“冷たさ”を感じるテクノロジーでは、顧客の心を掴めない

鈴木康弘氏(以下、鈴木):みなさん、こんにちは。突然登場しましたが、私はデジタルシフトウェーブの鈴木と申します。今日は、藤井さん、永田さんと3人でディスカッションをさせていただきます。

与えていただいたテーマが、「顧客体験・顧客価値の向上のためのデジタル活用とは?」という、わかるようなわからないようなテーマで話をさせていただきたいと思います。今日はDXというテーマなので、実際にお二方から見たリテールDXの課題感についてお聞きしたいなと思うんですが、藤井さんからお話をうかがいます。

藤井保文氏(以下、藤井):ありがとうございます。本当に(基調講演での)永田さんのお話がおもしろ過ぎて、とにかく理想的なことをやっていらっしゃるなと思いました。

永田洋幸氏(以下、永田):ありがとうございます。

藤井:本当に恐縮しておりました。永田さんがお話されたことではあるんですが、課題として大きいのは、どうしてもDXのことになるとテクノロジーが起点になってしまうことです。私が中国に住んでいることもあって、いろいろな事例を見てきていますが、実証実験がたくさんされた結果、テクノロジードリブン過ぎるものは淘汰されていったなと思っているんですね。

例えば、ものすごくたくさん無人コンビニもできましたが、やっぱりすごく冷たい感じがしたり、カメラばっかりで気持ち悪い感じがするのか、どんどんなくなっていった。

もともとアリババさんがやっていたフーマー(盒馬鮮生)という事例もありますが、3キロ圏内だったら30分で(家に商品を)届けてくれたり、商品を選ぶ時にレシピを一緒に出してくれたりと、さっき永田さんがお話された「レトロフィット」という話にすごく近いと思っています。顧客体験でここを選んでもらえれば、やっぱり成長します。

顧客体験で行動がどんどん増えていくと、得られるデータも増えていき、さらに価値提供も上げられるというループ(が起きるん)だと思うんです。アドバイスさせていただく中で、ここがまず伝わらんというか(笑)、一番つらいところかなという感じがありますね。

現場から上がった、DX推進に対する反対の声

鈴木:なるほど。そうなんですよね。僕もDXのコンサルティングをやっているんですが、「DXはデジタルを活用した変革ですよ」「経営の変革であり、事業の変革、業務の変革なんですよ」と、いつも申し上げています。

思うんですが、変革って人がやるものなんですよね。そういう意味で、実は人が一番大事なんです。藤井さんにお話していただいたように、テクノロジーばかりを先行すると、だいたい失敗しますよね。トライアルホールディングスさんは、「小売がIT?」とみんなに言われていた時から(DX推進を)やられてたじゃないですか。

永田:そうですね。

鈴木:だから日本の小売業の中だと、1周、2周先を行ってるんじゃないかなと思います。

永田:ありがとうございます。

鈴木:ただそのぶん、いろんなご苦労があったんじゃないかなと。その過去を振り返りながら、小売業がDXを進める課題をお話いただければと思います。

永田:幸い、弊社には「流通を科学する」というビジョンがあったので、まだまだ他の小売さんに比べればそういった(DXを推進しやすい)ところがあったんです。ただやっぱり、昔は社内でもノイジーマイノリティ(​​声だけ大きい少数派)がゼロではなかったです。

「そんなにIT投資するぐらいだったら、もっと商品や現場(の改善)をやったほうがよかったんじゃないか?」という意見が、現場の一部であったのは否めないんですけれども。今回のDX CAMPじゃないですが、それを理解させるために、みんなで寝泊まりしながら「どうやったら流通を科学できるのか?」ということを話し合ってきたから、できたところがありますね。

鈴木:それはすごく感じています。

永田:みんなに理解してもらうのが、一番時間がかかったかなと思いますね。

トップ層が率先してやらなければ、DXは成功しない

鈴木:DXのもう1つの側面は、企業の風土変革だと思うんです。今おっしゃったように、小売業だけじゃないと思うんですが、ITを導入する時には、ITの専門会社に「よろしくね」と丸投げして終わっていた。

例えば、POSシステムを導入したり、経理のシステムを導入するレベルならそれでできていたけれど、IT自体がすべてのお客さんのコンタクトポイントでもあるし、業務を動かしているものなので、真剣に議論しなきゃいけないということですね。

先ほどもお話していたように、オープンにいろんな方々と話をするのはすごく大事だなと思うんです。

永田:ありがとうございます。

鈴木:勝手に「1周、2周進んでいる」と言っていますけれども。他の小売業を見て、何か感じることはありますか?

