浅井健一、変わらないまま進化し続けてきた歩み 「THE INTERCHANGE KILLS」のライブで発揮された二面性

浅井健一、ライブで発揮された二面性

「全然、Mellowじゃないけどね」

 2021年10月17日、ビルボードライブ東京で行われた浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSによる『ACOUSTIC & ELECTRIC「MELLOW PARTY」』、その2ndセットの後半。白熱するステージの上でベンジーこと浅井健一がポロリと言ったひとことである。「危険すぎる」のパフォーマンス直後で、その場面は今回2月2日にリリースされたライブアルバム『Mellow Party -LIVE in TOKYO-』にも収録されている。僕は3カ月前に目の前で聞いたこの言葉に笑ったことを思い出し、また微笑んでしまった。

 そして、もっと以前の記憶をたどった。というのは、この言葉にどことなく既視感を覚えていたからで……それはBLANKEY JET CITYの頃のことだった。時はもう25年も前で、場所は渋谷公会堂(現在のLINE CUBE SHIBUYA)。あの時のベンジーたちは主戦場にしていたライブハウスでなく、あえて椅子席のホール会場で、アンプラグドによって静かに聴かせるコンサートをやろうとしていた。当時のBLANKEYは音楽的な変遷を経て、繊細なバラードやメロディアスな曲もレパートリーに備えていたのだ。だからこちらも椅子に座って穏やかに曲を聴くつもりで臨んだのだが、そうした曲がひと通り終わると、後半からは一転して爆音が鳴り響き、アッパーなロックンロールがブチかまされる、まさにBLANKEYなライブに変貌したのだ。のちにBLANKEYの6thアルバム『LOVE FLASH FEVER』の取材をした際、ベンジーたちは「アンプラグドと言っといて、いつも通りにデカい音でやったもんな」と大笑いしていた。

 だから先ほどの「全然、Mellowじゃないけどね」というMCには「ベンジー、そういうところは変わってないな」と思わされたわけである。もっともそんな僕の回想には、このライブ盤『Mellow Party -LIVE in TOKYO-』に収められているのが、そのBLANKEYをはじめとした各年代の楽曲であることもちょっと関係しているはずだ。

浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS LIVE ALBUM 「Mellow Party -LIVE in TOKYO-」 Trailer

 ここでの演奏は近年の活動の軸となっているバンド、浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS(以下、KILLSと表記)で、そのメンバーは、ギター&ボーカルはもちろんベンジー、ドラムおよびアコースティックギターが小林瞳、ベースはTHE NOVEMBERSの高松浩史だ。2代目ベーシストの高松の加入は2021年春だが、最初のセッションの時からベンジーに「すっげえいい。驚き」「高松くんのベース、最高」と認められていたほど(※1)。4月に東名阪で行われたアルバム『Caramel Guerrilla』のツアーで、高松は早くもこのバンドのサウンドに馴染んだプレイを聴かせてくれていた。

 KILLSはこの後の8月に3日間、東京でアコースティックセットでのライブを行った。さらに翌9月には『Mellow Party』と題したツアーを横浜からスタートさせて全国を回り、ビルボードライブ東京公演はその楽日で、それだけの時間を過ごしてきただけに3人の息がピッタリ合っていたのを記憶している。なお去年、このバンド以外のベンジーの動きとしては、UAとのバンド AJICOが20年ぶりの新作となるEP『接続』をリリースし、全国ツアーおよびライブを行ったことを書き加えておこう。

 さて、今回のライブアルバムは、ベンジーの現在地を示しながら、彼が歩んできた道のりを確かめられる作品になっている。ツアーのタイトルの中に「ACOUSTIC & ELECTRIC」とあったように、アンプラグド編成とロックバンド編成の2つの形態が共存しているのも特徴だ。

 選曲としては、まずBLANKEY時代からは3曲が選ばれている。オープニングを飾る「ヘッドライトのわくのとれかたがいかしてる車」は鈍色のグルーヴがクールだし、ドラムレスの「小さな恋のメロディ」はポップなフォークソングのような味わい。同じく弦楽器のみの「ICE CANDY」はまっすぐ突っ走るような感覚が最高だ。また、「ゴースト」はSHERBET(SHERBETSの前身)、「透明の戦場」はJUDEの楽曲。ベンジーのソロとしてリリースされた「危険すぎる」や「ハラピニオ」のほかは比較的新しい曲が並んでいる。2019年のアルバム『BLOOD SHIFT』、去年の『Caramel Guerrilla』も浅井健一名義だが、近年の傾向としてはその中にKILLSで制作した曲も多く含んでおり、各アルバムのツアーもこのバンドで行っているので、ここで演奏されるのも自然な流れである。

 そんな中でもひっそりと、しかし美しく存在しているのがSHALLOW WELLの曲「Spinning Margaret」だ。SHALLOW WELLはベンジーが自身の内面に湧き上がったイメージをインストゥルメンタルで表現するユニットで、どこか映画音楽に通じるような音楽世界を持っている。これまで2枚のアルバムがあり、「Spinning Margaret」は2020年発表の同名作からの曲で、このライブでは小林瞳のボーカルをフィーチャーしたテイクを披露。彼女は卓越したドラミングもさることながら、透明感のある歌声と長い海外生活による英語のネイティブ発音を持ち合わせており、それが存分に発揮された1曲になっている。

SHALLOW WELL / Spinning Margaret (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

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