ブロックチェーン(分散型台帳)技術を軸としたWeb3.0は、これまで米IT(情報技術)大手のGAFA(グーグル、アップル、旧フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)が牛耳ってきたWeb2.0の構造を変えるといわれる。そうした変化の中、新たな組織の運営形態として注目されるのが「DAO(ダオ、分散型自律組織)」だ。ブロックチェーン上で、特定のリーダーを設けずに意思決定を行うDAOは、従来の会社とは組織運営の在り方が大きく異なる。ビジネスとしての可能性はいまだ不透明だが、起業家や投資筋はその革新性に大きな期待を寄せている。

コミュニケーションツールを使って世界から集まった賛同者とDAO運営型店舗について議論を重ねる(写真:エリオット・アレキサンダー)
コミュニケーションツールを使って世界から集まった賛同者とDAO運営型店舗について議論を重ねる(写真:エリオット・アレキサンダー)

 ローマの聖堂を思わせるランドマークのサンフランシスコ市庁舎から徒歩5分。しゃれた衣料品店やカフェが並ぶヘイズバレー地区の一画に2022年5月中旬、開店の準備を進める雑貨店が一風変わったメッセージを掲げた。

 「ここはDAOで運営するお店です」――。

 店舗のドアには「店が独自に発行したNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を持つメンバーによる投票によって店の方針が決まる」と説明書きがある。掲示板にはカード状の白い枠があり、スマートフォンをかざすとウオレット(電子財布)のアプリでNFTが取得できるようになる。こうしてNFTを保有する者はこの店の方向性を決める議論や運営に参加できる仕組みだ。

DAO運営型店舗「DeStore(デイストア)」を手掛ける起業家の大東樹生氏
DAO運営型店舗「DeStore(デイストア)」を手掛ける起業家の大東樹生氏

 この店を手掛けるのはZ世代起業家である大東樹生氏(21)。NFTを活用した事業を展開する米Kinomis(キノミス)を立ち上げ、ベンチャーキャピタル(VC)や個人投資家から累計で約7000万円を集めた人物だ。「リアル店舗に触れ合いを求める人は多い。DAOを取り入れることで、かつてない強固なコミュニティーを持つ店舗を生み出せる」と大東氏は語る。

 DAOとはWeb3.0技術の軸となるブロックチェーン上で成立する組織の新しい形だ。参加者(ステークホルダー)はプログラミングやイベント運営など個人の能力で組織に貢献する。その報酬として現金や株の代わりに、ブロックチェーンのトークンが提供される。投資家としてトークンを購入しても良い。

 つまり、DAOは同じ目的を持った実務者と暗号資産投資家の集まりのような組織と言える。

DAOには「非中央集権」で意思決定をする、パーミッションレス(管理者の許可なし)で情報を参照できる、誰でも希望があれば参加できるといった特徴がある
DAOには「非中央集権」で意思決定をする、パーミッションレス(管理者の許可なし)で情報を参照できる、誰でも希望があれば参加できるといった特徴がある
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 DAOに参加するトークン保有者は誰でもプロジェクトの運用方針に意見でき、管理者の許可なく情報を参照することも可能だ。プロジェクトに改善すべき点があれば、参加者がボトムアップで提案。投票によって優先順位を決めて改善を重ねる。全てが合議制で決まるフラットな組織なのだ。

 大東氏は、消費者をリアル店舗に向かわせる仕掛けとしてDAOを活用する。準備しているのは衣料品や雑貨を扱う小売店だが「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが独自のコミュニティーを形成し、顧客とのつながりで販売を伸ばしていく時代。店舗もDAOでのつながりによる帰属意識を生み出せば価値が高まる、という考えに行き着いた」(大東氏)と言う。

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