2022年4月、つくば市(茨城県)と大阪市(大阪府)の2地区がスーパーシティ特区として正式に決定した。両地区が創り出すスーパーシティとは、どのような“未来都市”なのか。今回はつくば市が目指す未来の姿を探る。前編として市が進める構想の概要と規制改革の中身、これからの都市の構築方法として注目される「デジタルツイン」「オープンハブ」の2つの分野の取り組みを解説する。(後編はこちら)
茨城県南西部に位置するつくば市は、筑波山の麓に広がる自然豊かな環境に、国立筑波大学を中心として数多くの研究機関や教育機関、国際会議場などが集まる研究学園都市。市民25万人のうち約1万人が140カ国から来た外国人という国際色豊かなまちだ。立地特性を生かして、市内では10年以上前から先端技術によるモビリティやロボットなどリビングラボとしての実績を積み重ねてきた。
スーパーシティの選定にあたって開かれた第3回専門調査会には、五十嵐立青つくば市長も参加し、リビングラボでの「成果や未解決の課題を総結集させたもの」がスーパーシティ構想であると説明。市は今後、高齢化やインフラの老朽化、まちの賑わいの低下、中心市街地と周辺地域のギャップなどの地域課題の解決に向けて、デジタルやロボティクスなど最先端の科学技術の社会実装と都市機能の最適化を進め、住民参加による革新的な暮らしやすさを実現したスーパーシティを目指す。
つくば市のスーパーシティは、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスのつくば駅前に生まれた国家公務員宿舎跡地(70街区)をグリーンフィールド(新たな都市開発が可能な土地)、筑波大学キャンパス内をブラウンフィールド(既存の都市開発された土地)として有効利用する。2つのフィールドでの実証実験、実装、成果・課題のフィードバックを循環させながら先進的な取り組みを高度化させ、最終的に地域全体へと広げる計画だ。
70街区の詳細はまだ決まっていないが、この街区で最先端の技術やサービスを実証する想定になっている。つくば市政策イノベーション部スマートシティ戦略課の中山秀之課長は「落札者には、スーパーシティのグリーンフィールドとして活用されることを前提に購入していただきたいですし、例えば住宅開発が伴う場合には、グリーンフィールドの実験に参加してもいい方々に住んでもらいたいと思っています」と語る。
構想では、「移動・物流」「行政」「医療・健康」「防災・インフラ・防犯」「デジタルツイン」「オープンハブ」の6つの分野での先端的サービスを実装する予定で、サービス実装に必要な規制改革も関係省庁との合意に向けて協議が進んでいる。前編の今回は、まずはこれからの都市の構築手法として注目される「デジタルツイン」と「オープンハブ」とはどのようなものなのかを見ていこう。
分野 | 先端的サービス | 主な規制改革 |
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移動・物流 | ●移動サービス(つくばモビリティ) ・パーソナルモビリティ・ロボットの本格導入 ・通院等の公共交通サービス ・人とロボットが共存する未来型の空間(シェアードスペース) ・郊外部の移動手段の確保 ●物流サービス(つくばポーター) ・ロボット・ドローンによる荷物の自動配送 ・移動スーパーによる買い物難民解決 |
・搭乗型・荷物搬送ロボットの公道自動走行 ・人とロボットが共存する空間の創出 ・ロボットの歩道通行に係る道路交通法の特例(*1) |
行政 |
●行政サービス(つくばトラスト) ・インターネット投票 ・外国人向け多言語ポータルアプリ ・行政手続DX ・行政ビッグデータの活用・オープンデータ化推進 ・データ活用について住民のプライバシーへの影響評価(PIA) |
・公職選挙におけるインターネット投票の実施(*2) |
医療・健康 |
●医療・健康サービス(つくばヘルスケア) ・マイナンバーなどを活用したデータ連携による健康・医療サービス ・救急医療体制の充実 ・医薬・介護・服薬の連携 ・個人への健康関連データの還元 |
・マイナンバーを活用した健康関連データの情報連携 ・転院搬送に係る救急隊編成の見直し ・マイナンバー利用範囲等の拡大(健康関連データ(診療履歴、生活ログ等)との連携)(*2) |
防災・インフラ・防犯 |
●防災・インフラ・防犯サービス(つくばレジリエンス) ・災害時要支援者の迅速な避難誘導と医療連携 ・効率的なインフラ・マネジメント ・地域防犯情報ネットワーク |
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デジタル ツイン |
●3Dデジタル空間とリアル空間との融合(つくばデジタルツイン) ・先駆的な3Dデジタル基盤の構築とサービス提供 ・地図・地理データ、BIMデータ等の収集、活用 |
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オープン ハブ |
●科学技術・イノベーション支援(つくばオープンハブ) ・外国人創業活動支援 ・イノベーション推進のための国立大学法人の土地建物の貸付 ・補助金等交付財産の目的外使用 ・調達手続きの簡素化 |
・イノベーション・研究開発促進のための国有財産の活用、物品等の手続きの緩和 ・外国人起業家の創業活動期間の延長 ・外国人研究者の資格外活動許可の撤廃 ・補助金等交付財産の目的外使用手続の特例(*1) ・外国人起業家の在留資格の特例(特定活動の在留期間の延長)(*1) ・研究開発整備に係る国立大学の土地等の貸付の特例(*1) ・国立大学法人、国の研究機関の調達についてWTO政府調達協定の対象機関から除外等(*2) |
*1:規制改革の提案内容の方向性について規制所管省庁と合意(予定含む)(2022年2月時点)、*2:規制改革の提案内容について特区ワーキンググループで協議中(2022年2月時点) |