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「デジタルマーケティング」は一部の人たちによって担当されるけれども、「マーケティング」は全社員が理解しておくべきものだと思ったときに困るのが”教育”〜コラム

 大手企業の大きな改革、しかもマーケティング寄りの改革に関わると、マーケティングに関する教育の壁にぶつかる。

 今、いわゆるオンラインでのマーケティング領域でのラーニングといえば GrowthXの名前がもっともメジャーだろう。たまたま既知でもあったので、塚下本社長から直接話しを聞かせてもらう機会をしばらく前に得ることができた。そして、GrowthXはGrowthXで素晴らしいサービスなのは間違いないことがわかった。おそらく、大企業でもデジタルマーケティングの部署やスタートアップのマーケティングには非常にフィットするサービスだし、習熟の管理などができるのも非常に優良な仕組みだと思う。だから多くの企業に受け入れられているのだろう。

 しかし一方で、話を聞くきっかけとなった某大手企業における課題にはフィットしないこともわかり、そこから、「デジタルマーケティング」と「マーケティング」のギャップを改めて理解することになった。

 残念ながら、大きな企業で多くの社員に「マーケティング思考」を身につけさせるには同社サービスは現時点ではフィットしないと感じた(塚下本社長自身は、今度それらにフィットするサービスを展開したいと考えているので楽しみにしている)。

 私が思ったのは、「GrowthXみたいなマーケティング教育サービスの、デジタルからスタートせず、デジタル比率があそこまで高くなく、マーケティングの基本を身につけさせることができるサービスがないものか・・・(困った)」ということである。

 これはGrowthXに限らない、今どきのいわゆる“実践的な”マーケティング講座の多くが孕んでいる課題なのではないか?と思い、このようにnoteに書いておくことにした。なので GrowthXをこき下ろすとかそういう話ではない。上述しているように同サービスは同サービスで素晴らしい。しかし私が今抱えている件においてはフィットしなかった。そしてフィットしなかった原因がどこにあったのか?ということについて、その根本原因として考えたことを以下に記述している。

 この課題とは、多くの”実践的”な「マーケティング講座」の多くが、結局はデジタルマーケティングの企画や運用に寄っていて、またプロモーショナルな部分で、“現場”でツールをいじってる人、これからいじる人たちのためのものになっていることにあるように思う。

 企業の中にマーケティング思考を身につけさせようとすると、デジタルの要素はもちろん今どきは必要なのではあるが、例えばセグメンテーションはどこから考えるのか?価格戦略の考え方は?ディシジョンクライテリアのフレームワークは?といった「マーケティングの基礎」が必要で、それらの理解を普及させたほうが、多くの社員のマーケティング思考が身につきやすい。

 結局「デジタルマーケティング」なんてものは、日々それらに携わってるのは一部の担当の人々なのであって、そこで必要なスキルは他の部署の人たちには必要のないスキルだったりする。しかし「マーケティング」に関しては多くの人々、できれば全社員が身につけるべきマインドやスキルである。昨今のように、顧客中心思考だとか、サービス化という話がでてくると、ますます全社的なスキルにマーケティングはなってきているように確信している。しかし、”教育”面では「デジタル」によったものが多く、ここにギャップが存在しているように思うのだ。

 この背景には”デジタルに関するマーケティング”というものについて、きちんと整理されて理解されていない、という状況もあるように思う。”デジタルに関するマーケティング”は、実は次の2つに分かれる。

久保田(2020)を『デジタル時代のマーケティングとサービス・ドミナント・ロジック』(高広,2022)にて整理した表
  1. 「デジタルマーケティング」

  2. 「デジタル社会のマーケティング」

 1.は、デジタル技術を用いて行うマーケティングを指し、つまり多くの人がイメージしやすく、それらを使いこなす「スキル」が必要になってくるものだ。だから「デジタルマーケティング」の教育・講座というのは、それらのツールやプラットフォームの理解と使い方がメインになってくる。

 一方で、2.は、デジタル技術が普及した社会におけるマーケティングというものを指す。それゆえにデジタルのツールやプラットフォームを使うか使わないかに関わらず、人々や企業がデジタル技術の普及の恩恵を受けている”社会”において、マーケティングの戦略や戦術がどのように変わるのか?という話になる。なので、こちらは「デジタルマーケティング」のように、限られた担当者だけが理解をしておけばよいというものではなく、より広く、できれば全社員が理解しておくべき「マインドセット」「メンタルモデル」に近い。

『デジタル時代のマーケティングとサービス・ドミナント・ロジック』(高広,2022)より。

 こうした整理をすると、「デジタルマーケティング」はデジタルマーケティング担当者のスキルとして必要なものとなり、「デジタル社会(時代)のマーケティング」というのは多くの社員が理解しておくべきものということがわかってくる。

 それゆえ後者についての教育は、基本的には(時代によって変化したものではあるが)「マーケティング」と同義であるために、デジタルに特化したものではなく、基本的なマーケティング教育の仕組みがベースになっている必要がある。

 例えば、ニーズやセグメンテーションの捉え方は基本的な考えがありつつ、しかしデジタル社会においてそれをどう捉え直すか、価格戦略や流通戦略はデジタル社会においてどのように考え実行すべきか、といったことが「(デジタル社会における)マーケティングの基本」として必要なマインドとスキルになってきているのであって、決して「デジタルツールをどう使いこなすか」なのではない。

 というふうに考えると、「デジタルマーケティング」の教育・講座は増えている一方で、「デジタル社会のマーケティング」の教育・講座はこれからもっと増える必要はあるし、自分でもやっていこうというように思う。

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