[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

視聴者数が急増中! コネクテッドTV広告は、スマホやPCとどう使い分けるべきか?

マーケターによるリレーコラム、今回は花王の辻本光貴氏。広告媒体としてのCTVの可能性について。
花王 辻本光貴氏

花王株式会社の辻本です。今回のテーマはコネクテッドTV(以下、CTV)です。

CTVとは、インターネットにつながったテレビ端末のことです。スマートテレビやストリーミングデバイスの普及により、日本でもCTV利用者が増えています。

Googleの発表によると、2021年3月時点、CTVでYouTubeを見るユーザーは日本で2000万人以上。CTV利用者の平均視聴時間は、モバイルやPCからの視聴者よりも60%長いとのこと。このようなメディア環境の変化に伴って、広告業界ではCTV面の広告に注目が集まっています。

こうした盛り上がりを受けて、私もこれまでに複数のCTV施策を実施してきました。その成果を振り返ると、CTVの視聴単価は他デバイスと同程度のため「リーチを稼ぐ」という意味では効果的でした。ただ、CTVには、それ以外にも魅力的なポイントがあります。今回は、これまでの経験から、CTVでの広告施策のポイントを振り返ってみたいと思います。

CTVを意識したきっかけ

私は花王のあるブランドで、デバイス設定なしでYouTube広告を展開しました。メディア方針は、以下のようなものでした。

  • 商品認知を目的としたマーケティングを展開する
  • デバイスごとの完全視聴率を確認する
  • かつ、完全視聴者をなるべく多く獲得する

実施前は、「CTVはまだまだ配信ボリュームが少ないから、それほど単価は安くないだろう」と考えていました。しかし、結果はその予想を覆すものでした。完全視聴率は、

  1. PC(81.3%)
  2. CTV(80.8%)
  3. スマートフォン(76.0%)
  4. タブレット(75.8%)

の順となり、CTVは2番目に高い数値をマーク。視聴単価は0.86円で、スマートフォンの0.89円よりも、若干ですが安かったのです。

デバイスの状況や、入札環境を踏まえた運用調整の結果、最終的な配信割合は、スマートフォン55%に次いでCTVが34%でした。また、代理店からのレポートによると、施策終了後の態度変容効果のリフト効果も高い結果が出ていました。

キーワードは「リーンバック」と「リーンフォワード」

思った以上に運用効率が良く、配信ボリュームもそれなりに出たことを知った私は、今後も広告媒体としてCTVを積極的に活用できるイメージが湧きました。しかし同時に、2つの懸念も抱きました。

1つは、従来の動画広告の代表的な配信先であるスマートフォンとCTVではユーザーの視聴環境が異なるのに、同じリーチで捉えてよいのか、ということ。

もう1つは、今回は商品認知だったためデバイスを気にする必要はありませんでしたが、目的次第では配信先のデバイスを細かく考える必要がある、と感じたことです。

というのも、従来の動画広告とCTVでは、ユーザーのメディア消費のタイプがまったく違うからです。

従来の動画広告は、PC、スマートフォン、タブレットの3種類のデバイスが主な配信先ですが、これら3デバイスのメディア消費タイプはいずれも「リーンフォワード」。一方、CTVのメディア消費タイプは「リーンバック」です。

「リーンフォワード」(前傾姿勢)とは、ユーザーが自発的に情報を取りに行くメディア消費スタイル。「リーンバック」とは、”ソファに背中を預けてリラックスしている状態”を指す言葉で、そこから転じて、流れてくる情報を受動的に受け取るメディア消費スタイルをいいます。つまり、従来の動画広告とCTVでは、ユーザーの視聴環境がまったく異なるわけです。

だからこそ、「PC、スマートフォン、タブレット」と「CTV」をリーチや完全視聴率といった数字で横並びには比較できません。動画広告施策を行う際は、何も考えずに4デバイスに一挙に配信するのではなく、施策目的に合わせて配信先のデバイスを考慮すべきでしょう。

スマートフォンとCTVとの違い

話を簡単にするために、ここから先はスマートフォンとCTVという比較に単純化して、話を進めていきます。それぞれの特徴を、下記のキーワードでまとめました。

デバイスの種類視聴スタイル具体的な視聴行動
スマートフォンリーンフォワード1人で視聴
リンククリックの行動
CTVリーンバック複数人で視聴
ダブルスクリーンによる行動(検索・SNS投稿)