永田:他の小売業さんの話を聞くと、やはりみなさんから「DX専門部隊をどう作るべきか?」という話が出てくると思うんですよね。

鈴木:よく相談されます。

永田:そうですよね。そもそも私たちには(DX専門部隊が)あるから、わからないところもあるんですが、トップ直轄で持ってくれるか・持ってくれないのかは、非常に違いがあるところではないかと思いますね。

トップの方がDXに興味があって、予算も稟議も決めてもらえるという状態にならない限りは、いくらレイヤーが下の人たちが「DX」と言っても、上の人たちに邪魔されてしまうことがあるのかなとは感じてしまいます。

鈴木:そうですね。DXは企業の変革なので、トップが率先垂範でやらなければうまくいかないだろうなと思います。我々もいろんな会社をサポートさせていただく上で、必ずトップの方と話をさせていただいてます。「最新テクノロジー入れればうまくいくんじゃないか?」と勘違いされている経営者の方が多いので、そこはよく説得しますね。

号令は掛かったものの、予算も人員も割かれないという現実

鈴木:仮に経営者が(DX推進に)納得したとして、次に出る課題は何ですか? 藤井さん、どうぞ。

藤井:さっきの私の話に直結してくるんですが、意思決定されたけど、予算と人員が割かれていないことがけっこうあります。「やる」と言って大号令を掛けているのに、結局、新規事業を担当しているのが3人とか。

鈴木:ああ。

永田:よく、あるある。

藤井:あるあるですよね。大きい変革のはずなのに、大してお金も人間も割いていない。「これは意思決定なんだろうか?」ということはあるなと思います。

鈴木:けっこう言いますね。

(一同笑)

鈴木:そうそう。でも、よく見かけます。

藤井:そうなんですよね。トライアルホールディングスさんでやられていることも(同じですが)、実際にみんなで実地へ行って、ユーザーに使ってもらったり、テクノロジーの使い方から得るインサイトを喧々諤々やられていると思います。

さっきのお話も近くて。ユーザーの現場を見て、そこから学んで、新しいテクノロジーの使い方や体験を構築していくって、財産じゃないですか。

鈴木:そうなんですよ。

藤井:この財産を外注したり、そこに人員が割かれずに学ぶ人が少ないのは、もったいなさ過ぎる。

鈴木:そうなんですよね。大手の小売業さんもそうだけど、著名なコンサルティング会社に全部丸投げしちゃって、中に何も残らないというのをすごく見かけます。やっていることは、けっこう泥臭いじゃないですか。

永田:そうですね。もう、泥臭いことばっかり。

DX推進における「外部人材の登用」について

鈴木:最近とは言いながら、コロナ後にずいぶん各企業の意識が変わってきたなと思うんですよね。「DXを真剣にやらなきゃ。なかなか中には(人材が)いないので、人も採らなきゃ」と言っているんですが、ITを少し知っている人ばかりを採ってうまくいかない会社も多いと思うんですよ。

永田:なるほど。

鈴木:当然のことながら、外からも新しい風を入れてくることは必要だと思うんですが、永田さんの会社もけっこう外から人が来られていますよね。

永田:そうですね、やはり両軸ございます。新しいものづくり的なかたちで、今の(スマートショッピング)カートや(リテールAI)カメラの開発は、日本人だけじゃなく海外の人を入れているんです。

僕自身、メイドインジャパンのものづくりには限界があると思ってしまっていて、グローバルに対応できるものづくりをしたいので、グローバルメンバーを入れています。

一方で鈴木さんにおっしゃっていただいたように、現場に(DX人材を)導入するということは、現場のこともわかるエンジニアじゃないと絶対にできないので、結局いつもそこで摩擦が起きると思っているんですよね。

百歩譲って、コンサルティングを使うなら使うでぜんぜんいいとは思うんですが、現場のことをわかる人がちゃんとブリッジとしていない限りは、DXの浸透はなかなか難しいのではないかなと考えますね。

