ビジネスパーソンには『To stop リスト』が必要「ビジネスパーソンには『To stop リスト』が必要」 Photo by Teppei Hori

DX化が当たり前になりつつある現在、各社ともデジタル人材の育成を加速させている。しかし、現実には「人が集まらない」「人材が定着しない」「社内での育成が難しい」という課題を抱えている企業が多いだろう。老舗の大手金融企業にCTO(最高技術責任者)として入社し、DX化の陣頭指揮を執る小野俊和氏に、このような課題にどのように取り組んでいるのか、そもそもなぜ今、デジタル人材が社内に必要なのか、小野氏が実践する「バイモーダル戦略」や「デジタル人材の3つのレイヤー」などの解説を交えてもらいつつ、詳細を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光 文・構成/奥田由意)

新旧の文化の対立が起こる
デジタル人材が定着しない

企業が苦悩する「デジタル人材の定着と育成」、金融老舗・クレディセゾンに入社したCTOの挑戦小野和俊(おの・かずとし)
クレディセゾン 取締役 兼 専務執行役員CTO 兼 CIO。1976年生まれ。小学4年生からプログラミングを開始。1999年、大学卒業後、サン・マイクロシステムズに入社。入社後まもなく米国本社においてJavaやXMLでの開発を経験し、2000年10月よりアプレッソ代表取締役に就任。エンジェル投資家から7億円の出資を得て、データ連携ソフト「DataSpider」を開発する。2013年、セゾン情報システムズによるアプレッソの株式取得に伴い、セゾン情報システムズに入社。2015年6月に取締役CTO就任、2016年4月に常務取締役CTO兼テクノベーションセンター長を務め、同社のデジタルトランスフォーメーションを牽引。2019年3月よりクレディセゾンCTOに就任。著書に『その仕事、全部やめてみよう』 Photo by Teppei Hori

――2021年9月にDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の一貫として、2024年までにデジタル人材を1000人規模に拡充すると発表されました。これは現在のデジタル人材150人(構成比3%)から1000人(構成比20%)ということで、社内の人材育成としてはとてつもない規模です。この計画の背景を教えて下さい。

小野和俊氏(以下略) 私は2019年3月にCTOに着任しましたが、当時、クレディセゾンは多くの企業と同じで、デジタル化する部分は外注して外の専門家に任せるという方針でした。

 しかし、いまや、社員が日々接する業務用システムや、お客様対応においても、社員全員がソフトウエアに触れる機会が爆発的に増えています。

 人々がソフトウエアに触れる面積が大きくなればなるほど、外注による動きの遅さが大きなダメージとなってしまいます。

 従業員接点と顧客接点の両面でソフトウエア領域が爆発的に拡大しているときに、「もし自分たちで直接手を下すことができれば、身軽に、早く、低いコストで改善できるのに」という機運が社内に出始めていました。

 実際にそれが改善できている会社と比べ、このままでは大きく差がついてしまいます。社内にDX人材がいないのはまずいということになり、結果的に、「自前で育成、採用しなければ」という流れになりました。

――もともとIT部門もお持ちだったのですよね。

 社内にはそれまでにもIT部門がありました。ただし、その役割は事業部門と外部ベンダーとの橋渡しに特化したものでした。

 具体的には、事業部門が新製品や新機能や新しいサービスを作ったり、新しく他社と提携したり、予算管理だったり、業法が変わったので対応したいなどというときに、そうした要望を外部のSIerに委託するため、システム特有の用語に翻訳し、ベンダーに伝えて見積もりを取るのが、おもな業務でした。

 IT部門自体がソフトウエアを作るわけではなかったので、今回、そのIT部門も含めて、自分たちでやりたいということになったのです。

――どのような困難がありましたか。

 2019年から3年、困難もいくつかのフェーズを経ています。

 最初は社内にソフトウエア開発を自分で行う人がいなかったので、システム開発のためにはどういう環境や機器が必要で、どのくらいお金がかかるのか、ということへの理解がありませんでした。

 ソフトウエア開発では、処理時間の待ち時間がもったいないので、ハイスペックなハードウェアを使うのが普通です。それを部門として会社に要求すると、「なぜ小野さんのチームだけ値段の高いPCが必要なの?」と言われたりしました。そのため、経営陣に一から説明する必要があったのです。

 もちろんその時点では、社内に成功体験も履歴もないので、それだけコストをかける価値があるのかどうかはわからない。予算を大きく動かすことができない、初期ゆえの課題というのがまず第一段階でした。

 第二段階として、デジタル人材の採用が難しい。なんとか採用できても、2〜3年で辞めてしまい、定着しないということがありました。文化が合わなくてデジタル人材が浮いてしまうということが、大きかった。

 大企業には、総合職的な常識があり、デジタル人材とは考え方が違うことも多い。重なるところはあるのですが、お互いに「こんなこともできないのか」と思ってしまう。相手の足りないところばかり見てしまい、それが文化の対立になってしまうんですね。これは、どのフェーズでも生じ得る問題だと思います。その調整が大変でした。

 ベンチャーなら、「デジタルではなかったものがデジタルになる」ということはなく、もともと設立時にデジタルの状態なので、そういうあつれきはない。歴史ある企業ほど、「Before デジタル」の遺産や常識が大きくてコンフリクトが起きやすいのです。

――元からある総合職の文化と、新しいデジタル人材の文化とで、コンフリクトを起こす場合に、「バイモーダル」が有効だとおっしゃっています