山田 英司/日本総合研究所 理事

世界の企業が、取締役会にサステナビリティを取り込んでいる。新型コロナウイルスの影響を受け、この動きは加速する。

 新型コロナウイルス感染症が全世界を襲い、社会・経済活動に大きな影響をもたらした。この先、企業にとって厳しい経済環境が待ち受けていることは間違いない。今後は当然、コロナの影響を見据えた対応が必要になるが、ワクチンや治療法の確立にも一定の時間を要すると予想される。企業では、中長期目線で業績をどのように回復させるかという視点から、経営戦略を検討・実行する必要がある。

 そこで、コロナ後のコーポレートガバナンス、特に取締役会の在り方について、海外の状況も踏まえながら考えてみたい。

 コロナショックでは、企業の存在意義や社会の持続可能性(サステナビリティ)が問われた。今後、取締役会は、よりサステナビリティを意識した監督が求められるだろう。

 コロナの蔓延のような未曽有の事態において、経営陣を監督する取締役会の重要性はさらに高まる。そこで、取締役会が監督機能を持続的に発揮できるかという、取締役会そのもののサステナビリティの確保も重要な課題になる。

 日本企業のガバナンス改革は急速に進展しており、この流れは続くだろう。その中で、サステナビリティが重要な位置付けを占めることに疑いの余地はない。サステナビリティを意識した経営が求められ、それを監督する取締役会が持続的にその役割を果たすという、二重の意味をこめた「サステナブル・ボード」の確立が、今後の日本企業に求められる。

■ コロナ後の取締役会に求められるもの
■ コロナ後の取締役会に求められるもの
環境や社会を重視したサステナビリティ経営がより求められる。同時に、取締役会そのものの持続性が問われる

米英では3割で専門委員会

 サステナビリティを意識した取締役会の運営で一歩進んでいるのが、米国と英国だ。コロナ前から、取締役会の監督対象にサステナビリティの要素を取り入れ始めている。そこで、米国と英国企業の最新動向を見てみよう。

 米国や英国では、取締役会でサステナビリティを議題にする動きが進んでいる。サステナビリティの内容は多岐にわたり、専門性も要求されるため、取締役会だけで十分に監督することが困難であるのも事実だ。このため、監査、指名、報酬などの委員会と並列に、サステナビリティについて議論する委員会を設置して、専門的かつ時間をかけて議論する動きが出始めている。

 米国S&P100や英国FTSE100の企業においては、3割以上がサステナビリティ関連の委員会(サステナビリティ委員会)を設置している。サステナビリティ委員会は、取締役会の監督機能を補完する組織であるため、委員長は独立社外取締役が務め、メンバーも社外取締役が中心である。

 下の図は、サステナビリティ委員会に相当する「企業責任委員会」を2000年代から設置している英国の製薬大手グラクソ・スミスクラインの取締役会の構成である。企業責任委員会の委員は全て独立社外取締役で、取締役会とは別に委員会を年間4~5回開催している。その際、執行側の関係者を招集し、必要に応じて社外の専門家を招聘する。さらに、議論の質、構成員の専門性、パフォーマンスも評価している。こうして、サステナビリティに対する監督の質を高めている。

■ サステナビリティに関する委員会を設置している英グラクソ・スミスクライン
■ サステナビリティに関する委員会を設置している英グラクソ・スミスクライン
出所:英グラクソ・スミスクライン「Annual Report 2019」を基に日本総合研究所作成/写真:ロイター/アフロ
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