日本に到来した第3次サウナブーム。新型コロナウイルス禍という逆風がありながらも、全国各地でサウナ施設の新設が相次ぎ、老若男女を問わず人々が「ととのう」感覚を味わいに集う。ヤフーの親会社であるZホールディングス(HD)のトップを務める川邊健太郎氏は、サウナ愛好家として知られ、千葉県館山市に構える自宅にも本格的なサウナを整備している。サウナは「リセット&リラックスの場だ」と力説する。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する可能性もあります
(1)コロナ禍で苦境の宴会場、「オマケ」のサウナに集う若者が救う
(2)「ととのう」ってどういう状態? 今どきのサウナ基礎知識
(3)バスもテントも、「SaaS」でサウナもモバイルの時代
(4)下町銭湯をリバイバル、元プロレスラーが熱波 個性派サウナで蘇る
(5)JINSは本社に設置へ ビジネス研ぎ澄ますサウナ、5つの効能
(6)氷結湖や鍾乳洞を水風呂に サウナで街おこし 地域経済はととのうか
(7)ZHDの川邊社長「あなたはサウナなしで生きていけるほど幸せか」(今回)
(8)サウナ付きホテルの雄ドーミーイン、「宿泊外」にこそ商機あり
(9)「サウナ大国」フィンランドの文化に学ぶ(フィンランド紀行1)
(10)営業利益率26% サウナストーブ世界首位企業の実力(フィンランド紀行2)
(11)フィンランドのサウナストーブ世界首位「ハルビア」CEOインタビュー
(12)憧れの自宅サウナ、実際の費用はおいくら?
(13)おじさんの憩いの場、新橋「アスティル」の今
(14)日本のサウナ業界の先導役METOSが説く「文化が市場をつくる」
(15)サウニスト・小説家 浅田次郎氏インタビュー「サウナは人生の『余白』をつくる」

川邊健太郎(かわべ・けんたろう)氏 Zホールディングス社長
川邊健太郎(かわべ・けんたろう)氏 Zホールディングス社長
青山学院大学在学中の1996年にスタートアップ企業「電脳隊」を設立。2000年ヤフー(現・ZHD)入社。12年に副社長兼COO(最高執行責任者)、18年からヤフー社長兼CEO(最高経営責任者)。19年のZHDへの社名変更後はZHD・ヤフー社長兼CEO。衣料品通販「ゾゾタウン」運営のZOZO(ゾゾ)の買収や、LINEとZHDの統合などで中心的な役割を果たした。22年3月末でヤフーの社長職を退任し、4月以降はZHD社長職に専念。47歳。

いつごろからサウナが好きなんでしょうか。

ZHD・川邊健太郎社長(以下、川邊氏):小学1年の時ですね。

早い。もう「40年選手」じゃないですか。

川邊氏:通っていた小学校が水泳の教育に熱心で、1年中水泳の授業があったんですよ。温水プールがあったのですがそれでも冬は寒くて、子どもたちが風邪を引いてしまう。なのでプールにサウナが併設されていたんです。水泳の授業が終わった後に20~30人ずつくらいサウナに入って。そこで初めてサウナを体験して、確かに暖かいし、良いものだなと。

 あと小学生の頃の友人のお父さんが東京・小岩の方でサウナを経営していたんです。そこにもよく遊びに行って、大人に混じってサウナに入っていました。その後もサウナには親しんできましたが、小学生の時ほどではありませんでしたね。再び頻繁にサウナに行き出したのは会社を興したばかりでハードに働いていた22~23歳くらいの頃です。気分を変える場として通い始めました。

仕事の疲れをサウナで癒やそうと。

川邊氏:昔は、取引先と話していてサウナが好きということであれば一緒に入りに行く、なんてこともありましたけどね。基本的には仕事を一生懸命やった後、リセットするというか、1回仕事のことを忘れてリラックスしようと思ってサウナに入ることが今も昔も多いです。

仕事上のアイデアを研ぎ澄ます場としてサウナを使う人もいますよね。

川邊氏:80度とか90度の灼熱(しゃくねつ)の中であれこれ考えても良いアイデアなんて思いつかないでしょう(笑)。余計なことは考えず、サウナそのものを楽しんで、そして水風呂、外気浴なども通してリラックスするようにしています。

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5分サウナ、5分クールダウンを3回

いつものルーティンは。

川邊氏:5分サウナに入って、5分水風呂と外気浴でクールダウンするという流れを3回くらい繰り返す感じです。

一度で30分くらいサウナに費やすということですね。その前後には普通の入浴も楽しむと思うのですが、日々忙しく働く中でその時間をどう確保しているのでしょうか。

川邊氏:僕、風呂も好きなんです。温泉とかだけでなく、日常の半身浴とかも好きで。加えて「活字中毒」と言っていいくらい読書も好き。大抵の本は風呂とサウナで読んでいますね。それが生活のリズムをつくり出すというか。忙しくて風呂に入って本を読む時間もない、というよりは忙しい中でもその時間をしっかり確保しておく、というイメージです。

