相互運用性の課題を解決
千野剛司さん(以下、千野) この対談ではWeb3やDAOが進むと、この世の中や人々の生活がどう変わるのかということを取り上げています。ただ、DAOといっても皆さん、想像がつかないと思うんですよ。その最前線で働いている渡辺創太さんにWeb3、DAOとは何かを聞きたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。
渡辺創太さん(以下、渡辺) 渡辺創太と申します。今、進めているプロジェクトはたくさんありますが、基本的にはWeb3の実現がミッションです。2019年に会社をつくりましたが、最初の2年間は「Web3? 何それ」みたいな感じで、何の風も吹いていませんでしたね。
千野 無風状態(笑)。
渡辺 でも、今はアメリカなどを中心に来ているWeb3の波にうまく乗れているかなと思ってます。僕は日本発のパブリックブロックチェーン(誰でも取引の承認に参加できるブロックチェーン)であるアスターネットワークをつくっています。
アスターネットワークとは、異なるブロックチェーンの相互接続(インターオペラビリティ)を目指すプロジェクトであるポルカドット(Polkadot)のパラチェーンとして、今年1月にメインネットローンチしたブロックチェーンです。パブリックブロックチェーンで解決すべき問題の一つが、インターオペラビリティ(相互運用性)がないことなんですね。つまり、ブロックチェーン同士はつながっていないんです。
例えば、インターネットってつながっていますよね。だから、日本とアメリカでも同時にコミュニケーションが取れる。でも、ブロックチェーン同士はまだつながっていない。ビットコイン、イーサリアム、ソラナ、アバランチなどレイヤー1のブロックチェーンがありますが、それらはトークンのブリッジはできても、ちゃんと仕組みとしてつながっていない。
我々はそこをシームレスにつなぐパブリックブロックチェーンをつくっていて、その上に、これから来るマルチチェーン時代の新しいDeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)といったユースケースをつくっていきたい。2022年1月にアスターネットワークをローンチして、現在の時価総額は1100億円くらい(取材時の2022年4月8日時点)。今後1兆円、2兆円以上を目指していきたいと考えています。
千野 渡辺さんのミッションはインターオペラビリティ問題の解決ですよね。インターネットと同じように、ブロックチェーン上でも国籍や国境に関係なく、いろんな人とコミュニケーションが取れる世の中を実現したいと。単にアプリケーションをつくっているだけではなく、かなり目線の高い事業ですよね。そんなプロジェクトに若き日本人がいると思うと頼もしい。チームは日本人だけじゃないですよね。今まさにダイバーシティのある組織を経営していらっしゃるんですよね。
渡辺 ダイバーシティしかないですね。
千野 どうやって仲間を集めたんですか。
渡辺 今、アスターのメンバーは30人ぐらいです。13カ国の国籍の人が14カ国に住んでいて、ヨーロッパに10人ぐらい、アジアに10人ぐらい、アメリカに6人ぐらいいます。アジアで緻密な戦略や数字的な部分、ヨーロッパで開発、アメリカでマーケティングをしています。僕は普段シンガポールにいるんですけど、シンガポールには2人しかいません。オフィスもフリーアドレスのデスクを1つ借りているだけで、家賃3万円です。
どうやってコミュニケーションを取っているんですか。また、人材の集め方は?
渡辺 僕は1カ月前もニューヨークに行っていました。今までもデンバー、シンガポール、ドバイ……のメンバーとはけっこう会っているほうですが、日本のメンバーのなかにはまだオンライン以外では会っていない人も多くいます。採用はエンジェリストという採用プラットフォームから応募してきてくれたり、カンファレンスで直接採用したりしています。メールをくれた人に僕が直接返信することもあります。こうした働き方は、僕にとっては当たり前ですが、日本では、直接会ったことのない人と働くのはまだ浸透していないですよね。
千野 日本は就活サイトに登録して、エントリーシートを書いて、面接して……という流れですからね。今、渡辺さんが目指しているのはDAOだと思うんですが、最初からDAOができるわけじゃない。そのプロジェクトを推進していくコアチームが今の状態ということですね。
シリコンバレーで就職できた理由とは
渡辺さんは大学卒業後、すぐにシリコンバレーに行ったのですか。もともとプログラミングができたのですか。
渡辺 プログラミングに興味はありましたけど、できません。僕はエンジニアじゃないです。英語も話せませんでした。
千野 なぜ、それでシリコンバレーに行こうと思ったのですか。
渡辺 よく本の例えを出すんですけど、「好きな本を選んでください」と言われたときに、1冊しか読んだことがないとそれしか選べないですよね。でも、100冊、1000冊、1万冊読んでいると違う。僕は大学生のときに何をしたらいいのか分からなかったので、バックパッカーでインドやロシアに行ったり、NPO団体に関わったりしていました。そこで貧しい子どもたちを見てショックを受け、どうにか世界を良くしたいと。
当時考えたのが、世界にインパクトを与えられるのは、政治家か、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベソスといったIT企業家だろうと。でも、インターネットを事業にするのはもう遅い。それならAIかブロックチェーンだなと思って、シリコンバレーに行きました。
千野 でも、エンジニアではない。英語もできない。どうやって職を得たのですか。
渡辺 もう、プライドを捨てました。アメリカにはビザの関係で1年しかいられないので、自分が帰ったらアメリカ人は誰も僕のことは覚えていないだろう、できることは全部やろうと思って、恥をかくことを恐れなかったですね。
「ブロックチェーンの今後」という資料を頑張って英語で100枚ほど書き、メールに添付して100社ぐらいに送りました。そうしたら、たまたま僕が行きたいと思っていたところから、「資料を見たよ」と返信があり、電話でミーティングをして、採用となりました。
インターンとして採用されたのですか。
渡辺 インターンです。ラッキーだったのは、その会社はスタンフォードの教授がやっていて。僕の上司がアメリカの「Forbes 30 Under 30」に選ばれるような女性でした。そういう人たちと一緒に働けて、視座が上がりました。
最初はどんな仕事を与えられたのですか。
渡辺 ほとんど雑用でした。「このプレゼンテーションを直して」「こんな資料を作って」というところから始まり、途中からはマーケティング戦略を見させてもらったり、「CEOが投資家と話すから、投資家に向けたプレゼンテーション作って」と言われたりしました。向こうはCEOもめちゃくちゃ働くので、最後にオフィスに残っているのがCEOと僕だけということもよくあり、そこでいろいろな話もできました。残業しまくっていましたね。
千野 それで仕事の内容もレベルアップしていったと。インターンは1年間ですか。
渡辺 半年後に社員になったのですが、当時はトランプ政権だったので、ビザが更新できず日本に帰国しないといけませんでした。でも、日本とシリコンバレーだと大きな時差があり、仕事も大変で。それで自分で起業しようと思いました。
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