働く人をひきつける組織をつくり、組織と個人の成長をシンクロさせていくにはどうしたらよいか。Human Capital Onlineでは採用、育成、配置、コミュニケーション改革などをテーマにした新しいHRソリューションにそのヒントがあると考え、連載「HRスタートアップが変える日本の経営と組織」の取材を進めてきた(バックナンバーはこちら)。
 この連載では、HRスタートアップの世界観に共感する「目利き」の人が、編集部が取材するHRスタートアップ企業を紹介。そして編集部が執筆した記事に対し、別の「目利き」の人にコメント寄稿してもらう形を取っている。こうしたプロセスによって、企業の枠を超えた有機的な人的ネットワークをつくりたいと考えた。
 そして連載に関わっていただいた皆さんで「2023年、人事の大問題」を語りあう座談会を企画、総勢13人もの方に参加いただいた。この座談会の模様をお届けする。1番目のアジェンダは「人的資本経営をどう捉え、その中で重要テーマと考えるポイントとは何か」。2023年に取り組むべき人事の課題を聞いていく。(司会・構成=原田かおり、撮影=元家健吾)


※2回目はこちら
座談会にご参加いただいた皆さん(連載記事掲載順)
Beatrust 原 邦雄 氏
日本人材マネジメント協会 土橋 隼人 氏
シンギュレイト 鹿内 学 氏
エクサウィザーズ 石原 直子 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング 高浪 司 氏
サイダス 中村 亮一 氏
HERP 庄田 一郎 氏
パナソニックオペレーショナルエクセレンス 坂本 崇 氏
Bloom 平原 俊幸 氏
THE COACH 松浦 瞳 氏
THE COACH 吉村 創一朗 氏
ジャフコグループ 坪井 一樹 氏
Funleash 志水 静香 氏

2023年に人的資本経営で最も重視されるテーマとは?

本日はこんなに大勢、集まっていただいて、本当にありがとうございます。いよいよ、人的資本経営の取り組みが本格的になりつつあると思っています。2022年は政府から人材版伊藤レポート2.0が発刊され、人的資本可視化指針も策定されました。そして2023年3月以降の有報で、大手企業4000社を対象に人的資本関連情報の開示が義務付けられます。こうした流れを念頭に、皆さんが2023年の人事と経営についてどのように考えておられるかを存分にお話しいただきたいと思っています。座談会のアジェンダは3つです。

Q1:2023年、人的資本経営で最も重視されるテーマは何か?
Q2:2023年、人事部門はどのように変わっていくか?
Q3:2023年、HRテック業界では何が起こるか?

 まずQ1の人的資本経営をどう捉えるか、2023年の人的資本経営で最も重視されるテーマは何かについてお伺いしたいと思います。では、石原さんいかがでしょうか。

エクサウィザーズ 石原直子氏:ありがとうございます。エクサウィザーズはHRテックの分野で様々なサービスを提供していますが、私は、人事や人材マネジメント、労働政策の領域を研究する立場で、企業と関わってきました。今年になって、人的資本経営が人々の口の端に上るようになってきて、やらなくてはならないことが増えてきた感じもしますが、大事なのは情報を開示することではないと思っております。人的資本経営自体は2000年のころから大事だといわれていたことと中身は変わっていない。人的資本経営とは何かといったら、ビジネスの成長戦略でのストーリーを描くときに、社内の人材がどうなるとそれが実現できるかを明解にすることだとずっと言われていると思うんです。

 なので、人的資本経営で最も重視されるテーマというと、ビジネス戦略や経営戦略と人材戦略をどれぐらい近接させられるのかだと思います。我が社の戦略はこうです、それで勝つために人々にこうなってもらいます、そのために何々をしますというストーリーをきちんと描ける会社になれるかが最初に問われてくるかなと思っています。…というところからスタートではいかがでしょう。

石原 直子 氏
石原 直子 氏
エクサウィザーズ はたらくAI&DX研究所 所長

最初にご発言いただいてありがとうございます。では、あらためて人事を担当されている方に伺いたいのですが、坂本さんいかがでしょうか。

パナソニック オペレーショナルエクセレンス 坂本崇氏:皆さん、初めまして。当社は2022年4月からホールディングス化しました。各事業会社が持っている事業をどう伸ばしていくかが強く求められているところです。私は、新卒採用やキャリア自律支援を担う部門の企画を担当しているのですが、新卒採用の領域でいうと「事業会社ごとの処遇の変化」が生じつつあります。学生からすると処遇というのは会社を選ぶ上で大事なポイントであると思いますが、ホールディングス化により事業会社によって処遇の差が出てくることが想定されており、採用ブランディングの観点で注視すべきトピックとなっています。以前は「パナソニック」として採用活動を行っていましたが、これからは事業会社ごとに採用を強化しなければなりません。一方で、キャリア自律支援も行なっており「採用して終わりにしない」という考え方のもと、様々な取り組みを進めています。

坂本 崇 氏
坂本 崇 氏
パナソニック オペレーショナルエクセレンス 人事部門 リクルート&キャリアクリエイトセンター 事業会社コンサルティング部 部長

 最近、キャリア観の変化もあって若年層の離職率がここ数年で徐々に上がってきており、動向を注視しているところです。当社の国内従業員数は約6万人で、新卒はここ数年1000人弱を採用しています。入社と退職はよくバケツの水に例えられるのですが、バケツに水を注ぐように社員を採用しても、バケツの底には穴が開いていて想定以上に社員が辞めていくという状況になっていないかを点検しなければなりません。大手企業だからたくさん入社してもらえて、長期にわたって退職しないという定説はもう通用しません。

 今後、人事部門で主題となってくる人的資本経営の観点で議論していることが2つあります。1つ目は、どこにどういった属性・スキルを持った人がどれだけいるかを正確に把握する必要があるということです。2つ目は、人のモチベーションやエンゲージメントをどう測るかということです。データで可視化するだけで安心してしまうのはNGです。例えば、アンケートを取って「現状に満足している」と回答している人たちが退職しているとなったらギャップがあるわけです。データだけですべてが見えるようになるわけではありませんが、属性情報だけではなく様々なアプローチで人の心の状態の見える化にも取り組んでいきたいと考えています。