読書は仕事のためですか。それとも純粋に趣味として楽しんでいるのでしょうか。

川邊氏:純粋に好奇心を満たせるという意味で読書が好きなんです。そして風呂、サウナも純粋に好き。

それが1日の活力になっていると。

川邊氏:はい。1日始まる時と終わる時、朝晩2回入ることが多いですね。少なくとも1回は入るようにしています。

それだけ頻繁に入れるのも自宅にサウナがあってこそですよね。そもそもなぜサウナを自宅に設けようという発想になったのでしょうか。

妻にせがんだ「サウナストーブ」

川邊氏は千葉県館山市にある自宅にサウナを整備した
川邊氏は千葉県館山市にある自宅にサウナを整備した

川邊氏:10年ほど前に千葉県館山市へ移り住んで、それからどんどん思いつくままに自宅の機能を拡張しているんです。

 そんな中、結婚をしまして、妻に指輪を贈った。妻は指輪なり時計なりをお返ししようかと言ってきたのですが、僕は金属アレルギーなので指輪はあまり身につけられない。スマートフォンが普及してからは時計をつける習慣もなくなった。指輪も時計もいらない、でも一生使えて、しかも日々もらってうれしいと思える何かがほしい。そこで思いついたのがサウナストーブでした。サウナ室は自分で造るから、サウナストーブを指輪のお返しとしてプレゼントしてくれないかとお願いしたんです。

自宅にサウナを設けてからは、サウナは自宅で楽しむことが多いのでしょうか。

川邊氏:外でも入りますけどね。仕事の都合などで東京に泊まることも多いので、そこでサウナに入ることもあります。旅行先でもサウナがあれば入ります。年末に家族旅行で「リゾナーレトマム」(北海道占冠村にある星野リゾートが運営する宿泊施設)に行ったのですが、各部屋にサウナが付いていたんです。1日に5回くらい入っちゃいましたよ。

川邊さんにとっての人生最高のサウナはどこですか?

川邊氏:やっぱり自宅に造ったサウナでしょうか。これまで散々入ってきた経験を生かして工夫を凝らしたので、最高です。

 サウナは本来ウエットな(湿度が高い)ものなんですよね。ただ商用のサウナはメンテナンスのしやすさからか、(湿度が低い)ドライサウナが多い。うちのはサウナストーブも水を自由にかけられるものを買いました。

 ウエットなので温度をそこまで上げなくても十分に汗をかける。そしてサウナ室は海の目の前なので景色がいいんですよ。そして水風呂代わりに海へ飛び込む。「世界最大の水風呂」がコンセプトです。おかげで通年、海を楽しめるようにもなりました。

サウナがあることで余計に館山という立地の良さを楽しめているわけですね。

川邊氏:夜、海に漂っていると月がきれいに見えるんです。満月のときには月見しながら水風呂を楽しむ、みたいな。最高です。

チームワークを育む場に

自宅にビジネスパートナーを呼んで一緒にサウナに入る、みたいなことはあまりしないのでしょうか。

川邊氏:自宅は先ほども話した通り、サウナだけでなく、バーベキューやキャンプファイアができるスペースを設けるなど拡張し続けています。その前提にあるのは仲間を呼んで楽しめる場をつくりたい、ということです。社員同士での合宿で使ったこともあります。2015年に実施したスマートフォン版「Yahoo! JAPAN」トップページのタイムライン化を検討し始めた時の最初のアイデア出しをうちでやったことが印象に残っていますね。

 あとはベンチャー企業の20代の経営者を自宅に集めて、年に1回、あるボードゲームの大会をやっているのですが、ゲームに興じた後はみんなでサウナに入ります。経営者仲間が自宅へ遊びにきて、バーベキューしたり、海で遊んだり、サウナに入ったり、なんてことも。自宅にサウナができたことで、みんなで遊んだり、チームワークを育んだりする場としての充実度が増すというか、機能が高まっているとは思います。

サウナが人と人の距離をより近づけているわけですね。

川邊氏:何かを一緒に体験することがいいんでしょう。それは釣りでも何でもいいと思いますが、サウナはその時々のドラマがありますよね。耐えられるだけ入って、水風呂が苦手な人が声を上げながら入るとか。その後で体を拭くと、体内から温まる感覚がして気持ちいいとか。苦しいことも楽しいことも一緒に体験できるという点で、サウナは人と仲良くなったり、チームワークを育んだりするには有効なツールだと思います。

サウナで仕事の話は…

サウナで深まった仲が仕事に生きた、というような経験はありますか。

川邊氏:やっぱり一緒に入った相手とは仲良くなりますし、価値観も共有できる。普段会うときも「またサウナに行こう」なんて話ができる。長い目で見ればサウナは仕事に生きていると思います。

 ただ未上場のベンチャーの経営者たちが仕事の話をサウナでする分にはいいと思いますけど、上場企業の情報(に関わる話)はインサイダー取引の温床になり得ます。(様々な人がいる)サウナではそういう話をしない方がいい。最近はサウナブームでいろんな人がサウナに行くようになったので、サウナのマナーの一環として「上場企業に勤めるサウナーは仕事の話をサウナでするな」というのは定着させたいですね。