テクノロジー人材が「現場の業務」を通じて得る気づき

鈴木:小売業からも相談されますし、SIベンダーからも「DXの提案ができない」と相談されるんですよ。僕がエンジニアをやっていた80年代、90年代はコンピュータが高くて。納めて(パソコンが)動かなくなったらお客さん先へ行って、コンピュータを動かすんですが、動かないとお客さんに怒られるんですよ。

僕は小売業担当だったんですが、怒られないようにするために、「すみません。店番やります」「店卸を手伝います」とやっているうちに、業務を覚えていったんですよ。でも、テクノロジーがわかっている人が実際に業務をやると、いろんなことがわかるんですよね。

よくSIベンダーさんには、「現場で働いてみればいいのに」と言っています。逆に小売業側は、別にプログラミングできる必要はないけれども、「最新のテクノロジーって何?」「これを使ったら、何かおもしろいことができないか?」くらいの興味を持つべきだろうなと思っています。

トライアルさんのように、社内で環境を作るというのもあるし、日本は転職文化じゃないので、(他社と)うまくコラボしていくかたちもあるのかなと思うんですが、藤井さんはどう思われますか?

藤井:コラボレーションは必須なんじゃないかとは思いますね。逆に、トライアルさんのような仕組みや場を作られていると、そこにいろんな方々が乗ってくる。オンラインとオフライン、デジタルとリアル、両方とも得意って(いう会社は)あまりないんですよね。

鈴木:そうですね。

藤井:AmazonさんがWhole Foods Marketを買収する話があったことを考えると、オンラインのプレイヤーだけだとオフライン側が弱いので、こういうことになる。そう考えると、いかに一緒にやっていけるかは本当に重要なポイントだなと思いますね。

Walmartの本拠地、ベントンビルで得た学び

藤井:エコシステムを作るのか、アライアンスを組むのか、もしくはオープンイノベーションというかたちになっていくのか。オン・オフだったり、現場のインサイトともっと高いレイヤーのビジネスの観点、時代の潮流とかを全部混ぜ合わせていかないとうまくいかないのかなと思っています。トライアルさんは全部を持っている感じがして、すごいなと思っていますね。

鈴木:トライアルさんを見ていると、米国のWalmartがすごく進化していった過程にちょっと似ているかなと思うんです。

永田:ありがとうございます。

鈴木:やっぱり、ベンチマークされているんですか?

永田:そうですね。私自身もアメリカに住んでいましたし、数え切れないぐらいベントンビルを見に行ってはいろいろ実験して、また勉強して……ということをやってきました。

鈴木:さっきお話にもあった、「BtoBが大事だ」というのはすごくわかります。僕もベントンビルにうかがった時に、イノベーションセンターがあって。MicrosoftさんやOracleさんとかがみんな集まって、みんなでやっているイメージなんですよね。

永田:そうなんです。何気に知らないのが、メーカーさんもあそこにいるんですよね。

鈴木:そうそう。

永田:Coca-ColaさんやP&Gさんとか。彼らに話を聞くと、Walmartのトップが彼らの評価権限まで持っているんですよね。

藤井:(笑)。それ、すごいですね。

鈴木:わかるわかる。そうですよね。

永田:Coca-Colaの社員であっても、Walmartの売り場カテゴリマネジメントをやっていたり。言えないところもあると思うんですが、KrogerさんやWalgreensさんとか。日本とアメリカの生産性の違いは、メーカーさんも「本当に流通を良くしたい」ということで(現場に)しっかり入ったからこそ、Walmartの売り場は他の小売業に比べても圧倒的に強い。

鈴木:すごいですよね。

永田:こういうことが実現できたというのが、ベントンビルで非常に勉強できたなと思います。

業界横串でのデータ利用で生まれる、新たなコラボレーション

鈴木:例えば、業界や会社であったり、会社の中の組織もそうかもしれないけど、縦割りで来たものを横につなぐのがデジタルだと思っています。

永田:そうですよね。

鈴木:そういう意味では、「どうコラボレーションするのか」がすごく大事です。先ほど永田さんの話にあったのは、言ってみれば「サプライチェーンの部分を、デジタルによって新しいコラボのかたちを作っていこう」というテーマなのかなと思っているんですが、それをやられようとしているのがすごいなと思います。

