2022年4月、つくば市(茨城県)と大阪市(大阪府)の2地区がスーパーシティ特区として正式に決定した。両地区が創り出すスーパーシティとは、どのような“未来都市”なのか。つくば市の概要を解説する記事の後編では、「移動・物流」「行政」「医療・健康」「防災・インフラ・防犯」の4つの分野で、市が進める先端技術を駆使したサービスと規制改革の内容を解説する。(前編はこちら

 「大阪市さんの取り組みでは、空飛ぶクルマが動いていたり、梅田周辺に新たな施設ができるなどして、イメージをつかみやすいですよね。これに比べて、つくば市はおそらく見ても分からないものばかりです。自動運転するAIオンデマンドタクシーと言っても、見た目はタクシーが走っているだけですから(笑)。インターネット投票だって、スマホを触っているだけですからね」

 つくば市のスーパーシティ構想で実現しようとしているサービスについてこう語るのは、つくば市政策イノベーション部スマートシティ戦略課の中山秀之課長だ。

 コラム後編では、“分かりにくい”けれど実現すれば大きなインパクトがもたらされるであろう4分野、「移動・物流」「行政」「医療・健康」「防災・インフラ・防犯」の構想についてそれぞれ見ていこう。

【移動・物流分野】パーソナル&オンデマンド、「こどもMaaS」も

 移動分野では、主に自動走行パーソナルモビリティのシェアサービスの普及と、AIを活用した公共交通の最適化を行うほか、公共交通の運転手不足や、高齢化による交通弱者の増加といった課題の解決につなげる。

移動分野で取り組む先端的サービスの概要(資料:つくば市)
移動分野で取り組む先端的サービスの概要(資料:つくば市)
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 中山課長は、市が抱えている課題の一つとして「都市と郊外の二極化」を挙げる。つくば市では人口集積において二極化している。「つくばエクスプレスの沿線では、店舗や病院などいろいろな都市機能が集積し、若い世代も居住しています。その一方で、沿線ではない旧市街地には、どんどん過疎化が進んでいるところがあり、自家用車がないと買い物や病院に行くのも不便な状況があります。こうしたエリアでパーソナルモビリティやオンデマンドバスサービスなどを導入していきます」(中山課長)。

 パーソナルモビリティの導入では、規制改革として「パーソナルモビリティの最高速度制限の緩和」を求める。現行では、歩道通行の場合の最高速度は時速6kmが上限となっており、人の平均的な歩行速度の時速4kmよりやや速い程度。時速10kmに引き上げられれば、移動手段として自動車や自転車に並ぶ選択肢となることが期待できる。また、建物内の3Dマップ化によって、モビリティの自己位置測定の精度を高め、屋内外でのシームレスな移動や配送を可能にする。

 「こどもMaaS」というサービスも展開する。「つくば駅周辺にある、全長48kmのペデストリアンデッキを自動走行するようなモビリティを導入するものです。お子さんを連れた方々に利用してもらうだけでなく、アミューズメントのような感覚で乗ってみたい人が集まれば、賑わい創出にもつながります」(中山課長)。

 つくば市ではセグウェイの導入や、自律走行ロボットの全国コンテストを毎年開催するなど、歩行空間で動くロボットに関して、様々な取り組みを実践してきた。「移動分野のサービスについては、市民の理解はかなり進んでおり、関心も高いですね。検討しているサービスは技術的にはどれも実現可能です。無人自動走行も決められたルートであれば可能だと思います。持続可能なかたちでサービスを提供できるかが一番のポイントになるでしょう」(中山課長)。

物流分野で取り組む先端的サービスの概要(資料:つくば市)
物流分野で取り組む先端的サービスの概要(資料:つくば市)
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 物流分野では、グリーンフィールドのエリア内で荷物搬送ロボットやドローンがスーパーマーケットから住宅まで商品を配送したり、つくば駅周辺の飲食店から住宅まで365日24時間デリバリー対応したりするなど、住民の買い物の利便性を高めるサービスを実装する。また、市の中心部から離れたエリアでは、移動型スーパーについて、住民がスマートフォンなどで到着時間を把握できる「位置情報の見える化」に取り組む。遠隔医療を受診した住民のために、処方薬の配送なども実現する計画だ。