 そういう意味で、僕も商談に近いような会話をサウナですることはないです。一緒に行った人が仕事の話をし始めても止めるくらい、その点は気をつけています。せっかくのサウナが楽しくなくなってしまいますしね。リラックスしたり、仲良くなったりするためにサウナに来ているわけですから。仕事の話をサウナでするのはコンプライアンス(法令順守)的にも、サウナの楽しみ方を踏まえてもあまりよろしくないでしょう。

ヤフーは居住地の自由化や週休3日制の一部導入など、自由な働き方を打ち出しています。川邊さんが忙しい中でもサウナに日々入る時間を確保しているように、ある程度の余裕がないと仕事もうまくいかないという考えからなのでしょうか。

川邊氏:気分を変えることは仕事においてすごく重要ですよね。特に今はオンライン会議などが連続して、気分が切り替えられないままずるずるといってしまう、なんてことがよくあるでしょう。そんなときにパッとリラックスできる自分なりの何かがあるといいと思います。

 家にサウナがあれば昼休み中にササッと入るとか。そんなことはリモートワークが浸透する前は絶対できなかった。でも今の時代だからこそのメリットは大いに活用すべきです。

 気分が変われば、仕事に前向きな気持ちになれます。例えば19年にZHDはZOZOを子会社化しましたが、その交渉がなかなかハードで……。そんなときに自宅でサウナに入って気分を切り替えて「よし、やり切ろう」と館山の海に誓った、なんてこともありました。

仕事を進める上での雑念を振り払う場になっているんですね。

川邊氏:ビジネスパーソンは普通、いろんなものの板挟みになって苦労します。だから、気分転換できる場をつくっておかないといけない。経営者のように様々なプレッシャーがかかり続ける人は特にそうです。

 私にとってはそれがサウナなんです。サウナがリセット&リラックスの場になっている。「あなたはサウナがなくても仕事で成果を出せるくらい幸せな環境にいるんですか」と聞きたい。どんな人にもそういう場は必要でしょう。

若者の酒離れがサウナブームの背景に?

サウナでなくてもいいけれど、リセットとリラックスできる場は誰しもが持っておくべきだということですね。

川邊氏:そういうことです。自分なりのそういう場をつくっておきたい。特にサウナは体を使うので、リセット&リラックスをする場としての効果は高いのではないかと思っています。

なぜ今、サウナがここまで盛り上がっていると分析していますか。

川邊氏:若い人がお酒を飲まなくなってきていますよね。お酒もまた有効な親睦のツールで、リセットとリラックスの手段の一つでもあります。でも飲まない人が増えてきた結果、サウナがその代替手段になっているという側面はあると思います。

 あとはモノ消費からコト消費へ、という流れがある中でサウナは一回一回がドラマチックです。熱くて、冷たくて、と苦しいことをして、それを乗り越えるといわゆる「ととのう」と言われているような感覚を味わえる。そして終わった後はみんなで「オロポ」(大塚製薬の「オロナミンC」を「ポカリスエット」で割った、サウナ好きに人気のドリンク)を飲む、みたいな。体験型の消費行動です。温泉は遠出しないとなかなか楽しめませんが、サウナなら近場で楽しめます。

1人で入っていても、体調によってサウナに入り続けられる時間が短くなったり長くなったりと変化がありますよね。そうした日々の変化を感じられる場が身近にあることに多くの人が気付き始めた。

川邊氏:最近は本当にブームになっていると実感します。「最近よくサウナに入るんです」と僕に話しかけてくる人も増えました。「あんなに気持ちいいものがあるなんて知らなかった」なんてことを言ってくる人もいます。まあでも、お風呂が嫌いな日本人ってあまりいないですよね。身近にあったものなのに多くの人は(その魅力を)知らなかった、でもついに見つかった、ということなのではないでしょうか。

川邊さんにとって「ととのう」とはどんな感覚でしょうか。

川邊氏:つらいこと(サウナや水風呂)を耐え、その後に訪れる体の芯から湧き上がるようなリラックス効果、といったところでしょうか。他にない感覚ですよね。マッサージが終わった後の感覚に少し似ている気はしますが、体験してみるしかないですね。

サウナに入っている間はつらい、という感覚は「ベテラン」の川邊さんにもあるんですね。

川邊氏:熱いなあ、つらいなあとは思ってますよ。でもこれがいいんです。日本は(温度が高くないと汗をかきづらい)ドライサウナが多いので、その熱さに尻込みする人も多いとは思いますが、ウエットなサウナなら70~80度でも十分汗をかけて、その分つらさは軽減されると思います。

 先ほども言いましたけど、大変なことやつらいことが多いこの世の中で、それをリセットしたりリラックスしたりしないで生きていけるほど、幸せな環境にいる人はそういないはずです。皆さんも一度サウナを体験してみると良いのではないでしょうか。

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