永田:ありがとうございます。

鈴木:業界の垣根もなくなっていくんだろうなと思います。例えば小売業、外食、はたまた運輸業や金融業とか、このへんの壁もなくなって来ますよね、藤井さん。

藤井:そうだと思いますね。スマートシティの流れもありますし、街のデータ全体を使えたほうが、より豊かな体験や人間理解もできたりするので。スマートシティの中では、そこが考えられていることなのかなと思います。

それこそ、さっきも出てきたアリババのフーマー(盒馬鮮生)はすごいなと思って。あれほど大きい、かついろんなところに投資して提携先がたくさんあるので、1個の大きなエコシステムみたいになっているんです。

彼らはもともと中国の50パーセント以上のシェアのECを持っているので、どこに・どんな買い物をする人がいるか、中国全土で見えている状態なんです。「ここの3キロメートル圏内だったら、そんなに値段を気にせずに、品質を重視する(顧客が多い)「鮮度を重視する人が多くいるな」とか、そういうところに出店していったりするんです。

これはやっぱり、ECから得られたデータでスーパーの出店計画を立てるという話なので、業界横串でのデータ利用やエコシステム化ができると、こういう事例が生まれてくるんだなと思いますね。

データをオープンにすることで、新たな「マーケの種」が誕生する

鈴木:実際に、それを地で行かれているのがトライアルさんだと思うんですが、やっぱり(他業種と)オープンに会話をしているとおもしろいですか?

永田:そうですね。私たちもこれをやり始めたのは10年くらい前なんですが、「差別化していかなきゃいけない」という時に、私たちが共有できるのがデータだった。

今までオープンにしなかった、ID-POSデータや環境をオープンにすることによって、新しいマーケティングの種にしてほしいという思いから始めたのがそもそものきっかけだったので、データの共有をいかにするか。

先ほどお話しいただいたスマートシティの話だと、実は私たちも九州大学にデータを共有していて。大学病院からも「そもそも、患者が(病院に)来る前に食生活が良くなれば、こんなに患者は来ない」と。

鈴木:そうですよね。

永田:だから、流通さんがちゃんとデータで(病院に共有する)。かつ、将来は「こういったお客さんにこれを食べさせちゃダメだよ」ということまでできれば(いいなと思っています)。

「生きている人が長生きするため、健康であるための秘訣につながるようなこともデータとして共有してもらえませんか?」と言われたので、「是が非ともやって行きましょうよ」という話もあったんですよね。

鈴木:おもしろいですね。

永田:もちろん、クローズにするデータも大事かもしれませんが、オープンにすることで「いかに市場を作るか」という概念を作らないと、リテールDXは大きくならないなと強く感じますね。

いくらデータを眺めていても、答えは「現場」にしかない

鈴木:もう1個、最近よく聞かれるのがデータの活用です。「データサイエンティスト」と呼ばれる人や、データを一生懸命勉強している人に「どうやったら仮説を立てられますか?」と、相談されるんですよね。

藤井:よく聞く話ですね。

鈴木:すごく多くて、「何でそんなこと言うのかな?」と思ったんですが、小売業、商売、ビジネスそのものですよね。(データ活用には)2つの要素があると思っていて、データを見て傾向を見たりするのは一種の統計学ですよね。データを見て、何が起きているのかを見ていく。

もう1つ大切なのは、仮説を立てることだと思っています。仮説とは何だろう? と考えると、僕は心理学だと思うんですよ。まさに、人じゃないと考えられないこと。この両方が両輪になって、初めて効果が出てくると思っているんですね。

いくらデータを眺めていても、現場へ行ったほうが一瞬で空気感でわかることってあるじゃないですか。そういったことはどういうふうに教育されてますか? すっごく興味あるんですよ。

永田:「文化」ですよね。やはり答えは現場以外にはないので、データサイエンティストだろうとも、うちでは定期的に現場研修を入れていますね。特に若いうちは、全員レジに立たせるとか。

もちろん(スマートショッピング)カートもがんばっていますが、お客さまの行動をわからない限りは、お客さまが何を考えて・何を求めているかは絶対にわからないので、できるだけ現場に立つ機会を設けて進めていますね。

鈴木:僕らもいろいろDXのコンサルをやっているんですが、変わったアプローチをしていて。大手のピザ屋さん(のDXのコンサル)をやっているんですが、だいたい1週間くらいそこで働くんですよ。担当者はかなりピザを焼いていて、デリバリーがうまいです。

(一同笑)

永田:でもそうなると、どこのマンションが(注文が)多いのかとか、肌感覚で見えないデータを感じられますよね。

鈴木:そうですよね。特に僕らは外部で入っているので、結局は仲間意識(が大切)になってきます。(DX推進担当者が現場に行くことで)いろんな現場の課題を教えてくれるんです。そういうところが大事だったりしますよね。

日本のDXの未来はどうなる?

