「“X”のないDX」が企業を破壊する?コンサルファーム代表が解説Photo:PIXTA

既に広く知れ渡っている「DX」は、「Digital(D)」の力により、企業や事業のあり方そのものを「Transformation(X:変革)」していくことだと言われている。それを成功に導くためには、日本企業の大半で根強く残る「昨日までの延長に、今日も明日もあるだろう」という前提からの卒業が必要だ。DXにおける世界企業の最先端事情について、数多くの欧州企業だけでなく、日本の大手企業からスタートアップ企業までを手掛けるコンサルティングファーム代表の筆者が解説する。(OXYGY 代表取締役/アジア・パシフィック代表パートナー 太田信之)

DXの真の意味合いは「変革」にあり

 音楽業界では、随分前からCD自体を見かけなくなった。写真用フィルムという製品は市場から姿を消し、普段使いのデジタルカメラの大半はスマートフォンに置き換わった。今日、電気や水道と同じ生活インフラとして、私たちの生活はインターネットを通じたデジタルの影響下にある。

 デジタルという技術を使い、生活者や顧客企業の真の要求により真摯(しんし)に応えることで価値を生み出そうとしてきた結果が、今の私たちの日常生活の隅々に見て取れる。この10年だけ見ても、私たちの生活や、その生活を支えている企業活動が大きく変わった。これからもその動きはさらに加速していく。

 このとき、トップマネジメントだけでなく、一人一人が考えて、自律的に行動するリーダーシップや、それを可能とする組織風土が重要になる。それがない状態で、中途半端なデジタル化に取り組むようでは、成功はおろかデジタルの力でむしろ企業自体を破壊してしまう。

日本企業の「過去の成功要因」が足かせに

 DXの大波は、今に始まったことではない。産業や業界という概念自体が変わりつつある中で、残念だが日本企業からは新しいビジネスモデルはおろか、世界に影響力を与えるような新しい製品やサービス自体が生み出されていない。

 Uberが生み出したのは、タクシー会社のライバルではない。そうでなければ、食品宅配事業のUber Eatsという、「タクシー会社の競合」からは考えられない新市場は生まれなかったはずだ。

 DXで実現しようとしているのは、人の生活や企業活動に対して、新しい価値を提供することだ。プロセスの自動化などの、効率面だけではない。

 事業そのものを生み出すという発想と行動は、日本や日本人が得意としてきた品質の作り込みや「カイゼン」では追いつかない領域に入ってきている。日本の過去の成功要因は、そのまま日本の成長の限界になって私たちの前に立ちはだかっている。

 企業のDXにおいて、多くの企業はD(デジタル化)にばかり注目しがちだが、DXで重要なのは、実はXのほうである。Xはトランスフォーメーション(=変革、改革)を意味しており、このXこそが、DXにおいて日本企業が求められていることなのである。

 では、これからの日本企業が求められているXとは、いったいどのようなものなのだろうか。