スマートフォンかCTVか、デバイスの特性で人々の行動と心理は変わります。

まずは行動面について。

スマホは指ですぐに操作できますが、画面は動画に占有されています。対してCTVはリモコン操作が必須で、TV画面に対する行動は不便ですが、代わりに他のデバイスを手元で触りながらTV画面を見るダブルスクリーンが可能なので、検索行動やSNS投稿がしやすいです。

つまり、動画広告から取りやすいアクションが変わります。たとえば「動画を見てリンクをクリックしてほしい」という狙いがある場合は、CTVによる動画広告はお勧めしません。

また、視聴人数もデバイスによって変わります。

スマートフォンは画面が小さいため1人で見るのが基本ですが、CTVは複数人で視聴するシチュエーションも想定できます。親子で子供向けのコンテンツを、友人同士でお笑いのコンテンツを一緒に観るというイメージです。

こうした視聴状況に寄り添った広告を流すことができれば、家族や友人同士で会話が生まれて、記憶に残りやすい施策になるかもしれません。

視聴人数が視聴モードを変える

次に心理面について説明します。

視聴人数の違いは、生活者の「視聴モード」に変化を生じさせます。視聴モードとは、「コンテンツ視聴中に、無意識に規定した自分の人格」です。

たとえば、小さなお子さんがいる女性の場合、コンテンツをお子さんと一緒に見ているタイミングでは、“ママである自分”という視聴モードになっているため、化粧品の広告よりも、子供の肌を気遣うおむつやボディミルクの広告の方が、強い関心を引く可能性が高いでしょう。

しかし、育児や家事のスキマ時間に気分転換で動画コンテンツを見るときには、“個人としての自分”という視聴モードなので、子供用品よりも、自分自身のための入浴剤や目元を温めるアイマスクの広告の方が、強く心に響く可能性があります。

このように、視聴モードは、時と場合によって切り替わります。では、どのような広告で、このデバイスの違いを考慮すべきでしょうか。

たとえば、商品認知目的のアッパーファネルを対象とする広告の場合は、「商品の存在を知ってもらうこと」が最大の目的なので、できるだけ効率よく情報を届ける必要があります。つまり、さまざまなデバイスに配信し、それぞれに最適化配信を行うのが常道です。

対して、「商品に対する理解促進」を目的としたミドルファネルを対象とする広告の場合は、伝えるべき相手に確実に情報を届けて記憶に残すことが重要であるため、視聴モードや行動特性を考慮したデバイス選択が求められます。

CTVの配信ボリュームは、業界や商材によっては必要とするリーチに足りないことも多いため、CTV単体に絞るケースはまだあまりないと思いますが、ただ、今後は有力な選択肢の1つとなっていくことは間違いありません。

メディア活用する人間をイメージしているか

有効なリーチは、広告運用レポートの数字だけでは判断できません。有効なリーチとは、広告が当たったか否かという話ではなく、施策担当者の狙い通りのリーチであったかどうか、という意味です。

とりあえず、PC、スマートフォン、タブレット、CTVの4つのデバイスで最適配信した場合、CTVで広告を当てた方が態度変容人数を多く獲得できたにもかかわらず、広告指標観点で効率の良いスマートフォン面に配信が寄ってしまい、期待した成果が出せないこともあるかもしれません(ただし、態度変容の確率は低くても、圧倒的な配信量で態度変容人数をカバーする場合もあるので、一概に言えませんが)。

まだCTV広告は、各社で効果検証を進めている最中です。そのため、現段階では、業界や商材によってCTVへの評価は大きく異なるでしょう。

しかし、「新しい配信面を生活者がどのように活用しているか。そして、その活用シーンに自分たちの商材が、どのように関わる可能性があるか」という形でCTVの可能性を考慮する企業は非常に多いと思います。

CTVに限らず、マーケターは、つねに新しい配信面の可能性を検討しなくてはなりません。もし、可能性をイメージしにくいならば、自分自身だけでなく、家族、友人、知人など、周囲の人間のメディア活用状況を観察/整理してみるといいかもしれません。私も周囲の活用状況をヒアリングしながら、今しばらく、CTVに関する情報には、特に注目していきたいと思っています。

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