鈴木:「日本のDXはもうちょっと進まないとまずいんじゃないか?」と、最近思っているんです。最後に「日本のDXの将来」という話をしたいんですが、藤井さんはどうなると思いますぁ?

藤井:(笑)。ばくっと来ましたね。

鈴木:ばくっと行きます。

藤井:冒頭に申し上げたところが一番かなと思っています。経営者が意思決定をすることはあると思うんですが、仕切られたような構造変化や人員や予算の割け方をしているのが、本当に課題だなと思っています。

まず、大きくは投資配分の話が1個あるのと、私の専門でもあるユーザーエクスペリエンスとデータはセットなんです。

鈴木:そうなんですよね。

藤井:顧客の観察をすれば理解が深まるし、理解が深まったことによって仮説が立ち、仮設がデータから立証されたり、ぜんぜん違うことがわかったり。そうしたら、このデータを使ってさらに顧客体験を良くして、また観察が走り仮説が立ち……という、このループが回せることが一番重要かなと思ってます。ただ、ここはだんだん(日本企業も)気付いてきてくださっている気配を感じてはいるので。

鈴木:ちょっと力ないですね(笑)。

(一同笑)

藤井:「がんばってほしいな」というか、一緒にがんばりたいなと思ってはいます。

鈴木:そうですよね。

「DXをやらない=日本の将来の成長を大きく妨げる要因になる」

鈴木:特に米国にいらしたので詳しいかと思いますが、日本と欧米の感覚の違いはありますか?

永田:もう、僕からすれば恐怖ですよね。日本企業がDXをやらなければ、いずれGAFAMなりBATHなりが本気を出して、5兆円、10兆円とポンポンお金を出し、一気に日本の市場を(奪って)やろうと思えばできる。彼らが本気を出したらどうなるんだろうな? という恐怖でしかないと思うんですよね。

それこそ、商品も流通もそうです。ただでさえ私たちの日本の“お家芸”だったものが、全部メイドイングローバルになることを考えたら、日本のGDPの大半のシェアを占める大事なところが、気がついたら海外のものになってしまう。

「DXをやらない=日本の将来の成長を大きく妨げる要因になる」と、私たちは考えています。でもそれって、1社でやろうとしても絶対に無理だなと思います。

鈴木:そうだと思います。

永田:オープンイノベーションで、みなさんと一緒にDXをどんどん進めて市場を大きくして、日本のDXの参入障壁を高くすることによって、(海外企業が市場に)入ってこれないようにする。

かつ、「やはり日本のものはいい」という過去の事例を踏まえて、日本のリテールDXを他の海外に持っていけるようにしていかないといけないというのが、日本のDXを進めていくうえでの私たちの義務なのではないかなと思います。

鈴木:なるほど。コロナによって経営者の意識がずいぶん変わってきた感じがしますね。「やらなきゃ」「何をやったらいいかわからないけど、やらなきゃ」という意識が芽生えてきた。

経営者と中堅層それぞれの「DXの課題感」に対するギャップ

鈴木:例えば部長さん、執行役員といった方々が今日のメインの視聴者だとお聞きしていますが、この中堅の方々の動きはすごく大事になると思うんです。ここが未だに一歩踏み切れていないようにも見えるんですが、藤井さんはそう思いませんか?

