状況を評価している。日本政府は「SDGsの達成に向けた取り組みを進めている」としているが、「5:ジェンダー平等」に見られるように、日本国内のデータの整備が十分ではないことが、ランキングが上昇しない要因の一つとなっている。

同様にこの報告書で「重要な課題がある」と評価されている「10:不平等」と「12:責任ある生産と消費」も、データがないために、「今後の傾向は不明」とされている。「10:不平等」に設定された三つの指標のうち、所得格差を示すジニ係数は2008年から、全世帯の最富裕層10%と下位層40%の所得比を示すパルマ比と老人貧困率は2015年から、それぞれ更新されていないためである。「12:責任ある生産と消費」の六つの指標については、1人あたりの電子廃棄物量のみ2019年のデータがあるだけで、残りは2010年のデータが二つ、2012年が二つ、2017年が一つであるために、「傾向は不明」と評価されている。

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日本の「12:責任ある生産と消費」に対する評価。更新されていないデータが目立つ

データは政策の進捗状況を把握し、誰一人取り残さないように政策を適宜見直すために、極めて重要な情報だ。この報告書はSDGsのさらなる推進のために、日本政府に対してSDGsに関するデータの早急な整備の必要性を説いているように見える。

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