藤井:データとしてあったんですが、経営者が感じているDXの課題と、部長層が感じているDXの課題感はまったく違うらしいですね。

鈴木:なるほど。

藤井:上の人たちは、やっぱり「どれくらいお金を掛けたらいいのか」「どれくらい人員を割けばいいのか」が気になっているんですが、中堅層の部長さんたちからすると、「オペレーションをちゃんと回していけるのか」「どういうことをやればいいのか」という、もっと具体的な課題に変わってきています。

同じことを実現しようとしているんだけど、そもそも課題意識がずれているので、結局ちぐはぐになってしまっている可能性はあるのかなと思っていますね。

鈴木:「DXを阻害する要因は中間管理職だ」と、違う調査で見ました。デジタルというわけのわからないものが出てきたことで、がんばって偉くなっている部長が「自分の地位が脅かされるんじゃないか?」というふうに感じてしまう。

永田:そうですよね。

鈴木:でも、さっき思ったんですが、確かにデジタルの部分では勉強しなきゃいけないんですけど、もう1つ(必要なこと)は仮説を立てる心理学。中堅の人たちは、現場の肌感覚が強いんですよね。その強みを持っているということを再認識していくと、実はDXにおいて中間層の人はすごくいい役割なのかなと思うんですが、実際にはどうですか?

永田:そうですね。間違いなく、中間層がボールを持って動かすのは事実です。今回聞いてくださる部長職の方々や、中堅の方が一番動くのは間違いないでしょうけど、「何に動けばいいかわからない」ということについて、「自分たちはそこだ」と考えてもらうしかないのかなと思いますね。

変化の激しいテクノロジーは「育てていく」もの

永田:私たちからすると、ぜひ私たちのブートキャンプに入っていただいたり、今回のようにDX CAMPさんなどに入っていただいて、みなさんでオープンイノベーションをやって話し合いをすることも重要だと思います。アメリカや中国を見に行って、「これだけ進んでいるんだ」という恐怖感を描かないと、とも思ったりしますね。

藤井:すごく思っているんですが、「DXはポンとできるもの」という、ウォーターフォール(開発)っぽい考え方になっちゃってんじゃないかなと思ってて。

永田:ああ、それはすごくありますね。絶対にスパイラル(開発)ですよね。

藤井:そうですよね。

永田:一歩一歩登っていかない限りは、使えるテクノロジーやツールはほとんど効果がないなと思っちゃいますし。

藤井:テクノロジーもどんどん変わっていくし、「育てていく」という感覚がないといけないんだろうなと思っています。今日もずっと「グロース」という言葉を言っていたんですが、グロースをさせていく感覚で、現場に立って創意工夫をやるというのが、これまでにやってきたことなんじゃないかという気もするので。

鈴木:そうですよ。

藤井:そこがうまくはまるといいなと思いますね。

鈴木:本当にそうなんですよね、「育てる」という感じだと思うんです。それはお客さんとの接点もまったく一緒で、お客さんとの関係を育てていくのも、デジタルがあるからできることだと思います。

(今日のイベントは)中間管理職の人もたくさん聞かれていると思うんですが、みなさんがボールを持っているんです。なので、ぜひ今日の話を機に変わっていただければなと思いますよね。

中堅層の動きが、DX推進のカギを握る

鈴木:ちなみに、中間管理職の人ってだいたい何歳くらいの人だと思いますか?

永田:僕のイメージだと、30代から40代。特に30代が動くのが一番大事なキーポイントかなと思いますね。

鈴木:(藤井さんも)一緒ですか?

藤井:実際には、40~50代かなという感じはします(笑)。

鈴木:なるほど。そこは微妙ですね。

永田:リアルはそうなんでしょうね。

藤井:そうですよね。30代の人たちをもっと登用する、とかはあるでしょうね。

鈴木:そうそう。

永田:そうですね。自分でできないものは、やってもらうことも大事なことかもしれませんし。

鈴木:その部分が変わっていくのは、すごく大事だと思います。でも、こうやってみなさんにお聞きいただいているので、「自分がボールを持っているんだ」「変わりたいな」と、1つでも思ってもらえるといいかなと思います。また相談があったら、いつでも聞きますので。

永田:何でも。

藤井:(笑)。もちろん。ぜひ。

鈴木:ぜひぜひ。Sansanを使ってオンラインで名刺交換しながら、いろいろ話をさせていただければと思います。ちょうど時間になりましたが、何か言い残したことありますか?

藤井:大丈夫です。

永田:楽しいお話をありがとうございます。

鈴木:大丈夫ですか? もっと時間があったほうがよかったですね。

藤井:(笑)。

鈴木:少しでもみなさんに伝わると幸いでございます。お二方、本日はありがとうございました。

永田:どうもありがとうございました。

藤井:ありがとうございました。